THE INTERVIEWS
ザ・インタビュー「岡崎慎司選手の信念に迫る重大質問」 Posted on 2021/06/02 辻 仁成 作家 パリ
スペインのサッカーチーム、ウエスカを退団したばかりの岡崎慎司に、彼を作り上げたこれまでのモチベーションにかかわる大事な質問を投げつけてみた。岡崎慎司は過去と現在と未来を見つめながら、静かに、しかし、力強く、大きな余裕をもって、その問いかけに答えてくれた。コロナ禍のスペインで家族と暮らした日々の話しに続いて、今回は岡崎慎司の本質に迫る直球の質問をぶつけてみることになる。
ザ・インタビュー、「岡崎慎司選手の信念に迫る重大質問」
辻 最近知り合った若い人たちの中に岡崎慎司ファンがかなりいてね、「今度インタビューやるんだけど、何か聞きたいことない? こんな機会ないよ」って言ったら、ほんとうに、熱い、たくさんの質問が届いたんだよ。相変わらず、人気者ですね。笑。
岡崎 いやぁ、ありがたいすですね。
辻 あ、でも、むくつけき野郎ばっかりなんだけど、ごめんね~(笑)。
岡崎 ははは。もちろん、大丈夫ですよ。
辻 まず一つは、岡崎慎司の理想とするサッカー選手像。岡ちゃんって前線から献身的な働きでチームを支える姿勢っていうのが、そこが結構評価されてきていると思うんだけど、岡崎選手自身はね、点を取ることとか、ストライカーってことに、いつもこだわり続けてるじゃない? その理想のサッカー選手像とか、ストライカー像っていうのが、岡崎選手の原動力なんじゃないかって・・・。サッカー人生を経て、自分のサッカーに対する理想像っていうのは、どのような影響を受けてカタチ作られてきたのか、そこがみんな、とても興味があるみたいなんだよ。
岡崎 凄い壮大な質問っすね、笑。聞かれたことがない! そうですね、まぁ、自分がずっとそれをだだ探してきただけというか、なんか、そいう「像」があるというよりは、そこに辿り着きたいがためにずっとやってるような気がしますね。満足したいけど、だぶん一生満足は出来ないんだろうなと思いながらやってる部分があって。具体的にこういう選手になりたいとか、自分がこうありたいっていうのは、あんまりないかも知れないですね。ただ本当に常に自分が目指すものがあるというか、その行く所々に・・・。自分の未知なるものを得たいというか、体験したいという欲求、そういう「欲求」をずっと求めているような気がしますね。その過程として、ゴールや勝利は必要だし、勝ちに貢献しなきゃいけない。世界一になりたいっていうのも、その一つで、自分なりのやり方で、生き方の証明じゃないですけど、子供の頃からがむしゃらにやってきたことが、徐々に自分が学んできたことっていうか。そういう生き方を証明したいってことじゃないですかね。結局、みんなそうだと思いますけど、自分がやってきたことを認めてもらいたいという、まぁ、野心・・・、辻さんが求めた野心と同じようなことだと思います。けど、それがモノじゃないということは分かっているというか。ゴールとかモノじゃなく、 自分がそうすることによって、自分の生き方そのものを証明して欲しいみたいな。だから、例えば、誰かに評価されている記事を見たりしても、いや、そこじゃないんだよなーとか思ってしまう。自分なりには分かってるんですけど。
辻 わかる、わかる。
岡崎 この生き方、自分のこうゆう生き方を評価して欲しいのにな、とか。でも結局、そこには誰もたぶん辿り着かなくて、自分にしか分からないことなのかなと思ったりするんですけど。だから、サッカー以外のことも、サッカーで追い求めていることと一緒だと思うんですね。自分がそうやって、これがいいのにな、という、そういう感覚というか。
辻 昔から、そういうことを言ってたよね。サッカーやることと、生きることとは、僕の中では一緒だって。言ってた。
岡崎 そうすね、変わってはいないと思うんですけど。
※ 写真はすべて、岡崎ゆめみさん。
辻 岡崎慎司にとって野心てなに? 野心という言葉って、なんだと思う?
岡崎 野心? 野心自体をあんまり考えたことがないですけども、目標とか夢がいっぱいあって、それを欲っしているって感じですかね。
辻 それって、いいイメージ、悪いイメージ? 岡崎慎司にとって?
