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自分流塾「人生が停滞しそうな時に、その停滞から脱出する方法」 Posted on 2024/09/04 辻 仁成 作家 パリ
生きていると、落ちこんだりやる気が出たり、死にたくなったり生きたくなったり、動けなくなったり行動的になったり、好きになったり嫌いになったり、いろいろと行きつ戻りつがある。
人生はママならないものなので、思い通りにならないと人間は、落ちこんだり、動けなくなったり、死にたくなったりするものだ。
調子のいい時と悪い時が交互に押し寄せてくる。
そこで、ぼくはある時から、夢を列車にたとえて、夢を見る時は必ず、2,3本の夢を同時に走らせておけ、と自分に言い聞かせるようになった。
一つの夢が暗礁に乗り上げることはよくあることで、そういう時、その夢と一緒に撃沈しないために、である。
人生というのは長いレースだから、なんでもかんでも短期決戦で勝負してはいけない。
人間だから調子のいい時もあるし、調子が出ない時もある。一つの夢が全てだとその夢が実現しなければ、ぼくも終わる。
あの手この手で、乗り越えろ作戦である。
※ 蛸を焼いていたら、警報機が作動し、それは耳をつんざくほどのバカでかい音で、三四郎が吠えながら逃げ回るし、どうしていいのかわからないでいると、セコムみたいなフランスの警備会社から電話があり、火災か、と訊かれたので、蛸、と答えて、ことなきを、得た。
でも、マジで、火事だったことを考えると、セキュリティ会社の存在は安心である。
もちろん、いろんなことに手を付けなさいというわけではない。
大事なのは負の連鎖につかまって、夢を描けなくなることは避けたい。
勝負とか成功とかお金とか栄誉とか、そういうものから遠いところに、自分の聖域のような夢を持っておく。
これはとっても大事なことだ。
昨日は、取り組んでいた大作の絵が、思わぬ方向にずれてしまい、頓挫した。
しかも、長年、取り組んできた小説が暗礁に乗り上げ、今、停滞中なのだ。
そういう時に、一緒になって停滞していても意味がない。
なので、ぼくはクラシックのギターの練習に没頭することで、絵や小説から一時期離れることになった。
思えば、コロナの時期、モーリス・ラベルの「ボレロ」を弾けるようになるのは、コロナの大流行で家から出られなくなったのが、きっかけであった。
そういえば、その頃は他に何もできなくて、ばんばん、料理を作ってSNSで配信をしていたのだった。
こういうことは大きな気分転換になる。
そのうち、小説の筆が再び進むようになったし、コロナもあけた。
次へ向かう夢の力で、この停滞を乗り切るしかないから、まずはぼく自身がダメにならないために、新しい創作、次の世界へと向かっている。
そのために、補助エンジンみたいなものを、ちゃんと持っている。
仕事や夢以外に、人生を傾けることのできる楽しい何かを持っておくのはいい。
趣味でもいい、勉強でもいい。何かの資格を目指すでもいい!
苦しい時、停滞している時、人間は、楽しいものに逃避するのも手なのだ。
一つの夢がダメな時に、新しいレールを敷いて、新しい夢列車を走らせていくことで、停滞を回避することが出来たりするのも、事実だ。
夢の二段構え、三段構え、夢の御重箱、夢の五重の塔計画なのである。
とにかく、ネガティブになることがよくない。そこでぼくはもっぱら日常に逃げた。
夢が実現できにくい時代になったので、遠くの夢を描かず、毎日の生活の安定化に努めている。
ぼくは料理が大好きだから、そこは手っ取り早い逃げ場ということになる。
ぼくは美味しいごはんを作ることで、美味しいはエネルギーを呼び、エネルギーを再生させる。
おかげで、日々の創作&生きる気力を維持している。
いくつものレールの上を走る列車を乗り換えながら、生きる気力のバランスをとりながら、美味しいごはんを創作し、がんばっている。
たまにやってくる、息子とテーブルを挟み、ここ最近のことを話す。しかし、そこにはささやかながら、大事なことがある。
感動や笑いや愛がある。
「おいしいだろ?」
「うん、おいしい。作り方教えてね」
「がってんだ!」
そのうちそこから、新しい希望の芽が吹き、いつかそれは大樹に育つのである。
どんなに停滞している時であろうと、日々をコツコツと生きることの大切さが、逆に、ぼくを停滞から掬いあげているのである。
さて、今度のラジオは、明日、5日の日本時間22時からになります。父ちゃんのマシンガントーク、炸裂しますよー。和やかな時間をお過ごしください。
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※ パリの初個展も近づきつつあります!!!!
posted by 辻 仁成
辻 仁成
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作家。パリ在住。1989年に「ピアニシモ」ですばる文学賞を受賞、1997年には「海峡の光」で芥川賞を受賞。1999年に「白仏」でフランスの代表的な文学賞「フェミナ賞・外国小説賞」を日本人として唯一受賞。ミュージシャン、映画監督、演出家など文学以外の分野にも幅広く活動。Design Stories主宰。