THE INTERVIEWS
「アートって、 アティチュードがまじ大事」Chim↑Pom的アート感 Posted on 2017/08/13 辻 仁成 作家 パリ
2020年の東京オリンピックへ向けて、スクラップ&ビルドを繰り返す東京、日本。
2016年10月、取り壊しが迫る歌舞伎町商店街振興組合ビルで行われた個展「また明日も観てくれるかな?」の強烈なインパクトは忘れられない。
東京オリンピックの開催へとひた走る日本、一方で福島の復興は果てしない時間を必要としてその先行きはまだ見えない。見えない復興に向けて地道に努力する人々がいる一方で、オリンピック景気に沸く日本。この六人組はスクラップ&ビルドを繰り返す日本にささやかな警鐘を鳴らす。
ザ・インタビュー、本日は、日本のアート界で異彩を放つ六人組アート集団、Chim↑Pomの紅一点、エリイへのインタビュー。
辻 Chim↑Pomのアートって、総称的には現代美術に入るのかな?
エリイ 現代美術だね。
辻 現代美術の新しいカテゴリー。僕は、会田 誠さん(現代美術家)みたいな専門家じゃないからあんまり詳しくは語れないけど。でも、例えば、初めてマルセル・デュシャンの« 泉 »が世に登場した時、これは芸術ですよって誰かが紹介した。すると人々は、それはただの便器じゃなくて芸術だと認識する。現代アートは、通訳を介して、通常を通常じゃないものに変化させる運動だったりする。もちろん、通訳がいないにこしたことはないのだけど、多くの作品の場合、わかりやすい解説が人々を腑に落とす(笑)。例えば、エリイたちがアテネのホテルでやった展示ね、誰かが311号室のドアベルを鳴らすと、そのベルが誰もいない福島の帰還困難区域の家のドアベルと連動していて、まず、福島の家の玄関でアテネで押したドアベルが鳴る仕組み。それが10000キロを戻って、アテネにもフィードバックされる、というものだけど、君たちが何もそこで解説しなければ、ドアも開かないし、観客はそれをベルの音だけが聞こえる「鍵のかかった部屋」だと思うだけだろうけど、その「鍵」は誰もが持っているものであり、誰もが失っているものだったりするんだ。こういうアートのコンセプトが、アートを、アートにさせたりする。とくに君たちの作品には、強いよね? このコンセプトが、展示会に訪れたギリシャの人々を日常から異次元へと誘う。君たちは、そういう運動を、すごく実践してる日本の若いアーティストだって気がするんだよね。ところで、リーダーの卯城くんは元気?
エリイ 元気! 前に京都造形大に講師として辻さんが呼んでくれて京都で楽しく飲んだよね。うちのリーダー(卯城くん)は本当に天才で、彼は本当に「日本が生んだ宝」だと思う。
辻 前はそこまで彼のこと褒めてなかったよね(笑)。
エリイ いや、私がちょっと大人になったの。あれ? この人もしかして天才なんじゃん? とか思って。それまで近くにいるから、めっちゃ面白ーい、超えてく力すごいな、っていう感じだったけど。
辻 なるほどね。でも、確かに、僕ね、いつもエリイを見てるとデボラ・ハリーを思い出すんですよ。ニューヨークのロックバンドブロンディ(Blondie)で、中心にマリリン・モンローみたいな格好の女の人がいる。一世風靡したパンクバンドのセックスシンボルが、デボラ・ハリー。エリイはそのデボラ・ハリーみたいな存在で、Chim↑Pomのある意味、広報担当であり、キャラクターであり、しかし、コンセプターの一人であったり、実は司令塔であったりする。君たちが人気あるのはやっぱりエリイが中心にいるからなんだと思う。それをコントロールしているのが卯城くんだ、と僕は踏んでいる(笑)。
エリイ でもね、卯城くんは誰もコントロールできないからね。エリイだけじゃなく、メンバーの誰のこともコントロールできずに彼は参ってるよ。
辻 確かに、君たちは一人一人すごい個性の塊だものね。あの、林君? 彼は何者なの? 頭の中を常に高圧エネルギーが駆けめぐっている感じ(笑)。でも、卯城くんは冷静な感じ。会うたびに成長を感じる。
エリイ えっとねえ。考え方がやっぱり違う。物事を見る角度が違うの。一つの物事を見つけるときに、私が見つける物よりももっと先を見つけてくるし、見つけるのがうまいのかもいしれないね。だからチームでやるのが好きなんだけど、自分一人では行けないところに行けるじゃん?
辻 単独でアートをしたことはないの?
エリイ ない。Chim↑Pomのアイデアは全員で考えてるんだけど、思考のミルフィーユみたいな感じかな。誰かが言ったことからヒントを得て作品に近づいてゆく。それってチームゆえの醍醐味なの。一人じゃ見ることができない景色を一緒に見たいし周りにも見せたい。そこに興奮するし私はそういうタイプ。
辻 エリイにはいつも驚かされる。その感覚と、批評眼と、正義感っていうか。人を外見で判断しちゃいけないっていう一番良い例だよね。いつも、なるほどって唸らされる。でも、エリイ、どうしてその喋り方、チンピラ風なの(笑)?
