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自分流塾「終わりよければすべてよし」 Posted on 2023/08/24 辻 仁成 作家 パリ

ぼくはいつも、最後だけは、きちんと決めてやろうと決意して、生きている。
それだけは強く心掛けて生きている。
とにかく、フィニッシュが決まれば、それまでが帳消しになる、と信じているのだ。
帳消しどころか、大逆転も可能なのだ。
つまり、未来は過去が作ってきたものだし、過去も未来が作るのだ。
変な言い方に聞こえるかもしれないが、ちょっと、聞いてほしい。
過去の自分が最低だとしても、未来を頑張ってその未来をやり遂げると、ダメダメだった過去は、結果、そういう時期だったんだな、ということになり、後世、持ち上がってくるのである。
もっと言えば、決して諦めないで頑張り続けたら、最悪だった人生も一変する、ということだ。
終わり方こそが、実は最も大切なことなのである。
終わった時にしか、出ない結果、というものがある。
人間、みんな、
終わりよければすべてよし、という言葉にたどり着く。

自分流塾「終わりよければすべてよし」



「終わりよければ全てよし」
これはシェークスピアの戯曲「All’s Well,That Ends Well」に由来する。
多少のミスが過程にあったとしても、結果がよければ評価されてよし、というニュアンスを含んでいる。
The end crowns all. ということだ。
「結果オーライ」に似ている。
「結果オーライ」は、中身はよくなかったけど、なんとか勝ったね、と喜んでいるだけの言葉で、過程はこの際ちょっと忘れようじゃないか。
しかし、「終わりよければ全てよし」にはもう少し、過程に対して後悔や不満や残念を抱いている。
やるべきことをやって、周到な準備をした人間が真剣に挑んで出した結果に対して言うべき言葉かもしれない。
しかし、やるだけやったんだ、過程での多少のミスはもはや問題じゃない。
よくやった。結果がすべてを物語っている、という感じ・・・。うんうん。
少しだけ、未来へ希望を繋いでいる終わり方かもしれない。

自分流塾「終わりよければすべてよし」



一方、日本には「人事を尽くして天命を待つ」という言い方がある。
やるべきことを全てやりつくし、あとは運命を天に任せるだけ、という心境だが、思えば我が人生、いまだこれの連続なのである。
がっかりすることの方が圧倒的に多い。
ま、今自分がやれることだけに全力を尽くす、というのは簡単そうで簡単ではない。
いい結果は発表できるが、実は発表できない結果の方が圧倒的に多いのだから。
運を天に任せることの不条理。しかも人事を尽くした上で、・・・。
なんて残酷な言葉であろう。
人としてやれることをし尽くさなければ天命を待っちゃいけないだなんて、表現者としてはなんとも緊張させられる言葉である。

自分流塾「終わりよければすべてよし」



これに対して、結果より過程が大事、という言い方もある。
ちょっときれいごとに感じる、あるいは、負け惜しみっぽい言葉だが、しかし、これが時に大事になる。
子育てはまさにこれの連続と言っていい。
むしろ結果などない人生もあり、その場合、過程が全てを語る。
こういう時に、過程こそがその人の生きる礎となる。

スポーツなどの場合は過程が大事だとわかっていても、結果が全てだったりする。
金メダルじゃないとならない人にとって銀メダルは価値がないこともわからないではない。
けれども、みんながみんな一番になることなんかできやしない。
逆を言えば、その人なりの人生における金メダルを見つけられたらそれがベスト。
あらゆる人間にとって大事なことは生きることをおろそかにしないということであろう。
過程をきちんと積みあげたものには必ずそれだけの結果がついてくるということ。
幸福の形は様々なのだから、人に結果を押し付けるものでもない。
一人一人が自分の結果を見つけられることが大事だ。
結果より過程が大事、という言葉は、ベストを尽くした人間にとっての真実となる。
その結果に負けない過程を持った人間が結果に左右されることなく人生に屹立する。
足腰の弱い勝利もたくさんあるということをこの言葉は言い含んでいる。
勝負事は知らんが、そもそも人生において、勝ち負けだけが全てではない。

あらゆることを経験し尽くした人間がその最期の時に「私はけっこうよく生きたんじゃないかな」とちょっと自負できたなら、それに勝る結果はない。
 

自分流塾「終わりよければすべてよし」

自分流×帝京大学



posted by 辻 仁成

辻 仁成

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Hitonari Tsuji
作家。パリ在住。1989年に「ピアニシモ」ですばる文学賞を受賞、1997年には「海峡の光」で芥川賞を受賞。1999年に「白仏」でフランスの代表的な文学賞「フェミナ賞・外国小説賞」を日本人として唯一受賞。ミュージシャン、映画監督、演出家など文学以外の分野にも幅広く活動。Design Stories主宰。