PANORAMA STORIES
地中に潜むダイアモンドを育てるために Posted on 2022/01/11 ムーケ・夕城 トリュフ栽培士 フランス・ドルドーニュ
「想像力豊かな人たち」
これが、私が触れてきたトリュフ栽培士たちの姿です。その視線は見えない地中のミクロの世界を見ている__。
時代を遡り、紀元前古代エジプト・ギリシャ時代。その頃はまだ「菌類」という概念がなかったため、高名な哲学者の間でもトリュフは”稲妻と共に誕生するもの”や”自然の奇跡”と定義されていました。「菌」という存在が明らかになった現在でも、トリュフの住まいが地表下であるがゆえ、そのミステリアスさは顕在しています。
トリュフ菌は地下生菌の一種「菌根菌(きんこんきん)」と呼ばれています。
トリュフ菌(菌根菌)は宿木となる木の根っこに菌根を伸ばし、土から吸収した水やミネラル分を木に与え、その代わりに木から糖分やビタミンなどの栄養分をもらうという、宿木との助け合いで生きていく菌。「菌」というと、何かに寄生し、一方的に相手から栄養分を吸収するというイメージを勝手に持っていた私は、このトリュフ菌の生き様を知り、ますますトリュフが好きになりました。
しかし、宿木とトリュフ菌の共生も数年経つと少し変化してきます。地中のトリュフ菌が増殖し、宿木へ要求する養分の量が増えてくるのです。すると、宿木は、こんなに吸い取られてはたまらん! とトリュフ菌を殺し始める……。
なんたること、宿木とトリュフ菌の戦争突入です。
その戦争を鎮めるために一肌脱ぐのが、トリュフ菌の最大の理解者、トリュフ栽培士なのです。
栽培士は宿木を「剪定」します。この作業はトリュフ栽培士にとって一番大切な仕事と言えるでしょう。枝を切られることによって宿木は新しい根を伸ばしますので、根とトリュフ菌のバランスをとることができるというわけ。剪定することで同時にトリュフが大好きな太陽光を地面にたっぷり届けることもできますので、この作業は7月か8月に行われます。真夏の炎天下、何ヘクタールもある土地の木の剪定を行うのは辛い作業ですが、ここ一番の踏ん張りどきを栽培士は見逃せません。
見えない地中に潜むトリュフの成長周期を十分に理解した上で、タイミングよく剪定できるかどうかが、数年後の収穫に大きく影響を及ぼしていくのです。
真夏の剪定の他にも、一年を通してトリュフ栽培士に欠かせない仕事はたくさんあります。
春には究極の力仕事、「グルリネット」。宿木の周りに空気を送り込んであげる作業で、刃が5本付いた鍬のような、Grelinette(グルリネット)と呼ばれる道具で地面に刃を突き刺しては土をそっと持ち上げます。機械では繊細なトリュフ菌を傷つけてしまうのでマニュアル作業のみ。
ペリゴール地方のトリュフ栽培士パトリックの園にお邪魔した時、「宿木の周りをむやみやたらと歩いてはいけないよ。トリュフは上から突き固められるのを嫌うからね」と言われ、慌ててその見えないサークルの外へ飛び出したことがありました。宿木が円の中心だとすると、その周りにトリュフ菌が放射線状に広がっていくので、円の半径上という近道はせず円周上を歩いて反対側に行く、という道筋を辿らないといけないわけです。
夏の「水やり」もとても大切です。2017年夏、欧州は干ばつでトリュフ生産量が史上最低でした。収穫できたのは、撒水システムを持ち十分な水分を与えることができた栽培士のところだけだったのです。
トリュフ栽培士の敵は厳しい天候だけではありません。晩冬には、野生動物や小動物に食べられてしまった苗の数をチェックして植え替えをする「インベントリー」も欠かせません。
また、何年経ってもトリュフを生産しない宿木には起死回生テクニックも施します。宿木周りに穴を開け、バーミキュライト(建築・保温断熱材に用いるひる石 )にトリュフ胞子を混ぜたものを埋め込み、オスとメスの環境を地中に作ってあげるというもの。
”トリュフをもっともっと理解したい”
この気持ちをバネに、新米トリュフ栽培士の私も年中通してトリュフの成長を助ける作業を繰り返しています。
地中で育つ黒いダイアモンドに思いを馳せながら……。
そして、編集部からのお知らせ。
2022年1月16日の地球カレッジは、ムーケさんが経営するトリュフ農園で、辻仁成が初トリュフ狩りに挑戦することに・・・。
ご興味のある皆さま、オンライン・ツアーにご参加ください。
ムーケ・夕城(トリュフ栽培士)×辻仁成「ブラックダイヤモンド、黒トリュフの魅力」辻仁成がトリュフの聖地ドルドーニュにて、トリュフ狩りに初挑戦
2022年1月16日(日)20:00開演(19:30開場)日本時間・90分を予定のツアーとなります。
【48時間のアーカイブ付き】
※アーカイブ視聴URLは、終了後(翌日を予定)、お申込みの皆様へメールにてお送りします。
この講座に参加されたいみなさまはこちらから、どうぞ
チケットのご購入はこちらから
※ フランス南西部に位置するドルドーニュ地方の山奥に位置するトリュフ園からトリュフの魅力を御覧頂く予定の生配信を準備しておりますが、天候など様々な理由で一部変更になる可能性もあります。山奥にある、広大なトリュフ園からですので、電波が乱れる可能性もございます。最大限の状況を模索しながら、当日、トリュフ犬と栽培士さんらと力を合わせ、挑む形になります。嵐にならない限りは決行いたします。
Posted by ムーケ・夕城
ムーケ・夕城
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トリュフ栽培士
トリュフ園所有。トリュフ栽培協会会員。Best of Perigord主催。土やガラスを使った創作活動も行う。パートナーはフランス人ミュージシャン、ディープ・フォーレストのエリック・ムーケ。自宅スタジオにやってくる音楽関係者のレセプションも担当。2児の母。