エリイ え、わかんない! なんで(笑)? 普通だよ。わかんない。
辻 エリイってさ、そのまま人生をアートの中の伝説で生きてる感じするよね。生きてるのに伝説の人みたいな。「私がアート」みたいなとこあるの?
エリイ 私がアートってとこあるよ。私が世界で一番のアーティストだと思ってるし。けど、喋り方に関しては、まあ、今気づいたけど(笑)。声が低いのは自覚してるよ!
辻 ところで、今、点と点を繋ぐアートって言うのが気になってるって言ってたよね。
エリイ 点と点っていうのは、昔から興味があるんだけど。立体感?
一つの物事と、一つの物事があって、それが繋がって立体的になっていくのがすごく好きなの。だからさっきも言ったようにチームでやってるというのもあるんだけど。歌舞伎町のビルの展示の時に、地下にライブハウスを掘って作ってバンド、ミュージシャンや演劇の方に来てもらって、超いい空間が生まれたわけ。アートと音楽の融合っていうか。音が入ることでこんなに空間が変わってくるんだ、とか思って。今までだったらただオープニングやって、展覧会やって終わりだったんだけど。そうやっていろんな人が協力してくれることによって、立体的になるなって、一昨日も思ったんだよね。みんな優しいじゃん。
辻 その、地下を掘るのもメンバーみんなで掘るんだよね?
エリイ そう、みんなで掘る。手伝ってくれる感動的な人もいる。地下はスナックみたいな空間だったんだけど、青焼き(図面)を見たら一階の床に埋まってる階段があって、掘ってみたら本当に階段があったの。部屋があったことは知ってたんだけど、その上の部分はもともと公衆トイレだったみたいで、階段を埋めて商売に使ってて最後に私が見たときはカレー屋さんだったんだけど、他にもいろいろ入ったりしてたみたい。それで、階段掘ってそこから行き来できるようにしたの。
辻 へー。なんか楽しそうだね。そういう活動はすごく楽しいと思うんだけど、それでみんなが生活していけるの? お金になるの? 生きていけるの?
エリイ え、いけない(笑)。だから、もう、超ギリギリで。ときどき作品が売れるけど、メンバー二人は私のおばあちゃん家に住んでるし、もうそろそろ自立したいみたいで出ていくんだけど。今、「無人島プロダクション」(所属ギャラリー)だけじゃ回らなくなったから「Chim↑Pomスタジオ」っていうのを作ったの。世界に対応していくためにそれを作って、アシスタントが二人いる。一人はニューヨークで育って、英語もできるし、いろんなアートシーンも知っていて、Chim↑Pomの作品を好きでいてくれる人。もう一人はムサビの後輩で写真を撮ってて。まだ二人ともめっちゃ若いし、超イケてんの(Vサイン)。
辻 その人たちにも給料払ってるの?
エリイ 一応払ってるんだけど、でも来月から払えないかもしれない。どうしようね…。
辻 Chim↑Pomって株式会社なの?
エリイ 違う。組合。漁業組合みたいな。場所は高円寺の今ちょうど個展をやってるギャラリーと、あと青山にもあるんだけど。そこは、ミッドタウンで卯城くんと「お金とアート」というトークイベントをしたときに、「六本木のお金持ちの人は家を余らせているんだったらアーティストに開放するべき」というようなことを言ったら、スイス銀行に勤める外国人が、「僕が買った家が空いてるから、アートレジデンスにしたい」と申し出てくれて、そこをメンバーと改築して、海外からアーティストが来たときはそこに泊まる。みたいにしてる。
辻 すごいね。やっぱ、アートのパトロンってすごいね。Chim↑Pomにはパトロンとかいるの?
エリイ いない。応援してくれる人は海外問わずたくさんいるけどね。
辻 作品がないもんね。
エリイ いや、それは関係ないと思う。行為が大事だし。やっぱり、海外のギャラリーもついてないからつけたい。でも縁なんだよね。有名ギャラリーだからってどこでも入ればいいわけじゃなくて、愛がないとね。私たち、ほら、繊細じゃん(笑)?
辻 よくわからないけど(笑)。でも、これだけ世界に出ていてアメリカに行ったり来たりしてたじゃない。いつ連絡しても世界のどこかにいる感じなのに、それでもギャラリーつかないんだ。やっぱりChim↑Pomって名前が悪いのかな。
エリイ いや、名前じゃないと思うんだよね(笑)。
辻 今の冗談だよ(笑)。ギャラリー側からしたら売りづらいのかな?
