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自分流塾「大丈夫です!」 Posted on 2025/02/12 辻 仁成 作家 パリ
先日、日本に住んでいる友だちと、フランスに住んでいる日本の知り合いから、同時に、
「この言葉に助けられた」
とメッセージが届いたのだった。
ぼくは時々、インスタで、こういう言葉を発信している。
実は、それは自分が過去に想ったことだったり、今、思っていることだったりする。
でも、不思議なことに、自分を励ますために紡いだ言葉が、誰かを助けることもあるのだ、ということ。
それは、何か、ぼくは、言霊みたいなものじゃないか、と思っている。ぼくは作家が職業だから、言葉で、自分の苦しさや、悲しさを癒して生きてきた。
それをたまたま、インスタなどに配信をしたら、ぼくと同じように大変を抱えている方々に、届いた、という次第である。
ある、大変高名な作家の方から、
「あれはぼくのことだ。なんで、辻さんはぼくの気持ちがわかるんだ」
というSMSを頂いて、びっくりした、ことがあった。
それは、つまり、みんな、ぼくだけじゃなく、あなただけじゃなく、人類はみんななにがしかの共時的な苦しみを抱えて頑張っているのだ、ということじゃないか、と思うのである。
違いますか?
なので、ぼくは、外では、なるべく笑顔で笑い、つまらないおやじギャグを連発して、無理せず生きているのだけれど、生きているかぎり、人間というものは予期せぬ苦悩にぶち当たるものなのであり、ぼくとて例外ではない。
そういう時にこそ、実は、その気持ちを言葉で包み込み、自分を励ますことが大事だったりする。
日記をつけてもいいし、思いを言葉にしてもいい。
ぼくは一つ、魔法の言葉を持っているので、しかし、これは誰もが持っている言葉でもあるが、今日はそれを改めてあなたにお教えしたい。
それは、「大丈夫」という言葉なのだ。
大丈夫ですよ、と誰かに言われると、人間は涙が出ることがある。
そりゃあ、みんな一生懸命生きているのだから、当然だ。
重たい荷物をかかえて、無理して、いつも苦しんで頑張って、その上根底のところでは孤独なのだから、当たり前なのである。
「大丈夫だよ」
という誰かが告げる一言が、どんなに、大切か、もう一度、噛みしめて貰いたい。
みんな頑張っている。辛いこともある。苦しいこともある。
だけれど、大丈夫、なんです。
この言葉が、人々の心の疲れを、癒してくれる。
大丈夫、と言われることの、優しさを噛み締めてもらいたい。
それを言ってくれる人がいないのではあれば、ぼくがここに書きましょう。
「大丈夫ですよ」
そして、明日から、もう一度、笑顔で、頑張って生きてください。大丈夫です。
posted by 辻 仁成
辻 仁成
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作家。パリ在住。1989年に「ピアニシモ」ですばる文学賞を受賞、1997年には「海峡の光」で芥川賞を受賞。1999年に「白仏」でフランスの代表的な文学賞「フェミナ賞・外国小説賞」を日本人として唯一受賞。ミュージシャン、映画監督、演出家など文学以外の分野にも幅広く活動。Design Stories主宰。