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自分流塾「バランスを保って、し過ぎないことが、穏やかに生きる上で大事なコツ」 Posted on 2024/10/26 辻 仁成 作家 パリ

我慢や期待をしてはいけない。そのことについて執拗に説いてきた。
けれども、人間だから、期待するのは当然だし、我慢するのもいたしかたない。
悪口や陰口を非難してきた。でも、ほとんどの人が何気なく人の批判や悪口をする。
長く生きているときれいごとでは解決できない問題にぶつかるものだ。
そういう不条理な場面に出くわすと、どんなにできた人間であろうと自分を肯定し、他者を批判するようになる。
悪口とは言えないまでもうっすら悪口は適度なガス抜きになっている。
それは仕方がない。
むしろ、気を付けたいのは「し過ぎる」ということである。

自分流塾「バランスを保って、し過ぎないことが、穏やかに生きる上で大事なコツ」



「我慢し過ぎる」「期待し過ぎる」
し過ぎることで人間はストレスがたまっていく。
期待はしてもいいから、し過ぎちゃいけない。
時々、適度な我慢も必要だが、我慢し過ぎちゃいけない、ということである。
悪口は極力言わない方がいいけれど、その感情が怒りや憎しみに替わる前に、ガス抜きをしておくのが賢明である。
たまにはこっそり、悪口もしょうがない、くらいにしておくと、心が楽になる。
感情が迸るのは人間なのだ、当然である。悪い言葉を言った後に、ま、これくらい仕方がないな、お互い様だ、と思って、それ以上は言わなければよい。
すべてはバランスなのだ。それが生きるということだからである。
「もう、本当に、うちの息子ったら自分勝手でダメな奴なんですよ」
こう不満を漏らしておけば、次に息子と会う時に、ちょっと申し訳なくなって、許せたりする。しかし、我慢をし続けると人間、必ず爆発を起こしてしまう。
怒りに替わる前に小出しにエネルギーを放出するというのは大事だ。
自分のことをもっと知っていくと、上手にガス抜きが出来るようになる。ここでガスを抜いておこうと、調整が出来るようになる。
正義感が強すぎてもいけない。世の中、きれいごとだけでは動かない、と自分に言い聞かせ、弱い自分を許してあげることも大事なのだ、ということである。

自分流塾「バランスを保って、し過ぎないことが、穏やかに生きる上で大事なコツ」



かくいうぼくは、陰口は言わないことにしているが、悪口は好きかもしれない。
信頼できる人に、ぼくの中の愚痴を聞いてもらえるか、と最初にお断りをしてから、まくしたてるように、「あいつは本当にけしからんのです。朝は挨拶もしないし、パパのことを小バカにしているし、周囲のママ友にまでぼくの悪口を言うし、マジ、ダメな息子なんですよ」と伝えるのだ。
相手は信頼できる人間であることが大事である。ぼくの怒りが収まると、
「もう、納得しましたか?」
と言ってくれたりするとなお素晴らしい。
「はい、ありがとうござました。すっきりしました」
これでぼくは息子と再び仲良く向き合えるのである。
私たちは仙人にはなれない。
普通の人間なので、時々、ガス抜きをして、自分を許しながら、この厳しい世界を渡り切っていこうではないか。

自分流塾「バランスを保って、し過ぎないことが、穏やかに生きる上で大事なコツ」



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辻 仁成

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Hitonari Tsuji
作家。パリ在住。1989年に「ピアニシモ」ですばる文学賞を受賞、1997年には「海峡の光」で芥川賞を受賞。1999年に「白仏」でフランスの代表的な文学賞「フェミナ賞・外国小説賞」を日本人として唯一受賞。ミュージシャン、映画監督、演出家など文学以外の分野にも幅広く活動。Design Stories主宰。