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自分流塾「オリジナリティってどうやって獲得するの?」 Posted on 2021/08/06 辻 仁成 作家 パリ

よく「オリジナリティ」という言葉を聞きます。
あらゆる業種で、或いは創作で、料理の世界でも、オリジナリティが大事、と誰かが言います。
彗星のごとく登場したバンドの音楽についてある音楽評論家が「オリジナリティ溢れるサウンドです」というそのオリジナリティというものは、じゃあ、どうやって生まれるのか、どうやってオリジナリティを産み出すのか、産み出されるのか、考えてみましょう。
辞書などを見ると、「世間並みではない独自の新しさまたは独自の考え方や活動能力」と出てきますが、独創的なものを持ったもの、行動ということでしょう。
しかし、それは簡単ではありません。

自分流塾「オリジナリティってどうやって獲得するの?」



たとえば、ここにギタリストがいます。
彼のプレイを誰もが「オリジナリティがある」と評価します。
しかし、彼はみんなと同じギターを使っているのです。どの時点でオリジナリティが生まれたのか、が気になります。
彼が買ったギターは普通のもので、彼は最初に誰かにギターを習いました。
その人から教えられ、それから好きなアーティストの曲をコピーしていろいろな技術を習得していきます。
ここまではまさに習うことと模倣です。
ところが、ある瞬間、閃き、気が付き、彼はそれまで、誰も弾かなかった方法でギターを演奏するようになり、他の人が思いつかなかった運指の弾き方を編み出し、それで曲を作り、非常に独創的な作品を世に出すようになっていくのです。
この時点で、彼は「オリジナリティのある人」になっています。
習得と模倣だけで終わるのが当たり前、しかし、そこを突き抜けた時に「オリジナリティ」が出現するということです。
これは文学でも、映画でも、全部一緒。
なぜなら、おぎゃあ、と生まれた瞬間からギターを弾ける人間はいません。
ともかく、それでもある程度の習得が必ず通過しなければならない段階としてあります。



なので、そのオリジナリティは、コピーした様々な技術を彼が組み合わせて、自分流の演奏方法を習得した結果かもしれないし、習った演奏方法だけでは飽き足らず、例えばギターを棒で叩いて演奏するようになったら面白かったので、それをきわめて棒弾きのギタリストになるとか、そういう独創的なものを内側から産み出した場合に生まれるもの、スタイルなのでしょう。
学んだことを超えられず、教えてくれた人のその範囲の中で優等生になっても、その人にオリジナリティがあるとは言えないでしょう。
それは成績のいい人ということになります。
出世をするには必要なキャリアにはなるでしょうが、その人が起業して、どこにもないようないビジネスのスタイルを作れるかどうかは、度胸とオリジナリティ次第。
習ったことはあくまで一つのステップ&経験&基礎、程度に考え、その先へ踏み出すことがオリジナリティを獲得するファーストステップになるでしょう。
オリジナリティのないものは永遠に模倣でしかないからです。



オリジナリティを引き出すには、習得した経験や知識を新しいものに変換させる発想や、工夫や、努力や、創造性が大事になります。
しかし、何よりも大事なことは、習得したものを超えたいと思う強い可能性です。
文学学校で優秀な生徒でも、いい点数だけでは何も新しいことが出来ないのと一緒です。
貧しくまともな教育を受けられなかった人で世界的な作家になった人もいます。
それはギタリストでも、画家でも、経営者でも、同じです。
ある意味、習得は卵の中での出来ごとかもしれません。
オリジナリティとは卵の殻を破って、外に出ることであり、そこで成長し、いずれ、大空へ飛び出すこと。
コピーをし過ぎて、自分の中に偉大な先輩を抱えすぎると、そこから飛び出すことはできなくなります。
生意気な言い方ですが、先人はあくまで目安にすぎません。
習った概念などは古いものだから、自分はどんどん新しいものを生み出していこう、と卒業の時に思っていられるかどうかで、独創者になるかどうか、わかれると思います。
そして、独創的であるためには人と違うことをしないとならないので、孤独ですし、不安でもありますす。
そこにはあなたを導く先生はもういないからです。

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辻 仁成

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Hitonari Tsuji
作家。パリ在住。1989年に「ピアニシモ」ですばる文学賞を受賞、1997年には「海峡の光」で芥川賞を受賞。1999年に「白仏」でフランスの代表的な文学賞「フェミナ賞・外国小説賞」を日本人として唯一受賞。ミュージシャン、映画監督、演出家など文学以外の分野にも幅広く活動。Design Stories主宰。