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自分流塾「何歳まで学ぶことが出来るか」 Posted on 2025/04/05 辻 仁成 作家 パリ
人間は何歳まで学ぶことが出来ますか、とぼくより少し若いお父さんから質問を受けた。
何歳まで?
ぼくは即座に、死ぬまで、学べますよ、とお答えした。
「学び」にきっと終わりはない。
もっと知りたい、今まで知らなかった何かを会得したい、と思う気持ちが、実は人間を日々生かしている。
どうやって「学ぶのか」?
それは、人それぞれだと思うが、学ぼうと好奇心を持ち続けることが大事だと思う。
学ぶことのできる場所は無限にある。
何かをはじめれば、当然、学ばないとならないことがくっついて来る。
学びたい。
この欲求に終わりはない。
自分を少しでも成長させて、知らない領域で自分の可能性を試してみたい、と思えば、人生はもっと楽しくなる。
人生100年の時代になった。
60歳で引退をした人はなんと40年もの歳月が残っている。
その40年をぼんやりと過ごすのは残酷なことだ。
何か、目標が必要になる。
「学びのある人生」こそが、その答えだ。
ぼくは作家だが、一度作家になったなら、小説道に終わりはない。
25歳でしか書けない小説もあったし、35歳でしか書けない小説もあった。
そして、65歳だからこそ書くことが出来る小説も存在する。
25歳の時の小説と65歳の時の小説の違いが何か、説明するのは難しいが、25歳は勢いで書くことが出来た。
65歳にもなると、用心深くなるし、世の中を知ってしまったせいもあって、昔みたいにバンバン、迂闊に発表できなくなった。
ぼくは自分のコピーだけはしない、ことを最初に決めた。だから作品は毎回、テーマが異なるものとなった。
今までとは違う作品をうみだすために、もっともっと学んで、もっともっと用心深くならなければならない。
同時に、経験を積むこと、そこから学び取ったものが作品に深みを与えること、を知った。
若さは失うが、学び続けていれば、より深みのある到達点を発見することもできるようになる。たぶん・・・。
もちろん、そのゴールは、死ぬまでわからないものだが、学んでいる過程こそが、実は、人生の醍醐味だと言える。
長い人生の折り返し地点から、人間は人生を逆転させることが出来るんじゃないか、とぼくはぼくより少し若いお父さんに言ったのだ。
たしかに、とその人は笑顔で、頷いていた。
posted by 辻 仁成
辻 仁成
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作家。パリ在住。1989年に「ピアニシモ」ですばる文学賞を受賞、1997年には「海峡の光」で芥川賞を受賞。1999年に「白仏」でフランスの代表的な文学賞「フェミナ賞・外国小説賞」を日本人として唯一受賞。ミュージシャン、映画監督、演出家など文学以外の分野にも幅広く活動。Design Stories主宰。