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自分流塾「敵を味方にしてこその勝利です」 Posted on 2021/04/26 辻 仁成 作家 パリ
人生における一番気を付けないとならない敵は「あなたのためを思って言うのよ」的なおせっかいな人たちからのアドバイスだ。
「死に物狂いでやれば絶対出来る」とか「恐れる前に行動だ」とか「びびってんじゃねーよ。命がけでやりなさい」「清水の舞台から飛び降りる気持ちでやれ」というような発言を鵜呑みにしてはいけない。
だいたい、清水の舞台から飛び降りたら、ほとんどの人が死んでしまう。
そんな恐ろしいことを平気で語る人間を信じちゃいけない。
やる気をそぐようなことは言いたくないけれど、世の中というのは非常におせっかいな人たちで構成された集合体であり、見回せば自分を棚にあげて人をけしかけてくる先輩たちがばかり。
だから、とくに新人の人たちは、周囲に振り回されることなく、これまでの自分のリズムを信じて、多少、世の中に後れを取っても、慌てずマイペースで、何より自分らしく、楽しんで進んでもらいたい。
自分らしさを遺憾なく発揮させるためには、しかし一方で、周囲の人間関係がきちんと整っておく必要もあるので、敵を作りすぎないことは大事だ。
そういう懸念のある人は、用心しながらちょっとずつ自分をさらけ出していくのがいい・・・。
最初から全開で自分をさらけ出す必要なんてない。
自分らしさを出すためには、マイペースであることも大事だけれど、面倒くさい周囲の連中たちの中で、自分の基盤をしっかりと構築することにある。
どこにでも面倒くさいおかしな人はいるので、そういう人が周りにいる場合は、あえて、「いたいた」「いるいる」と認定していくのがいい。
地雷の位置がわかれば前進は難しくないけれど、地雷を踏んだら一巻の終わり。
地雷の場所を確認して、生きる上での迂回術も学んでいくこと。
それでも、敵というのは場所を選ばず、どこからでも出現する。
その学校なり会社を即辞められるなら、敵から逃亡すればいいのだけど、そうもいかない場合、ぼくは敵の懐に飛び込んだりもする。
ぼくが若いころに編みだした言葉にこういうのがある。
「敵を味方にしてこその勝利です」
親の仇じゃない限り、たいていの場合、このやり方を心得ておくと、問題が深刻にならないで済む。
ようはおまじないのような言葉である。
「敵を味方にしてこその勝利です」と三度唱えてから苦手な相手と向きあってみたらいい。
この人を味方にできたら、俺の人間性がワンランク上がるんだ、と自分に言い聞かせるのも手だ。
実際、ぼくは本当に苦手だった先輩にこの方法で挑み、認められ、最終的に好かれたことがあった。
結果、その人にある日「すまなかった」と謝られた。
「いいんですよ。やめてください。今後ともご指導ご鞭撻のほどよろしくです」と相手をたてたので、今ではその人はぼくの一番の味方だ。
全員にこうしろということじゃなく、改善の可能性がある相手には、同時に人を認めるキャパシティもありそうなら、そこはお互い譲り合えば理解しあえることで、そうなればいらぬ摩擦は不要になるし、ついでに、生きることが楽になる。
ただし、人格を否定してくるような人間だとわかったら、徹底的に戦おう。
やっていいよ。スルーしてもいいよ。自分のプライドを守る意味で・・・。
なにより、人間関係というのはいくつになっても、人生を邪魔してくる一番の壁なので、そこを上手に乗り越えてける術を見つけていくことが大事だ、という話しである。
新入生、新社会人が世に飛び出す時期だから、あえて今日はこういうお話しをさせてもらったけれど、最後に、年長者でも、年下でも、仲間でも、自分のことをリスペクトしてくれる人と行動を共にすることをおススメしたい。
自分を認めてくれる存在が一人いるだけでこの殺伐とした世界が変わる。
posted by 辻 仁成
辻 仁成
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作家。パリ在住。1989年に「ピアニシモ」ですばる文学賞を受賞、1997年には「海峡の光」で芥川賞を受賞。1999年に「白仏」でフランスの代表的な文学賞「フェミナ賞・外国小説賞」を日本人として唯一受賞。ミュージシャン、映画監督、演出家など文学以外の分野にも幅広く活動。Design Stories主宰。