岡崎 野心というもの自体には悪いものを感じないけど、野心のためにどうしたか、というところが重要じゃないですかね、僕にとっては。
辻 いい答えだねー。僕は、10代の頃に、野心って漢字を見て、野心家っていうのはなぜか悪い風に言われがちだけど、でも野心っていい言葉だなーと思ったんだ。「野に出る心」って書くじゃん? 野に心っていうのは、外に出る力だから、今の岡崎慎司が、さっきから喋ってることは、全部野心の話なのかもね。この人は、大海にちゃんと出られる人、井の中の蛙じゃないなって思ったんだよね。だから、ちょっと聞いてみたんだよね、野心って何?って。
岡崎 あああ、凄い難しい質問っす(笑)。
辻 あと、サッカー選手って、よく『結果を残す』っていうじゃない? あの言葉っていつもなんか少しね、違和感を感じるんだ。まぁ、確かに、それは潔いことで、スポーツ選手にとったら結果を残さなければダメだというのはわかりつつも、僕みたいな仕事は、結果を残すことってなかなか、難しい。そもそもゴールポストがないから、普通の人には。笑。いつ残せるのか、死ぬまで分からなかったりするよね、普通は、・・・。ストライカーになれないのよ、小説家って。ストライカーなれない人間は、結果残せねーとか思いながら、いつもサッカー選手を羨んで見ている。笑。
岡崎 確かに。でも、スポーツ選手からしたら、「結果を残す」って答えが一番アンパイって感じですね。結果を残す以外の事を言うと、言い訳している小っちゃい人間だと思われるんじゃないかと思うんですよね、スポーツ選手は。だったら、何も言わずに結果を残すって言っておいた方が、自分自身も言い訳できない状況になるし。それ以外の事を、御託を並べるじゃないですけど、いやーこれがこうで、結果が出なくても・・・とか言っちゃうと、端から結果を残す自信がないやつみたいに見られるのも嫌じゃないですか。
辻 いやー、面白いね。こういう話が聞きたかったんだ。じゃ、本心は何? それは、建前として、それでいい。だけど、本心は?
岡崎 本心は、たぶん自分の中でいっぱいあると思いますよ。こうやったらよかったとか、結果を残せなっかた理由も分かっているし、みたいな。だけど、まぁ、それは結果を残してから言いたい。未練みたいなものですかね。プライドというか。
辻 いい話だね。こういう質問に即座にびしっと返せる岡崎慎司、好きやね。じゃあ、もう一つ、岡崎慎司ってさ、人柄とか、謙虚さとか、ポジティブさとか、向上心とかがさ、凄い際立ってる。なんで岡崎慎司が日本人に人気があるのかと言うと、日本人社会の、特に男性の参考になるからだ、と言った友人がいる。自分たちは、岡崎慎司に日本人のメンタリティーを感じるってやつら言うんだよ。それちょっと、岡ちゃん的には不本意かも知れないけど、でもね、どんなきっかけでそういう強いメンタリティーを持てるようになったのか?
岡崎 そうですね。分からないんですよね。別にこれがいいとは全然思ってないし、捉え方の問題だと思うんですけど。自分の性格だと思います。曲がったことが嫌いと言うか、口ではこう言ってるのに、やってることが違うとか、そういうことに人より敏感だと思いますね。だから、いや、それは違うんじゃないかって意見、自分の中には持ってるし、けど、それはその人の生き方なわけで。
辻 美学?
岡崎 美学とはちょっと違うんですけど、リスペクトすることかな。そういうのって日本人ぽいじゃないですか。そういうところを大事に思ってますね。でも、それは人それぞれだからっていうのもわかりつつ。けど、そういう生き方はしたくないなーとか、インサイドじゃないですけど、自分の中で消化することに人よりも長けているのかも知れないです。すごく日本人ぽいと思うんですけど、その、自分の中で処理するってこと自体がね。
辻 なるほど。
岡崎 だから、それを処理してピッチの中で表現しているというところとか、そもそも僕が持っていうのはそういう日本人としての典型的な人間の考え、捉え方で、それがプレイにもでるから、見ている人からは、見たまんまシンパシーを感じて貰えるのかも知れないですね。
辻 幕末の若い日本人たちは、世界に出ようとした。岡崎慎司の思考って、そういう人達の感覚に似てるなと思う時があるんだよね。幕末の戦士たちは、日本から出て世界を見ようとしていた。岡崎慎司が幕末にいたら、何をしていたかね? ってか、岡ちゃんちょんまげしたら、そのまま、サムライに見えるだろうな。ははは。
岡崎 ははは。憧れてる時もありましたよ。サムライが好きすぎて(笑)。ちょんまげにはしたく無かったですけど、結んで、後ろに縛ってというのに凄い憧れてて、ちょっと髪の毛が足りなかったんですけど。
辻 自分の思ったことをきちんと身体から出すけど、相手の事をちゃんとリスペクトして行動する人だよね。岡崎慎司って。
岡崎 そうですね。人よりは気を付けてはいると思いますね。
辻 僕はやっぱり、どんなに嫌いな人がいても、その人の人格や、その人の一番魂の根幹に触れるところを攻撃してはいけないという気持ちが、いつもあるんですね。
岡崎 それが、凄いTwitterの一言一言から伝わってきます。常に吐き出しているけど、また逆の事を言ってることがあって。面白いなーと思っています。自分の中で、いろんな意見と戦ってるって感じが伝わってきますね。
辻 無視されたり、差別されたり、人間をないがしろにしたりね、馬鹿にしたり、踏み台にするやつとか多いじゃん。そういう社会じゃない。しかし、こういう不条理なことに腹が立つタイプなんですよ。笑。
岡崎 わかります。海外に来てると特に。
辻 そう。相手へのリスペクトがまずあって、でも意見が合わなかったらはっきり合わないって言えなければ、まず人間としてあかん。例えば、よその国に対して、腹が立っても、ちゃんとリスペクトがあって馬鹿野郎と言うことと、なくてただないがしろに文句言ってるのじゃ意味が違う。どこの国に居ても、フランスに居ても、スペインに居ても、どこでも人間対人間という付き合いをしなきゃいけん。サッカー選手にそれが無くなったら、ただの戦争になっちゃう訳じゃない。スポーツっていうものの良さって、リスペクトだと思うから、それがあるスポーツ選手っていうのは勝って行くな、と、いつも思うんだよね。
岡崎 そこは、やっぱり大事にしてますね。結果を出すことだけが凄い、と、ならないようにしなきゃいけない。カッコ悪いと思うんで、そうゆうこと自体が。
辻 では、最後の質問なんだけど、影響を受けた人や出来事を岡崎選手が好きな映画や音楽などの作品について聞いてくださいって、ぼくの知り合いにうるさいのがいるんだ、笑。音楽や映画なんかそもそも見るの?
