THE INTERVIEWS
パリ最新情報「祝、TOKUちゃん、ついにフランスデビュー」 Posted on 2020/02/23 辻 仁成 作家 パリ
今月、ついに、ついに、アルバム発売記念公演がパリ日本文化会館で行われた日本屈指のジャズシンガー兼フリューゲルホルン奏者のTOKU! やったね、父ちゃんの仲間の一人である。
ついにフランスでアルバム(メーカーはjazz eleven)が発売。ジャズファンの皆さん、パリジャズシーンで注目を集めつつあるこのTOKUちゃんにどうぞご注目ください。
時々、パリに出没してはこちらのジャズファンを魅了する、どうみても怪しい風貌のトランぺッター TOKU。日本人離れしたその圧倒的存在感にパリジャン、パリジェンヌから「こんな日本人は見たことがない」と言葉が飛び出す。熱狂的ライブの翌日、私はエッフェル塔の袂のカフェでこの放浪のジャズマンにインタビューを試みた。
生き方そのものがジャジーな男、TOKUのアルバムフランス発売記念、その音楽魂に迫る、THE INTERVIEWS!
辻 一昨日、パリ・レアール地区というちょっと危険な場所で、TOKUのライブを初めて見させていただきました。お店に入って奥の階段を上がった部屋に100人くらいの人が押し込まれて、ギュウギュウ詰め。でも、老若男女、和気藹々としていた。こういう活気あるライブ久しぶりでしたよ。
パンフレットを見ると「日本からナンバーワンのジャズミュージシャンがゲストに来る」って書いてあって。ナンバーワンって書いてある! って思わず声に出てしまった(笑)。TOKUは遅れてたんですけど、ドラマーの方が「TOKUは東京から来てるから仕方ないよね」って冗談交じりに話していて、夕方のパーティーでの演奏が押して遅れてるの僕だけが知ってたんだよね。(笑)。それで、やっとTOKUが到着して、顔を出したら周りの観客たちが全員口を揃えて「あれ、日本人じゃないよね?」と言い始めました。
TOKU え、そんなことがあったんですか(笑)。
辻 僕もね、「こんな日本人は滅多にいない。もしかするとポルトガル人のハーフかもよ」とか周りのお客さんに説明しときました。ポルトガル人の魚屋さんとかいっぱい知ってるから、顔を見てそっち系に違いない、って(笑)。
TOKU 魚屋(笑)。
辻 誰もTOKUが日本人だって納得してなかった。インパクトあるからTOKUが立った途端、他のメンバーたちが霞んじゃって。あそこで一遍に持って行っちゃったよね。いきなり歌い始めるところなんか、ロックだなって思ったりして。ちょっと日野皓正さんを彷彿させるものもある。フリューゲルホルンの角度を変える時とか。
TOKU 日野さんにはずっと長い間可愛がってもらっています。ライブとかで僕の顔を見つけるといつも飛び入り参加させてくれる。
辻 しかし、歌いながら、同時に、フリューゲルホルンもやる人って珍しいですよね。歌はすごくあっさり歌うよね。飄々と歌って盛り上げてフリューゲルに入るところなんかかっこいいなーって思う。不良の侍が世界中歩いてるって感じの面白さがあって。客席からは入ってくる時にまず心掴まれる。TOKUの歌聞きながら、ニヤニヤ笑ってました。嬉しくなる。この人はどこから来て今ここで歌ってるのかな、と思うと嬉しくなった。
TOKU いろんな人と関わって、ライブ見に行っては飛び入りで参加したりするのが好きなんです。
辻 今回のライブも全くリハーサル無し、と聞きましたが。
TOKU そうですね。だいたいジャズミュージシャンが共通で知ってるスタンダードをやります。ピアニストは顔見知りだったけど、他のメンバーとはステージ上で初めて会った。その場で曲を決めて、じゃあ、やろうって。やろうと決めた曲は本来、Gのキーで演奏するものなんですが、僕はFでやるのが好きなので、これやるけどキーはFねって言って。その場でみんなFに変換してくれる。全てコード進行に沿っているので、みんなわかってます。言葉はアドリブもありますけど。
辻 とにかく、TOKUがステージに立った途端、客席はすごく盛り上がった。歌とフリューゲルホルンではどっちが持ち味なの?
