地球カレッジ DS EDUCATION
自分流塾「思い切って何かを変えてみる」 Posted on 2024/06/07 辻 仁成 作家 パリ
人生が停滞することは、ままある。
そのような時、ぼくは日常の中の何かを少し動かすようにしている。
食生活をちょっと変えてみたり、お酒をやめてみたり、朝、運動はじめたり、人間関係を変えたり、引っ越したり、何かちょっと人生に変化を与えてみる。
難しいことでなくてもいい。
いつも押してばかりいる人生なら、引くような感じにスタンスを変える、とか。
いつも自分からしゃべってばかりならば、黙ってみるとか。
周囲の意見を聞いてばかりならば、時には、積極的に発言する側になってみたり。
もっとささやかなことでもいい。
通学路を変えてみるとか、行きつけの店を変えるとか、今までとは違う友だちと多く時間を持つようにする、とか・・・。
そうすることで、自分の中で決定しているルーティーンの連鎖を壊すことが出来る。
決まりきった日常に変化をいれることは、当たり前になった思考に別の色や、新たな光を注ぐきっかけや、わずかな気分転換を持ち込む。
ルーティン化している生活に刺激を取り込んでいく、ということだ。
ささやかな刺激ではあるが、次へと向かう第一歩になる可能性がある。
何よりも、気分が変わる。
付き合う友だちが悪いわけではないが、付き合う友だちにちょっと変化を起こすだけで、人生というものは思わぬことをあなたに、ギフト、する。
違う世界を覗く、くらいの、気持ちでいい。
旅に出るのも、実は、ルーティーンから抜け出したい、ということかもしれない。
遠くへ出かける。
もちろん、帰る場所があるので、旅とか旅行というのだが、そこで受ける刺激があなたの日常にささやかな改革を起こしてきたりする。
何か、いつもと違うこと、をやってみる。
大きな変化は身体によくないので、まずは、小さな変化でいい。
ぼくは怠惰な日常だと気が付いたら、まずは、食生活を変えてみたり、一時期大好きなお酒をあえてやめてみたり、朝、何キロも走ったりする。
長続きできなくても構わない。
ルーティーンを変えることに意味があるのだから、大改革をしようなどと思わないでいい。
お酒がやめられないなら、外で呑むのをやめる、とか、減らす、だけでもいい。
いつもだらだらと集まって騒ぐだけの友だちから、ちょっとだけ離れて、(また、戻ればいいので)、あえて、会わなくなり、それまで、めったに話すことのなかった違う種類の人間たちと、向き合ったりしている。
そうすることで、違う世界と接続する機会が増える。
特に人間関係の変化は面白い改革を自分に持ち込んで来る。
そういう考え方もあるのか、という、それがいいか悪いかは別として、別世界を覗くことができるというものだ。
人間はどこかで常に考えている方がいい。ただ、従うだけの人間になると、老けるのも早いし、灌木のような人生が待っているだけになってしまう。
そうなると、終わりも、早まる。
いつまでも、新しい地平を探すような、日々のシフトを、少しずつ試みている人は、若い。
人生に必要なものは、ささやかな変化、である。
ちょっとずつ、楽しみながら、自分を変えて冒険を繰り返してみよう。
まずは、ちょっと気分を変えてみよう。
少し、窓を開けて、新しい風を取り入れてみよう。
posted by 辻 仁成
辻 仁成
▷記事一覧Hitonari Tsuji
作家。パリ在住。1989年に「ピアニシモ」ですばる文学賞を受賞、1997年には「海峡の光」で芥川賞を受賞。1999年に「白仏」でフランスの代表的な文学賞「フェミナ賞・外国小説賞」を日本人として唯一受賞。ミュージシャン、映画監督、演出家など文学以外の分野にも幅広く活動。Design Stories主宰。