岡崎 ふふふ。音楽はよく聞きますし、漫画、アニメも見ます。映画っていうよりはドラマとか、そういうのも見ますし。Netflixとか、最近、アニメ、Amazon Primeとかでも見れるんで。やっぱり、たぶん時間がどの職業の方よりはあるんで、練習が終われば、それ以外、子供が学校行ってる時であれば、午後はフリーですから。あとは、遠征となれば、バス移動で4時間アニメがっつり見れるし。ゲームと、アニメ、漫画ですね。
辻 そうなんだね、そこら辺はすごく若者だな。この間、サッカーゲームをやっているのを、ネット・ニュースで見ましたよ。
岡崎 はい。一応、eスポーツの日本代表からオファーがあって、アジアの国の選手と、プレイしたんですけど。新企画でしたね。まぁ、コロナ禍だったんで。面白いし、何の大会でもないのに普通に緊張しました。体験すると「eスポーツ」って言うだけのことはあるな、と思いました。
辻 そうか、あれはeスポーツなんだ。
岡崎 はい、いつも通り出来なくて歯痒いし、プレッシャーがかかって指が動かなくなったり、ゴール決めたら嬉しいし、不思議な感覚でした。アニメとか、漫画から学べたこともいっぱいあります。
辻 これ全然関係ないんだけど、岡崎さんのTwitterのアイコンなんだけど、岡ちゃんと肩組んでいるのは、お父さん?
岡崎 あれはタイのレスターのオーナーの方で、亡くなったんですよ。
辻 あっ、そうだ、そうだ。ヘリコプターの事故で・・・。
岡崎 すごく親しくさせてもらっていたんでアイコンにしています。タイという国ともいずれ、自分が関わった人たちに話しに行きたいなーと思っていますね。
辻 タイいいね。何か一瞬、タイで試合をしている、岡崎慎司が頭を過りました。
岡崎 タイ代表の監督とか、将来。
辻 いいね、タイまで追いかけるよ。僕ね、岡ちゃんとは、ずーっと時が経っても、たまに会って、刺激しあってるんじゃないかと思ってる。
岡崎 ありがたいです。
辻 あともう一つだけ、聞きたいことがあった。今一番これをやりたいということ、たとえば、サッカー以外でありますか?
岡崎 これを、やってみたいっていうのは、あんまり無いんですけど。自分は今、最先端のヨーロッパサッカーをやっていて、指導者になってみたいという想いも出てきたんで、いろいろ指導者の本とか読みながら、日本のサッカーの歴史とかを学んでいます。日本のサッカーの歴史とか知っている人と話したりして、過去を振り返ってこそ、日本人が辿り着く答えみたいなものを、追い求めれたらな、と、ちょっと思っています。結局は、だからサッカーなんですよね。指導者やりたいけど、今は、まだ選手なんで。
辻 あー、それは凄いいい夢だ、いいね。ギリギリまで選手やって欲しいけど。
岡崎 そうですね。選手をやりつつ、なんかすごい漠然とですけど、ヨーロッパはいろんな土地にサッカーがありますよね。街の中にサッカークラブがあるっていうのは当たり前のようになって、そういったチームを、日本で作りたいっていうのかもあって、そういうのを今いろんな土地に行って参考にしたり、クラブと繋がっていこうとしています。世界と少しでも繋がりを持てたら、それが日本にも伝わるな、と思っています。日本でも、あんまり、自分がこの場所に住むってのが今まで無かったから。今、海外に10年居て、日本に自分の家もないじゃないですか。だけど、今、自分のアカデミーみたいなのが神戸にあるんです。土地を買って、グランドを作るところから始まめたばかりなんですけど・・・。そういう所から、なんか、世界に出ていくような選手を育てたい。仲間たちとまさに今、作ってるとこなんです。SDG’sとか、そういったものも関わって、自分たちがやりたいことが結構見えてるところもあって、ちょっと説明が難しいんですけど、またお会いした時にゆっくり話します。
辻 凄くいいね、いつか、神戸で見てみたいな、岡ちゃんのクラブ・・・。今日は、ありがとう。また会える日を楽しみにしています! ゆみみさん(奥さん)、息子さんたちによろしくね。
posted by 辻 仁成