THE INTERVIEWS
ザ・インタビュー「シトロエン新型高級車C5X開発に関わる日本人女性の活躍」 Posted on 2021/04/21 Design Stories
シトロエン新型高級車C5X開発に一人の日本人女性が携わっている。そのことがフランスのメディアなどでも報道された。DS編集部はパリ在住の日本人デザイナー、柳沢知恵氏に取材を行った。
ザ・インタビュー「シトロエン新型高級車C5X開発に関わる日本人女性の活躍」
DS編集部 今回の出来事、私たち日本人からすると「すごい」ととってもびっくりさせられる嬉しいニュースでもありました。シトロエンの主力車、シトロエン C5 Xに日本人のデザイナーが大きくかかわっているということが報じられたからです。記事や動画を拝見しましたが、柳沢知恵さんが堂々と、お答えなさっている場面では何か、在仏日本人としてはとっても誇らしいというか、普通にうれしかったです。また、この車、とっても、かっこいいですね。乗ってみたいです。今回のお仕事での柳沢さんの役割などをきかせてください。※シトロエン C5 Xの魅力についても…
柳沢 早速、みていただき、ありがとうございます! そういっていただけると嬉しいです!
まずは、C5 Xという車について、ご説明させてください。この車は、シトロエンの新しい最高級車で、ブランド哲学が凝縮されています。伝統的なDセグメントの中でも、エクステリアが驚きのあるシルエットに仕上がっているのは、サルーンのエレガンス、ステーションワゴンのダイナミズム、そしてSUVの高いスタンス、というユニークな組わせをしているからです。
実は、2016年のパリモーターショーで発表された、CXperience Conceptからインスピレーションを得ているんですよ。
インテリアは、シトロエンの個性でもある「魔法の絨毯」のような乗り心地を実現するために、シートや、サスペンションを追求しています。
このプロジェクトでの私の役割は、カラーデザイナーとして、車両内外の色や素材をデザインし、提案することでした。エクステリアのボディカラーから、インテリアの「人が触れる部分全般」の素材が担当範囲で、シートクロス、ステアリングはもちろんのこと、天井や、ラゲッジの表皮材なども含みます。トレンド調査や、販売予定地域の顧客の好みを調査し、色のバリエーションも考えます。車の世界観や個性を色と素材で引き立てることが、この仕事の大きな役割ですね。
今回は、シトロエンのフラッグシップということで、ブランドアイコンを考えるところから始まりました。ブランドアイコンとは、それをみればシトロエンだなと思ってもらえる要素のことです。C5 Xでは、シトロエンのロゴマーク「シェブロン」を元に柄を考え、5つの異なる素材に落とし込みました。
1つ目は、ダッシュボードの「絞」と呼ばれる表面の凹凸です。よく見ると「シェブロン」が立体的に細かく刻まれているのがわかると思います。光を受けて、角度が変わると光の反射が移り変わりキレイなんですよ。「絞」は他のどの素材よりもとても開発に時間がかかり、なかなか経験できないものなので、とてもやりがいがありました。
2つ目は、シートのアクセントステッチです。「シェブロン」が一筆書きでシート上部に水平に入ることで、シトロエンの水平軸を基調としたインテリアを引き立てています。
3つ目は、そのステッチの下に入っているアクセントクロスで、質感のある細かな「シュブロン」が印刷されています。
4つ目の木目調の加飾パネルにも、細かな「シェブロン」模様が入っています。
こちらは、冒頭にもお話した、CXperience Conceptがインスピレーションになっています。木目柄に幾何学模様の組み合わせをすることで、新しくモダンな表現になると考えました。
最後の5つ目は、レザーシートのパーフォレーションと呼ばれる、空調シート用の細かな穴です。こちらも、しつこいようですが、大小の穴で繊細な「シェブロン」柄を表現しました。
また、更に嬉しかったことが、新車発表の際、会場のディスプレイなどにも、これらの柄が使われていたことです! スケッチブックから始まった柄が、データに置き換わり、最終的には車以外にも転用されて、カラーデザイナー冥利に尽きます。様々な素材の表現を通じて、シトロエンの新しいブランドアイコンになったと実感しました。
DS編集部 なるほど、では、少し重なる質問になりますけど、なぜ、柳沢さんはフランスにやってこられ、シトロエンで仕事をするようになったのか、その道のりを教えてもらえますか? ご苦労などもあったと思うのでその点などについてもお聞かせください。
