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「新世代賞の船出、そして三人の選出」 Posted on 2017/11/08 辻 仁成 作家 パリ
第1回新世代賞の選考会が11月2日(木)、渋谷にある日本経済大学の大学院246ホールで行われた。
審査委員長の画家、千住博氏を中心に、クリエイティブディレクターの鵜野澤 啓祐氏、プロダクトデザイナーの新立 明夫氏と私の4名で厳密な審査が行われ、激論の末、最優秀賞、優秀賞、特別賞の三賞が決定となった。
若い日本の才能の発掘と応援を目的としたデザインとアートの新人賞だが、ここまでたどり着くことができたか、と受賞作が決まった瞬間の感動は大きかった。
だだっ広い会場に並んだテーブルの上に最終候補に残った180作品が置かれ、(最終エントリーはおよそ500作品)それを各審査員が時間をかけて綿密にチェックして回った。
それぞれ、気になる作品に付箋を貼り、ある程度、審査が進んだ段階で何度かの議論を重ね、最終的に8作品に絞り込み、ファイナル審査へと移った。
どの作品にも学生たちの思いや感性が凝縮しており、審査員は真剣になった。
激論の末、最優秀賞に京都造形芸術大学大学院生の中村暖氏(22才)、優秀賞が桑沢デザイン研究所総合デザイン科3年の眞木絢未氏(24才)、そして特別賞が武蔵野美術大学造形学部視覚伝達デザイン学科卒、広告制作会社デザイナーの今井綺乃氏(24才)が決定した。
「生活に寄り添う」というテーマだったが、この3作品は見事に主旨を貫き、審査員の心を鷲掴みにした。
この3作品が満場一致で選ばれたことはこの賞を創設した私個人にとってもなんとも言葉に表しがたい感動的な瞬間であった。
日本の未来に何か自分たちにできることはないか、それは出る場所を探している若い才能の発掘と、彼らを掬い上げ伸ばす応援じゃないか、と思いつき、この賞を創設した。
日本中の学校関係者に相談をし、実際、手分けをしてスタッフともども各大学を駆けずり回り、ポスターを貼り、チラシを置かせていただき、先生方の協力を得て、ここまでなんとか漕ぎつけることができた。
蓋を開けるまでどの程度の作品が集まっているのか不安だったが、審査会場で私はそのレベルの高さ、人間性の豊かさ、そして、このようなかまびすしい世界にありながらユーモアあふれる批評眼の優れた作品が並んでいるのを目撃し、私はこれをはじめたことに改めて歓喜し、安堵を覚えたのだった。
審査員は興奮をし、激論が繰り返されたが、満場一致で賞が決まった時、全員は笑顔になり、握手をしあった。そして、審査員長の千住氏が、来年も同じメンバーで審査がしたい、素晴らしい賞の誕生だ、と祝言を吐露された。
今回、選に漏れた多くの学生諸君にもこの場を借りてお礼を述べたい。どの作品にも愛情、ユーモア、工夫があった。千住氏が、しかし、厳しく審査することが愛情だ、とおっしゃり、受賞作は多くしないことにした。これをはずみに来年はさらに多くの学生たちの応募が期待できる、と私は信じている。
さあ、門は開かれた。
第1回新世代賞はこの3人の若者たちの受賞で船出することになった。この小さな船出がいつの日か、日本を変える、支える、第一歩となることを私は確信している。予算のない私たちに資金を出してくださったメセナ企業の方々にもお礼を言わないとならない。ご協力に心より感謝をしたい。この若い3人の活躍を見守ろうではないか。
まずは、新しい船出を祝いたい。
第1回アート&デザイン新世代賞
受賞者(敬称略)
◉最優秀賞
中村 暖(22歳)京都造形芸術大学 大学院芸術研究科
作品名:バッグ「NEO CROCODILE BAG」
◉優秀賞
眞木絢未(24歳)桑沢デザイン研究所総合デザイン科3年
作品名:ラベル・パッケージ、飲むたびに「治りそう!」な漢方薬
◉特別賞
今井綺乃(24才)武蔵野美術大学 造形学部視覚伝達デザイン学科卒 広告制作会社 デザイナー
作品名:ポスター「IKEBANA」
posted by 辻 仁成
辻 仁成
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作家。パリ在住。1989年に「ピアニシモ」ですばる文学賞を受賞、1997年には「海峡の光」で芥川賞を受賞。1999年に「白仏」でフランスの代表的な文学賞「フェミナ賞・外国小説賞」を日本人として唯一受賞。ミュージシャン、映画監督、演出家など文学以外の分野にも幅広く活動。Design Stories主宰。