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自分流塾「世界を変えたいと思うなら、まず、自分の生き方を少し変えてみる」 Posted on 2021/11/25 辻 仁成 作家 パリ
自分流という考え方をぼくもずっと大事に持って生きてきた。
人間は生まれて、この世に命を与えられ、こうやって荒波を乗り越えながら生きているあいだに、だんだん、自分が出来ていき、趣向が現れ、好みが生まれてきて、生き方も独特のものとなり、つまり、あらゆる人がすでに持っているものが自分流ということなのである。
けれども、灯台が自分を照らすことができないように、人間はなかなか本当の自分を客観的に見つめることができない。
そこで、自分が今一つわからず、いらいらすることや、うまくいかないことが生じてくる。
自分探し、という言葉があるけれど、自分を知り、自分の内部を探検し、自分の輪郭が理解できた時、人間は、この世界とも、和解できるのじゃないか、とぼくは考えた。
そうやって、ぼくは十代のころに自分探しの旅に出たのである。
その旅は次第に到達しようとしているけれど、それでも、まだ、未知数の自分もいて、なかなかに面白い。
一つの作品が出来上がると、毎回、こんなことをぼくは考えているんだ、と驚かされる始末である。
人間というのはそれほどに、興味の尽きない生き物なのである。
つまり、自分が、78億以上ものこの世界に、関係しているということ自体が、もはや、ミステリーなのである。
ぼくの苦悩は、この世界と自分との折り合いであった。
なかなか、うまく、この世界とアクセプトできずに、長い年月を過ごしてきた。
世界を変えたいと生意気に思ったこともあったけれど、今は、少し変化した。
「世界とは何か」
こう自分に、問いかけているうちに、つまり、そのヒントが自分の中にあることに気づいた、のである・・・。
もし、世界を変えたいと思うのなら、まずは自分が変わる、ことが先かもしれない。
このように、世界は78億もの他人の集まりだから世界を変えたいという考え方だけでは世界は変わらない。
まず他者と自分との関係を変えるためにも、まず自分自身が今までの自分を改める必要がある。
ぼくはある時、他人に頼ることをやめた。
結果として他人に頼るのは仕方がないことだけど、頭から他人に依存しているようではこの世界は変わらない。
世界というのはそういうものだと思う。
社会が悪いとか、世界が腐ってるとか、文句を言うのは、責任を他人に押し付けているようなもので、批判だけじゃ世界なんか変わらない。
それじゃ、いつまでも何も変わらないだろう。
そもそも、世界を変えたいというのは、他人を変えたいということだから、ひどい話じゃないか・・・。
世界が絶滅を目指すのであればそれは世界が決めたこと。
それが嫌ならばまず自分が変わるしかない、ということである。
ぼくの歌に、「コトノハナ」という曲がある。
「自分が変われば出会う人が変わる」という歌詞にはそういう決意が込められている。
ものすごくシンプルな話で、自分のことは自分でする、ということだ。
自分のことは自分ですると決めるだけでも、そうとうに生きることが楽になる。
他人に期待をして、そもそも、いい思いをしたことがない。
期待が実らなかった時の、他人を恨んでいる自分が嫌いだ。
他人というのは自分じゃない。
どの他人が人のことを自分のことのように親身になってやってくれるだろう。
他人は他人だという考え方は冷たい考え方じゃない。
生きることの厳しさをしっかりと持った大人の考え方だと思う。
他人に頼んだ時点から、他人に隷属し苦しくなる。これが人生の鉄則である。
何かを他人に期待し、ゆだねて、待った瞬間から、自分は他人に属してしまい、他人に振り回されることになる。
なんで返事が来ないのだろう?
なんで結果が出ないのだろう?
とひたすら待つ側になっていく。
それが他人に頼るということ。
それをやめると人生は楽になる。
ならば、自分でやろう、と思って動き出すことが大事だ。
それだけで世界は変わる。
そうだ、世界はきっと変わる。
世界というのは、ぼくの都合とは関係のないルールで動いている、他人の領域なのだ、と考えるといい。
ならば自分でやらなければと思う時、その世界が自分の域と交わる。
自分が考え方を変えて、頑張って物事に取り組みだせば、その周囲の世界が影響を受けて動き始める。
他人に頼るのではなく、自分でやろうと決意するだけでも意識が変わる。
自分の都合を他人に押し付けないことも大事かもしれない。
他人に頼らない、と心の中で呟き続けるだけでも、自分の人生は整頓されていく。
そうすると不思議なことに冷徹だった他人も変化し、ものごとに流れが生じ、関わり方がシンプルになる。
結果、世界が変わったように見えてくる。
何事も、まず、自分でやってみる。
他人というのは、思わぬ時に助けてくれたりする。
それは他人に期待をしない時にやってくる。
助けてくれ助けてくれと頼んでばかりいる人には冷静なのが他人という世界なのである。
つづく。
posted by 辻 仁成
辻 仁成
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作家。パリ在住。1989年に「ピアニシモ」ですばる文学賞を受賞、1997年には「海峡の光」で芥川賞を受賞。1999年に「白仏」でフランスの代表的な文学賞「フェミナ賞・外国小説賞」を日本人として唯一受賞。ミュージシャン、映画監督、演出家など文学以外の分野にも幅広く活動。Design Stories主宰。