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滞仏日記「この瞬間もこの世界を崩壊させないために働く医療従事者の方々への感謝」 Posted on 2021/01/14 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、パリ郊外の病院につとめる医療従事者の方から、自分が勤める病院の病床が満床になった、というメッセージを貰った。
新型コロナの猛威が続く英国やインドや南米やアメリカ、世界中の国や地域の病院はどこも大変だろう、と想像しては胸を痛めている。
ぼくの知り合いの看護師さんたちはみんな感染を覚悟して任務にあたっている。
あまりフランスでは聞かないことだけれど、知り合いの日本の医療従事者の人が「差別にあっている」というメールをくださったこともあった。「やめたい」という人もいた。
3月、フランスがロックダウンになった時、隣国イタリアやスペインの医療崩壊はすさまじかった。
辛うじて、フランスは崩壊の手前でぎりぎり食い止めたが、医療従事者の皆さんのそれこそ命がけの従事があったからこその今がある。
しかし、この厳しい感染拡大がいつ終わってくれるのか、一番気を揉んでいるいるのは、病院で働いてくださっている方々であり、その家族の皆さんであろう。
そこに加えて心無い人たちからの差別まで受けているようでは、この先、誰が病院というコロナ戦争における最前線を守れるのか、と思ってしまう。
本当に医療従事者の皆さんには心からお礼を言いたい。

滞仏日記「この瞬間もこの世界を崩壊させないために働く医療従事者の方々への感謝」



思い返すと、去年の3月、4月のロックダウンの時、フランスの人々は毎晩、20時に窓をあけて、医療従事者の皆さんに向けて拍手を送り続けた。
イタリアから始まった運動だった。
その輪はフランスだけじゃなく、欧州各地へと広がった。
知り合いのシェフたちは、店が開けられないというのに、温かい料理をつくり、病院へ配達した。
フランス在住の多くの日本人シェフたちもこの運動に参加した。
自分たちも店を開けられないというのに、材料を自費で買い、しかもBENTOボックスに料理を詰め込んで、配達までやったのだ。
でも、二度目のロックダウンの時には、この善意ある行動が出来なくなるほど、人々の心のそして経済の余裕までもが奪われ、疲弊しきっていた。
こんなに長く、このような世界が続くとは料理業界の人たちも思っていなかった。
感染原因が飲食店にあるという理由で、店をずっと開けられない状態が続き、さすがのシェフたちも医療従事者に負けないくらい厳しい状態に追い込まれ、倒産店も増えた。
何より、20時の拍手もなくなってしまったのだ。
それでも、コロナ軍の侵攻は続き、容赦がない。
英国では昨日、わずか24時間で1500人以上の人が亡くなっている。
アメリカは一日で5000人近い人がこの世を去った。
ワクチンが開発されたが、全人類に行き届くまでにまだまだ時間がかかるし、変異していくウイルスにあわせてワクチンを改良していかないとならない。
Covid-19は地上から消えないだろう、と言われており、医学がウイルスをどれだけ抑え込めるかにかかって来る。
やはりこの戦争はまだまだ続くことになるのだ。

滞仏日記「この瞬間もこの世界を崩壊させないために働く医療従事者の方々への感謝」

一昨日、帝京大学病院の関係者から、このような写真が届けられた。
「附属病院の上層階の病棟職員が気づきました。目頭が熱くなる、素晴らしい出来事で、お伝えしたく、写真を送らせて頂きます。感動しました。ありがたいことです。辻さんもコロナに気をつけてください」

滞仏日記「この瞬間もこの世界を崩壊させないために働く医療従事者の方々への感謝」

滞仏日記「この瞬間もこの世界を崩壊させないために働く医療従事者の方々への感謝」

※ 校庭には、ありがとう、の文字が!!!

大学病院に隣接する加賀中学校の生徒や先生たちが話し合って決めたことだそうだ。
上層階で働く看護師さんが発見したのかもしれないが、驚かれたことであろう。
想像をするとぼくも目頭が熱くなった。
人間というのは、こうやって、ごく当然のこととして、励ましあっていくことが大事だと思う。
子供たちの、そして先生たちの思いが、日々、コロナなどのために頑張る医療従事者の皆さんの、少なからず心の気休めにもなっている。
加賀中学校の皆さんの思いやりと優しい行動に、本当に、心を打たれた。
パリで暮らすぼくも、いつもコロナ病棟のある病院の前を通る時には手を合わせるようにしている。
この瞬間、どこかで頑張っている医療従事者の方がいるからこそ、世界は持ちこたえているのだ。
そして、自分はだからこそ罹らないように、最大限の注意と努力をしなきゃならない、と思っている。

滞仏日記「この瞬間もこの世界を崩壊させないために働く医療従事者の方々への感謝」



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posted by 辻 仁成

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Hitonari Tsuji
作家。パリ在住。1989年に「ピアニシモ」ですばる文学賞を受賞、1997年には「海峡の光」で芥川賞を受賞。1999年に「白仏」でフランスの代表的な文学賞「フェミナ賞・外国小説賞」を日本人として唯一受賞。ミュージシャン、映画監督、演出家など文学以外の分野にも幅広く活動。Design Stories主宰。