TOKU よく聞かれますが、自分の中にはどちらっていうのはなくて、歌いたい時は歌って、吹きたい時は吹きますね。
辻 歌い方はどこかいい意味で人を馬鹿にしてるような突き放す感じもあって、演奏は逆にすごく繊細で丁寧でジャズのど真ん中をいってる。同じ人からこんなに違うものが出てくるんだ、って。フリューゲル吹き始めると急に球体の中に吸い込まれるような……人を巻き込んでいくのがうまい。僕がTOKUに初めてお会いしたのは去年ブルーノート東京、SUGIZOの紹介でしたね、あの僕自身のライブの時なんですけど、その時も、人の楽屋に自分の楽屋みたいな顔で入ってくるなり風を起こして、英語ぺらぺらだから周りの外人たちみんなと握手して、めっちゃ盛り上がって異次元作っちゃって、誰だこいつ、とか思っていると、どこか居なくなるんですよ。世界中をこうやって旅しているんですか?
TOKU いろいろ行ってますね。日本にいる方が長いですが、今回のパリ滞在は1週間くらいです。明日帰る予定だったんですけど、ストでフライトがキャンセルになっちゃって、明後日帰ることになりました(笑)。
辻 今回はどのようなパリ滞在だったのですか?
TOKU 今回はジャズイレブンというレーベルがありまして、アーティストでありプロモーターであるピアニストのジョバンニという方が全部オーガナイズしてくれました。サラ・ランクマンという方のアルバムに参加させてもらっているので、そのプロモーションも兼ねて一緒にライブをしたりしています。去年はスイスやルーマニアのフェスにも一緒に行きましたね。今までにヨーロッパではノルウェー、スウェーデン、ベルリン。アメリカはもう何度も行ってますが、ニューヨーク、アトランタ、ロスなど。アジアは中国、韓国、台湾、インドネシアという感じかな。
辻 各国にジョバンニみたいな方がいる?
TOKU そうですね。ライブを設定してくれる方がいます。海外へ行くのは年3、4回ですね。1週間から2、3週間滞在します。
辻 なんか、大道芸人っぽいよね。TOKU、大道芸人説! 僕が初めてパリに来た時、35年くらい前かな。ポンピドゥーセンターの前の広場に一人の大道芸人がずっと座ってたんですよ。間もなく彼は静かに人の視線を一人で集めて、パフォーマンスを繰り広げたんですよ。恥じることもなく、媚びることもなく。TOKUのライブもそういう感じ。媚びる感じが一切ないし。とはいえ、突き放してるわけではなく、ありがとうって感謝の気持ちが伝わってくる。音楽の持ち方が大道芸人の方たちに似てるなって思って。音楽さえあれば和める人なんだなと思いました。でも、基本は東京でのライブが中心なんですね? ブルーノートが多い?
TOKU はい。日本国内もあちこち行ってます。ブルーノートはだいたい年に1度ですが、南青山にあるBODY & SOULというお店と、あと、六本木にアルフィーというお店があって、その2軒には1998年以来、月1回ずっと出演させていただいてます。だから、都内では毎月2回のライブに、その月によって新宿PIT INNでやったり、銀座Swingでやったり。
辻 ご出身は新潟だそうですが、いつ東京へ出て来られたんですか?
