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自分流塾「良く考えてみると、楽になる」 Posted on 2023/08/04 辻 仁成 作家 パリ
良く考えてみると、楽になる。
たとえば、誹謗中傷を受けることが生きているとままあるわけだが、とくに、ぼくなんかは、しょっちゅう明後日の方角から矢が飛んでくるのだけれど、けっこう、どうやってこの矢を無視していくのか、が生きる上で大事だったりしてきた。
ぼくのような誹謗中傷に慣れっこになっている愚かな人間でさえも、時々、悔しい、と思うわけだから、普通に清く正しく生きている人が、SNSで攻撃されたら、それは傷つくだろうな、と思う。
SNSもいろいろとあって、イーロン・マスクさんが買収したツイッターは、ぼくもやっているが、タイムラインを眺めると、なぜか、他者への攻撃や批判で溢れている。
他人を否定するものが多く、読んでいると、ちょっと辛くなる。
中には当然正論もあるのだけれど、言論の自由はわかるが、正論であっても、批判的正論を一日中クールに見ていたい、とぼくは思わなくなってきた。
メタさんがスレッドというのを始めたというので、移ろうか迷ったが、結局、変わらないのじゃないか、と思って、様子をみている。
ぼくはインスタもやっているのだけれど、こっちは、どっちかというと幸せになりたい願望がある人が、美しい世界や美味しい料理を投稿する方が主流で、これはこれである種の虚構世界をなしており、願望が勝利しているような場所で、西部劇のセットのごとく、見えている綺麗な世界だけを映した理想郷のようなものだったりする。
もちろん、ここでも、コメント欄には多少の(巧妙な)誹謗中傷もあるけれど、ツイッターよりは少ない気がする。
つまり、人は他人のことに首を突っ込みたいのである。
それは自分を正当化させるために、人を批判して、優越に浸りたいがためにであろう。
この優越はけれども、よくわからない。
匿名で、背後から矢を打つような発言で、なぜ、すっきりするのか、ぼくにはわからないけれど、よく考えてみてほしい、この連中はあなたの人生の近くにいないも同然なのだ。
銀河系とアンドロメダ星雲くらい離れた場所で、罵倒しているようなものだと思えばいい。
会ったこともない人で、何も知らないのに、言葉尻のあげ足をとって、優越に浸っている宇宙人に頭を抱えるのは実におかしいことではないか。
SNSのこの手の誹謗中傷によって、命を失くす善良な人がいる方が悲しい。アンドロメダの悪口大好き星人によって尊い命が奪われているのに、これはある種の集団リンチのようなものなのに、今の世の中ではまかり通っている、不思議である。
なのだから、よく考えてみてほしい、苦しむ必要なんてないのだ。
なぜなら、それはあなたの人生にほぼ関係のない人たちの暴言だからである。
何光年も先からの悪口なのだから・・・。
先日、清水さんという方の家に行ったら、テレビがなかった。
テレビ観ないんですか、と訊いたら、まったく観ません、と言い切った。
ぼくは現実的にフランスで生きているので日本のテレビのことは知らないが、芸能番組みたいなところでぼくはたまに叩かれるので、関係したいという気持ちにはならない。
今はノルマンディで暮らしているので、何も聞こえてこない。
清水さんも山梨県の山の中で暮らしているので、見ざる聞かざる言わざる、なのだそうだ。
つまり、世俗から離れれば傷つくことは減るということである。
その渦の中に飛び込んで行けば、必ず、巻き込まれる。
世俗がアンドロメダだとするなら、自分の銀河を作って、そこで生きたらいい。
そして、同じような穏やかな人たちは必ずいるので、その人たちと静かにわきあいあい暮らしていたらいいのである。
清水さんは森をずっと眺めて、静かに、微笑んでいた。
ぼくもそうなりたい。
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posted by 辻 仁成
辻 仁成
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作家。パリ在住。1989年に「ピアニシモ」ですばる文学賞を受賞、1997年には「海峡の光」で芥川賞を受賞。1999年に「白仏」でフランスの代表的な文学賞「フェミナ賞・外国小説賞」を日本人として唯一受賞。ミュージシャン、映画監督、演出家など文学以外の分野にも幅広く活動。Design Stories主宰。