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自分流塾「将来のことで悩む息子に、風来坊パパが伝えた大事な人生設計」 Posted on 2025/02/28 辻 仁成 作家 パリ

ぼくの息子が大学卒業後の進路で悩んでいる。
話しがしたい、とやって来たので、ぼくはこのようなことを語った。
・・・
長い人生だからというが、実際は逆で、人生などは短いものだ。
ある意味で、人の一生というものは「一時的」な「限定的」なもの。すなわち、永遠に継続するものでもあるまいし、と考えれば、この世界の捉え方も変わってくる。
大事なことは、自分の人生をどう生きるか、どう納得するか、ということに尽きる。
そこでぼくはある頃から、この一生を「長いもの」と捉えず「一時的なもの」と考え、だったら、右往左往してもしょうがない、と開き直ることにした。
若い頃から、その考え方を徹底して生きてきたので、給料はもちろんボーナスさえも頂いたことがないが、楽しい人生を生きることだけは出来ている。
どうせ、一時的な人生だから、窮屈な計画の中に自分を閉じ込めるようなことはせず、精一杯、やってやろう。
人生設計というもの通りに人生を歩ける人などめったにいない。もしかすると、どこかにいるかもしれないけれど、ぼくはそういう人に会ったことがない。
絵に描いたような出世街道を歩き、大往生をした人がいたとしても、そのようなことはみんなが真似できるものでもないから、ぼくはぼくなり、自分の人生は一時的だと考え、好きなことを好きなだけやりきることに専念してきた。
この生き方において、大事なこと、つまり、最初に決めることは、「後悔をしない人生を生きる」ということだった。
「しょうがない。ふりかえるな」
と自分に言い続けてやってきた。
どの道を選ぶ時にも、大事なことは、後悔だけはしない道を選ぶ、ということだった。
だから、後悔はしたことがない。

自分流塾「将来のことで悩む息子に、風来坊パパが伝えた大事な人生設計」



ぼくが言いたいことはつまり、好きなことを好きなだけやって、ふりかえらず、どんどん前進していけばいいんじゃないか、ということだ。
大学のあと、君がどう生きたいか、それは人生設計通りにはいかないものだから、やりたいことを思う存分やればいいんじゃないか、というアドバイスしかできない。
人間は一時的にこの世に生かされ、それぞれの人生という道を歩かされる。
世界情勢や様々な問題によってその人生は翻弄させられる。でも、一番愚かなことは「後悔」をすることだ。後悔さえなければ、人生は結構、楽しいものになるだろう。
社会に出るにあたって、ぼくが君に言えることは、一つしかない。
限りある人生を限りなく生きるために、好きなことに命をかけて日々を楽しく、突き進むに限る、ということだ。
後悔さえしなければ、人生はそこそこ素晴らしいものになるだろう。
人間なんて、そういうものでよいのだ、と思って、この一時期を、精一杯、生きるべし。
不思議なことだが、なんとかなる。
不安を覚えて心を痛めて日々を暗く生きるよりも、この一時期を楽しんでやろうと決意し、一生懸命向き合えば、つまり、なんとかなる、のが人生だったりする。
でも、とことん、やるのがいい。
パパは君が考える将来に一切反対はしない。
君は後悔をしないと、自分の中で決めて挑めばいい。
一時的な人生、くよくよしてもしょうがない。

自分流塾「将来のことで悩む息子に、風来坊パパが伝えた大事な人生設計」

自分流×帝京大学



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Hitonari Tsuji
作家。パリ在住。1989年に「ピアニシモ」ですばる文学賞を受賞、1997年には「海峡の光」で芥川賞を受賞。1999年に「白仏」でフランスの代表的な文学賞「フェミナ賞・外国小説賞」を日本人として唯一受賞。ミュージシャン、映画監督、演出家など文学以外の分野にも幅広く活動。Design Stories主宰。