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大地の奇跡、黒いダイアモンド Posted on 2018/01/03 町田 陽子 シャンブルドット経営 南仏・プロヴァンス

大地の奇跡、黒いダイアモンド

この冬、プロヴァンスでは、どこに行っても、ある農作物の不作について持ちきりである。否、正確にいえば、農作物とはいえない。プロヴァンスを代表する冬の味覚ではあるが、なにしろ、採れるかどうかは運次第、という代物だから。

「ブラック・ダイアモンド」と呼ばれる、トリュフである。
フランスのトリュフの85%がプロヴァンス産といわれるが、2017年は最悪の収穫量。2014年、南仏全体の収穫量は60トン、2015、16年は20〜30トン、2017年は想定10トン以下。長年トリュフに関わっている老人たちは口を揃えて、こんなに採れない年は生まれて初めてだと言う。原因は、降雨量が少なすぎ、土が乾燥しすぎてしまったせい。

もともとプロヴァンスは雨が少ない乾燥した地方である。とくに夏は降らないのだが、ときおり激しい夕立が雷とともに訪れる。それがこの夏はまったくなかった。私が暮らす町リルシュルラソルグでも3ヶ月間、雨の気配がまったくなく、8月末にトランジットでパリに降り立った際、久しぶりに湿った雨の匂いを嗅いで懐かしさすら感じたほどである。
 



大地の奇跡、黒いダイアモンド

トリュフというのは、じつにミステリアスな生き物である。土中に生育するキノコの一種で、コナラやカバノキ、ネズなど限られた木の根にしか育たない。しかも二十歳くらいまでの若い木の根っこがお好みで、青年期を過ぎた木にはほとんど寄りつかないという。

昔のプロヴァンスでは、農民がジャガイモのように食べ、豚の餌にもされていたそうだが、フォアグラ、キャビアと並び世界三大珍味といわれるほどに高価なものとなった現在では、ナラの林にトリュフ菌を植えつけて栽培されている。ところが同じ条件で育てても、数メートルの違いで、まったく採れない場所と採れる場所ができ、人間が水をまいても、雨のような効果は得られない。そして、収穫のベストタイミングは新月のあと。
 

大地の奇跡、黒いダイアモンド

相棒ダヴィッドは、トリュフを「大地の奇跡」と呼ぶ。
男も女も謎めいているほうが魅力あるが、黒い塊キノコも同様で、我々の関心を引きつけてやまない。

冬の金曜日、リルシュルラソルグの隣町カルパントラで、その週のトリュフの取引価格が決定される。
翌土曜日には、リシュランシュという北の村でトリュフ・マーケットがあるが、その様子たるや、まるで麻薬売買。車の後ろのトランクを開けたバイヤーがずらりと並び、そこにトリュフ・ハンターたちが犬の嗅覚に助けられて採ったトリュフを手に列を作る。あちらでもこちらでも、ヒソヒソとトリュフの値段交渉が行われ、即時現金で支払われる。昼近くにもなれば、各バイヤーのトランクの中はトリュフの山。それがパリへ運ばれ、ニューヨークやロンドンや上海や東京へと飛んでいく。もちろん、値段は倍々ゲーム。
私たちが地元で買うのは、質のよいメラノMélanoという種類で通常1キロ800ユーロほど(約10万円)。ノエル時期のパリのマーケットでは4000ユーロ(50万円以上)の値がつく。
 

大地の奇跡、黒いダイアモンド

トリュフは、しっかりとした香り高いメラノと、質が劣るブリュマルBrumaleに大別できる。値段は倍も違うのだが、見た目で判断できないのが厄介である。バイヤーたちは、親指の爪でキュッと押し、その一瞬の弾力で見分けている。ダヴィッドも、今では一人前にその作法を披露してはウンチクを傾けている。もし、フランスでトリュフを買う機会があったら、フリだけでもやってみてほしい。おぬし、トリュフをご存知ですナとばかりに店主から一目置かれ、奥から上物を出してもらえるかもしれない。

我が家のシャンブルドットの冬の名物料理といえば、黒トリュフを使ったブリュイアードである。よく、トリュフはオムレツといわれるが、プロヴァンス人のダヴィッドに言わせれば、オムレツは最良の料理ではないらしい。同じ卵料理でも、半生に仕上げるとろりとしたブリュイアードが最高なのだとか。プロヴァンス地方のスクランブルドエッグである。トリュフの独特の香気と卵の甘みが一体となり、単純で素朴な味わい。そして、一度食べたら忘れられない強烈な印象を残す代物である。ある日本人夫婦のお客様など、一度食べたのが運のツキ、毎年、これを食べるために、はるばる往復2万キロを超えてやってくる。
 

大地の奇跡、黒いダイアモンド

トリュフが採れる時期は、地域によって異なるが、プロヴァンスの黒トリュフは通常12月〜2月末。中が薄茶色の夏トリュフは5月〜8月である。

昨年の11月末、パリのエッフェル塔の近くの庭の地中から、偶然、21gの野生のトリュフが一つ見つかった。あまりの珍しさに、フランス国立自然史博物館のコレクションに入るかもと、騒がれている。

現在、トリュフ菌を植えつけたコナラの苗が世界中に輸出されており、一攫千金を狙う人たちがそれを自国で植え付け、成功しているケースもあるという。パリの真ん中で偶然に育つくらいなのだからして、もしかしたら、日本でも……。
 

大地の奇跡、黒いダイアモンド

ダヴィッド流「ブリュイアード」の作り方  ◉Brouillade

<材料>二人分
卵 4〜5個
黒トリュフ 30g
バター 15g
塩 ひとつまみ

❶湿らせたブラシを使ってトリュフの土をしっかり落とす。最後に水で流し、すぐ布で水分をとる
❷密閉容器にトリュフと殻つきのままの卵を一緒に入れて1日常温でおき、容器の中で、卵がトリュフの香りを最大限に吸収するのを待つ。
❸トリュフをみじん切りにする。歯ごたえを楽しめる程度の大きさに。
❸ボールに卵を割り入れ、めいっぱい攪拌する。塩を加える。泡がたっぷり経つまで、さらに攪拌。
❹フライパンにバターを溶かし、卵を流し入れ、ヘラで根気よくかきまぜ続ける。ずっと極弱火。湯煎するのがベストだが、面倒なので、うちでは直火。根気がある人は、ぜひ。
❺かたまり始めたら、スプーンで潰す。全体にとろりとした状態になったら火から下ろし、❸のトリュフを一気に入れて混ぜ合わせる。
❻すぐに器に移す。蓋つきの器だと、蓋を開けた時にふわっと香りが立つのでオススメ。
※メラノは火に弱い。鶏の中に入れて丸焼きするような時は、火に強いブリュマルの方が向いている。
 

大地の奇跡、黒いダイアモンド

料理撮影: Sumiyo Ida

 
<保存の仕方>
土がついたままの状態でラップに包み、冷凍(マイナス45度くらいで)。
あるいは、みじん切りにしたトリュフをゆるめのバターに混ぜてトリュフバターを作り、ラップに包んで保存。必要な時に切り分けて料理に使える。
 



Posted by 町田 陽子

町田 陽子

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Yoko MACHIDA
シャンブルドット(フランス版B&B)ヴィラ・モンローズ Villa Montrose を営みながら執筆を行う。ショップサイトvillamontrose.shopではフランスの古き良きもの、安心・安全な環境にやさしいものを提案・販売している。阪急百貨店の「フランスフェア」のコーディネイトをパートナーのダヴィッドと担当。著書に『ゆでたまごを作れなくても幸せなフランス人』『南フランスの休日プロヴァンスへ』