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自分流塾「青空の休暇。本当に苦しい時にするべきこと」 Posted on 2024/05/08 辻 仁成 作家 パリ

人間というのは調子がいい時はいいのだけれど、調子が出ない時、やる気が出ない時にこそ、どうするか、が大事だったりする。
負のスパイラルという言葉があるように、ひとたび、良くない方に人生が転がりだすと、余計なものまで巻き込んでどんどんダメになってしまうのも人生である。
そういう時、ぼくは、とにかく、まず、寝ることにしている。
ひたすら寝続けることにしている。
頭が寝すぎて空っぽになるまで、暗い部屋で寝続ける。
24時間くらい連続して眠る。ダメな状態なので、脳は寝ることを否定しないから、いくらでも眠ることができる。
携帯の電池と一緒で、完全に使い切ってから充電をすると、携帯は長持ちするようだ。
脳も同じで、一度空にすると、再び活性化するが、悩みをごちゃごちゃ抱えたままの状態で充電すると実はよくない。
とにかく、全んぶ一度空っぽにしてしまうことを目指すべきなのである。
ぼくの場合だけれど、一度、仕事のことを忘れて、死んだように寝ている。
不思議なことに、二日間くらい寝続けていると、どこからともなく、やる気とまではいわないが、動こうとする意志が芽生えてくる。
何か食べたい、とか、動いてみたい、とか、散歩したいとか、そういうのは、再起動が完了した証拠だと思うようにしている。
それから、次にするべきことは、晴れているのであれば、太陽を浴びる。
近くの公園のベンチに座って、日差しを浴び続けるのだ。余計なことは考えない。
受け止められる光をすべて、自然に、とりこんでいくと空っぽの頭の中に光のふくらみが宿って来る。それがパワーの要素なのだと思う。
そういう気分になったら、深呼吸をしよう。
ここで大事なことは、ずっと寝ていたので、肺がぺちゃんこになっているはずだから、肺の奥深くまで新鮮な空気を取り込もうとする気持ちである。
深く呼吸をする。
気持ちがいい場合、何度も、深呼吸をして、自分を完全に入れ替えてみるといいのだ。これは、人間として、出来る、最大のリフレッシュだと思う。
でも、焦ってはいけない。深呼吸が終わったら、しばらく、様子をみよう。

自分流塾「青空の休暇。本当に苦しい時にするべきこと」



そもそも慌てる必要なんかないし、がんばらないとならないこともない。
スポンジをぎゅっと握りしめた状態が今だと想像してみるといい。そのスポンジがもとの状態に戻ろうとする、そこで回復が行われるのだから、黙って、青い空でも見ておけばいいのだ。
せっかくリフレッシュしたのだから、ここがとっても大事なことだけれど、寝る前の自分の状態に戻さないことである。
いやな出来事というものは、人間ならば、誰もが経験をする。
あなたは真面目だから、その大変を抱えて処理しようとしてきた。あるいは、あなたは正義感が強いから、環境問題や、戦争のことや、自然災害のことで心を痛めてきたかもしれない。
でも、自分が壊れてまでして、今は世界のことを救うことは無理だから、まずは自分が元気になることを目指すために、自分の中の正義感や周囲への思いやりから、一度、離れてもらいたい。また、元気になったら、戻ればいいことだ。
それは、悪いことじゃない。
あなたが、まずはあなたを救わないとならないのだ、ということを思い出してもらいたい。自分が元気にならないと、周りの人を救うことはできない。
だから、今は、ご自身を大事にしてもらいたい。
心と体の回復を第一にしましょう。
そのためには、心を煩わせるようなことはすべて、一度、排除しないとならない。
あなたは今、とっても疲れているのだから、抱えないでいい。
この青空の休暇を受け入れ、再び、立ち上がることができるまで、ゆっくりと再生を目指せばいいのだ。
人間はそこまでタフである必要なんかない。
空を飛ぶカモメや、海を泳ぐイルカのように、あなたも、あなたの人生に身をゆだね、しばらく、そよいでいるべきなのである。
ここまで、もしも、達成出来たら、ここからは時間があなたを癒していくので、焦らないで、まずは、一杯の水を、飲んでみてください。
この一杯の水は、人間が人間であるために必要な源である。
コップの水を飲んだら、その水は、食道を通り胃までゆっくりと流れていく。その流れがわかれば、あなたはほぼ回復していることになるのです。
さあ、口元を緩めて、笑顔で、今日を生きてください。

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自分流塾「青空の休暇。本当に苦しい時にするべきこと」



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TSUJI VILLE

posted by 辻 仁成

辻 仁成

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Hitonari Tsuji
作家。パリ在住。1989年に「ピアニシモ」ですばる文学賞を受賞、1997年には「海峡の光」で芥川賞を受賞。1999年に「白仏」でフランスの代表的な文学賞「フェミナ賞・外国小説賞」を日本人として唯一受賞。ミュージシャン、映画監督、演出家など文学以外の分野にも幅広く活動。Design Stories主宰。