エリイ うーん、さっきも言ったように本当に縁だと思う。でも全ては最高のタイミングでやってくるからね。
世界に出てるけど、まだそれは点でしかないのかもしれない。でもだんだんそれが繋がっていって立体的になり世界に根ざしていくんだ。
作品を売りたいとか、ギャラリーじゃなくてもいいという感覚は私にはある。
辻 美術館とかの一角とかで何かできたらいいよね。
エリイ そう、逆に美術館にはめっちゃ呼んでもらってる。有り難いことに多すぎて、行けずに作品と指示書だけ送ることも多いよ。新規の作品を作る時は行くけどね。9月は台湾ビエンナーレと、ダラスで個展。その後はドイツも行く。あ、そのもっと前にアメリカのどこだったかな、巡回展にも呼ばれてる。そういえばフランスの美術館にも呼ばれてたんだけど、作品送るだけになっちゃった。パリで一緒に飲みたかったね! Chim↑Pomは人数が多いから旅費が大変で。例えば、こないだはメキシコに作品を作りにいったんだけどそれは自発的に自分たちが作品を作りたいから行ったわけで。旅費も滞在費も全て自分たちで貯めたお金を使って、無くなっちゃった(笑)。海外の展覧会の旅費の事でいうと、結成10周年の時にそれまで美術館や機関などに制限されてきてしまったいくつかの事について、私たちがアートに対して申し訳ない事をしてしまったという展覧会を東京で発表したら、その発表したことに対してある機関に超切れられて。それ以来、その機関を通した助成金がおりなくなった。でもね、今の時代、制限されてそれでなあなあに忖度したりしたら、まじ、アートなめられるし。そこをうまくやってる人って日本では超売れてるかもしれないけど、世界では絶対に無理。アートってアティチュードがまじで大事だから、それがちょっとでもブレるってことは、まじ、「死」を意味することなわけ。日本って企業に出てる人が偉いし、テレビに出てる人が偉いんだけど、そんなのアートの世界では関係ないから。
辻 そういうことを含めて、エリイにとってアートとは何なんだろう? どこまでがアートなの?
つまり、アートの範囲。アートってさ、昔の文学に近いなって思う。文学のクリティック、タブーといわれるものに果敢に挑んでいたのが文学だったと思うわけ。今は文学をそこまでやってる人たちはあまりいないけど、昭和の頃っていろんな問題に文学が立ち向かってた。オブラートに包んだり迂回しながら、言いたいことの核心を突くという技法でね。どういうところがエリイが考える今のアートなんだろう。直接的に表現して、何もかもが「アートです」って言われると、僕なんかはちょっと陳腐だなって思うこともあるわけ。
エリイ 人によって違うんじゃないかな。手法も全然違うし、絵なのか映像なのかとか、行為なのか。オブラートに包むことが全ていいことだとは思わないし、包まないことがいいことだとも思わない。その物事が何が一番いいことなのかっていうのが最終地点で、その結果に対して巻き戻していくわけだから、何を一番いい状態で見せれるのかっていうのが一番重要で、それは直接的かもしれないし、間接的かもしれない。なんか、料理のレシピと似てるかもしれない。完成形の写真があって、それにたどり着くにはどこでどうしていくのかな? みたいなことをやってる気がする。
辻 面白いね。ただ、「ぼかす」っていうのはね、そこから次の言葉や発想に続けられたりもする。ある事柄をどういう風にどんな言葉で伝えるか、そこで、その先を提示できる手法だと思う。もしかしてこういうことが言いたいのかな? と受けとる側の脳を働かせる力もある。気づかせることが作家の仕事だったりするのかなって思う。
エリイ でもねえ、Chim↑Pomは全て完璧な形でだしてるよ。一つの作品を作るじゃん、それは全てChim↑Pomが作るほかの作品と繋がってて、後に出す作品によって前の作品の意味も変化したりするのがすごく面白いな。全部見てほしい!
辻 その100%の自信がすごいな(笑)。いつもそうだよね(笑)。最後に、今、目指しているものとかあるのかな?
ずっと311に関わってきたり、「消えゆくものの哀れ」みたいなのが前面にあったと思うんだけど、これからの展開はもう考えているのかな?
次はどうする? とか。発想にスランプとかはないの?
エリイ スランプとかないね。私たち六人いるから、いつも誰かが元気でしょ。それ超大事だよ。一人だったら、100%落ち込んだら100%落ち込まなきゃならないけど、六人いれば誰かが50%元気で、誰かが100%元気だったら、80%くらいにはなるじゃん。
辻 エリイは世界のアートだね。
エリイ 私、いっつもそう思ってるんだけどね。あのねえ、他のアーティストにも会ってみて欲しい、エリイがいかにすごいアーティストかってことをわかるために。
辻 (笑)。はいはいはい。OK。それくらいじゃないとダメだよね。エリイは負けないもんね。
エリイ いや、負ける負けないじゃないもん。自分の中での勝ち負けはあるとしてもね。
辻 ほんと楽しそうだよね。
エリイ すっごい楽しい。まじ、たまに起きると感謝する。こんな楽しい人生をありがとうって(笑)。辻さん、私になったと思ってみて。やばいから!
辻 この良さが、映画のカメラ回ると全然出ないんだよねー。残念すぎるよ(笑)。
posted by 辻 仁成