TOKU 大学に行くために東京に出ました。音楽がとにかく好きで。父親の影響が大きいですね。父親はミュージシャンになりたかった人なんです。高校の頃はビートルズがリアルタイムでしたからロックをしていて、大学の頃は青山学院大学のブルー・マウンテン・ボーイズというブルーグラスのサークルがあるんですけど、そこに入ってマンドリン、ギター、バイオリン、バンジョをやってたんです。ただ、大学在学中に祖母の会社が一旦倒産してしまって、それを助けるのに新潟に戻って会社を継ぐことになって。それでも音楽への情熱はずっとあったので、地元のアマチュアミュージシャンをサポートしたいという思いが強くて。そんな時に当時住んでいた家が道路をつくるという理由で市の立ち退きにあって、その時の立退料でスタジオを作っちゃったんです。といってもブース一個とコンソルルームがあるだけなんですけど。それが地元では初めての音楽スタジオで、バンドブームに乗っかって昼間は高校生、夜はサラリーマンと1日中人が出入りしていました。僕はそれを見ながら育ったんです。
辻 いつ頃から音楽を始めたのですか?
TOKU 小さい頃はサッカーが好きだったんですけど、進学した中学にサッカー部がなかったので、仕方なく吹奏楽部を覗きに行きました。その時にコルネットに出会った。全然真面目な部員ではなかったんですけど、絶対音感があるので隣の人が吹いてるのを聞いて、真似して合奏の時間を乗り切ってました。親父がマイルス・デイヴィスの大ファンだったのでレコードを聴きながらちょっと真似てみたりとか。高校に入ったら吹奏楽部をやめて麻雀に明け暮れることになるんですけど(笑)。その仲間の中にバンドをやってる人がいたので彼からエレキベースを中古で買って、ドラムを初めて、結局ロックポップを学校内で2つのバンドを掛け持ちしてやることになりました。うちにスタジオがあったから父親に鍵を借りてスタジオに行ってドラムの練習したりして。だから、大学の入学試験は全部落っこちて、浪人している時にギターを始めて長渕剛さんが好きになって弾き語りしたりしてました。
辻 大学在学中、留学をしたそうですが、その頃から世界が見えてきたんですかね。
TOKU 大学2年生の時、東京国際大学の在学中に語学留学プログラムでアメリカに1年間留学をしたんです。その時のルームメイトがたまたまジャズピアノをバリバリやっている人だった。ちょうど僕がジャズを始めたばかりのタイミングで。僕が到着した日に彼が僕のトランペットのケースを見つけて、「お前トランペットするの? 俺はピアノ弾くんだ。じゃあ、一緒にやろう」と言われて。僕はまだ2、3曲しかできなかったのに自分のバンドに誘ってくれて。これはチャンスだなと思って、参加してみたら周りがみんな上手く……彼らに揉まれながらリハーサルを繰り返して、大学内のカフェで週一で演奏させてもらってました。それがすごくいい経験になりましたね。
辻 その頃すでにトランペットを吹いてたの? フリューゲルホルンとの出会いは?
TOKU 僕はフリューゲルホルンのことを見たことも触ったこともなく、全く知らなかったんです。ただ、いろんなジャズのCDを聞いていると、ジャケットの裏のクレジットに「トランペット/フリューゲルホルン」て書いてあるんですよね。それで、フリューゲルホルンってなんだろうと思ってたんです。確かにCDをよく聞いているとバラードの時に明らかに音が変わる瞬間があって。持ち替えて吹くやつなんだろうなと思っていたんですが、ある日、友達が持ってるよって言うので見せてもらって、吹かせてもらって、一音吹いて惚れました。いい音だぁって。それで、バイト代何か月分かを貯めて、自分のフリューゲルホルンを買って、トランペットと2本持って演奏していたんですけど、だんだんフリューゲルの比重が強くなりました。
辻 フリューゲルホルンって、なんかイギリスの親父がヨレヨレになったハンチング被ってます、みたいな。ヨレヨレのハンチング的なラッパだよね。ビシッとした帽子じゃなくて……。TOKUはあまり野心はなさそうに見えますけど、これからの音楽的な方向はどうお考えですか?
TOKU これからは海外での活動を増やしたいと思っているんです。今まで出会った海外のミュージシャンたちときちんとクリエイトして形に残していきたい。パリにも住んでみたいですね。
辻 もし、パリに住んだら、うまいポルトガル料理の店に連れてってあげるよ!
posted by 辻 仁成