柳沢 私は筑波大学のデザイン学科を修了した後、日産自動車に就職しました。その後、入社6年目で提携先のフランスのルノーに赴任しました。日産でカラーデザイン部に配属されて以来、今に至るまで、ずっと同じ職種を続けています。
生まれたのがアメリカで、幼児期まで過ごしたので、いつかまた海外に住んでみたい、働いてみたいという想いはありました。ですが、日産からフランスに赴任することになろうとは夢にも思わず、せめて語学面での不安を打ち消そうと、赴任の内示がでてから渡仏するまでの期間、フランス語の語学学校に通い詰めていました。とはいっても、実際にきてみたら会社からのサポートは手厚く、そこまで困ることはなかったのですが。会社間で技術提携しているため、私と同じように日産から赴任している人たちがたくさんいて、お世話になったりしながら、ルノーでの充実した2年間の駐在期間を過ごしました。
その後、日本に帰任し、1年ほど過ごした後、縁あってシトロエンに転職しました。2度目のフランス生活では、最初に赴任した頃を思い出しつつ、同じように生活を整えていく作業だったので、自力でもなんとかなりました。赴任時代の会社のサポートという補助輪付きの経験が、その後をスムーズにしてくれたと思います。ただ今度は、日本人の赴任仲間はいなかったので、前回、ルノーで仲良くなったフランス人の友達たちにとても助けられました。
DS編集部 フランス人社会の中で、第一線のお仕事をされていると思うのですけど、シトロエン社での人間関係というか一緒にお仕事されている方々はどのような方々なのですか? 動画を見ているだけだと、とってもいい環境で働いている印象が感じられますが、・・・。
柳沢 自動車産業はグローバルなので、いろいろな国から来た人がいます。もちろん、フランス企業なのでフランス人が大多数ではありますが、外国人はイギリス人、ロシア人、ブラジル人、中国人など、国際色豊かです。ちなみに日本人は私ひとりです。他の国の自動車会社でも働いた経験がある人が多く、同僚を介してすぐに以前の職場の同僚と繋がってしまうような世界です。カーデザイナーという職業は、国やブランドが代わっても、仕事の進め方は大きくは変わらないので、何カ国も転々とする人も。デザインという仕事は、視覚的に表現することで伝えることができるので、ある程度は言葉に頼らずに済むというのも大きいですね。
DS編集部 少し、本題から離れますが、パリではどのような生活、ご主人との夫婦の役割、など、についてもちょっと聞かせていただけますか? もちろん、ご主人の仕事への理解などもあると思うのですけど…
柳沢 夫は学生時代の同級生で、同じデザイン学科出身、日本企業にデザイナーとして就職し、その後、海外赴任するという、私と似たような経歴を辿っています。結婚してからはじめの4年間は、東京で一緒に住んでいたのですが、その後、私がフランスに単身赴任し、帰任する少し前に、今度は夫が中国に赴任してしまいました。そのため、私は日本に戻った後も一人暮らしが続きました。そこで、ひとりで考える時間が潤沢にあったので、今度は赴任ではなく自分の力で、海外に挑戦してみたいと思い始めました。実は、フランス以外の国も何社か受けてみたんです。でも、最終的にご縁があったのがシトロエンで、またフランスに戻ってくることになりました。その頃に発売された、シトロエンのC4 カクタスという車が大好きで、今は我が家の愛車です。
柳沢 その後、夫にも良いお話があり、他社ですがフランス企業に転職してきてくれました。別居期間は4年に及びましたが、最終的には結婚して8年、フランスで合流しました。以前から夫婦で「住みたい国に住めるような仕事っていいよね」という話をしていたのですが、そのとおりになったなぁ、と思います。デザイナーという職業は、言葉の壁が低い分、海外で仕事がしやすいかもしれません。夫は同業者なので、色々と理解はしてくれていると思います、たぶん。ちなみに家事の分担は、夫が料理とゴミ出し、私が掃除と洗濯、そして娘の送り迎えや寝かしつけ等は交互です。
DS編集部 それはすごくいい話ですし、なかなかこのようなことを経験されているご夫婦というのは少ないと思うのですけど、ちょっと聞きづらい質問ですが、別々に暮らしていた4年間の寂しさなどはどうやって解消されたのですか? どうやって夫婦間の絆をふかめていかれたのでしょう?
柳沢 「恋愛中はお互い見つめあっていても、夫婦になったら見つめ合わずに、一緒に遠くを見ていた方がうまくいく。見ている方向が同じであれば、人生は並走していけるから」という言葉を、結婚式の挨拶で大学の指導教官に言われました。私たち夫婦は、その言葉を体現したような生活を送ってきたと思います。距離がありつつ、遠くの目標に向かって各自走る関係に慣れてしまっていたので、再び一緒に住み始めてからの方が難しいことがありましたね(笑)
また、義父にはとても感謝しているのですが、自身も仕事一途だったことから、私の仕事への姿勢に対しても理解があり、ふだん口数は少ないのですが、たまにポツリと応援する言葉をかけてくれます。家族の支えは、常にありがたいですね。
DS編集部 これからの柳沢さんの仕事への展望というか、時を重ねて、どういう夢や可能性を見上げていらっしゃるでしょう。日本に戻るつもりがあるのか、それともずっとフランス、もしくは世界を相手に仕事をされていくのか、お聞かせください。
柳沢 最近は、自動車にとどまらず、モビリティが気になっています。モビリティとは移動するための機器全般をいいます。EV技術が発展してきたことで、乗り物のバリエーションがとても増えてきているので、いずれは、モビリティの世界にも仕事の範囲を広げていけたら良いなと、考えています。
亡き祖父が「旅先で乗り物があったら乗れ」といっていて、我が家の家訓になっています。身を持って体験したことは忘れられない思い出になるからだそうです。そういったわけで、幼い頃から旅行先では、ヘリコプターから象の背中まで、ありとあらゆる乗り物を体験させてもらい、自分で旅行に行くようになった今でも、それは心がけています。モロッコでラクダに乗ったり、プラハでセグウェイに乗ったり、私の旅の思い出はいつも乗り物とセットで、その結果、乗り物が好きになったんですよね。
私が担当した車ではないのですが、シトロエンから免許不要で運転ができる新しい概念の電気自動車「ami」が発売されたのですが、モビリティという言葉が似合います。この車はディーラーではなく、電気屋さんで売っているんですよ。最近の広告のキャッチコピー「はい、この車、トースターのように見えますね。DARTY(家電量販店)で売っているのはそのためです」というのが気に入っています。このような今までの自動車のイメージを覆すようなプロジェクトにも、携わっていきたいですね。
フランスにいつまでいるのかどうか…娘の出産を期にアパルトマンを購入したのですが、その話をすると多くの方から「フランスに骨を埋める覚悟?」と聞かれます。実際は、そこまで決めてはいないので、もし他にご縁があったら、日本を含め、どこか違う国に行くのもいいなぁ、というぐらいの気分です。
DS編集部 ますますの活躍を期待しております。本日はありがとうございました。
柳沢知恵氏の記事はこちらから⬇️
https://www.designstoriesinc.com/panorama/tchie-yanagisawa1/?preview_id=27327&preview_nonce=5ec30cd529&_thumbnail_id=27318&preview=true/
posted by Design Stories