PANORAMA STORIES
クリスマスリースが我が家の玄関にかかったイヴ Posted on 2019/12/24 辻 仁成 作家 パリ
知り合いの知り合いがパリでフローリストをされていて、その人が前回のライブを観てくださって、そのご縁からか、或いは「今年はツリーもない寂しい辻家」とツイートしたから不憫に思われたのか、手作りのリースを送ってくださった。早速、息子と玄関に飾ってみたら、なんかフランスの家のようになった。そこで知り合いを介して、フローリスト、岡本文子さんにお礼の電話をしてみた。彼女はスイス国境沿いのスキー場にいた。ご家族でスキー中だそうで、羨ましい。ぼくは好奇心の塊だから、スキーの最中だというのに、なんとなくインタビューをしてしまった。
辻 クリスマスリースってフランスではどういう位置づけのものですか?
文子さん(以下、敬称略) 昔は家を守るというか、やっぱり魔除け的なものだったみたいですね。でも、今はデコレーションですね。
辻 クリスマスリースのアトリエをされているそうですが、お客さんはフランス人?
文子 日本の方もいらっしゃいます。
辻 フランス人と日本人だとリースを作る目線というか、向き合い方も違うのですかね?
文子 全然違います! 日本人は説明通りに作ってくれます。フランス人は私たちがどれだけ説明しても、自分の好きなように作ってしまいます(笑)。かなり独創的。
辻 なるほど。わかりやすい。それだけで日仏の違いが出てます。
文子 フランス人は服装のスタイルなんかもそうですけど、自分の好みをよく知っていて迷いがないんですよ。そこに向かって突っ走る。日本の方々は迷うんですけど、器用なので、完全なものが出来上がります。
辻 その情景が目に浮かぶ~(笑) ところで、ユーはなぜフランスに?
文子 ミーは、フラワーアレンジメントの本場でお花の勉強がしたくてパリに辿りつきました。それで、顔がタイプだったフランス人に引っかかって、そのまま結婚し、今に至ります(笑)。
辻 パリでお花の仕事って、みんな憧れると思うのですけど、きっと大変な道のりだったのでしょうね。でも、夢が実現して素晴らしい。今のお仕事はいつ、どういう時に楽しいって思えます?
文子 「おまかせ注文」が多い時とかですかね。花の需要が日本に比べて断然ある上に、イメージだけ説明してあとはおまかせ、といってくれるので、いろいろなことにチャレンジ出来て凄くやりがいがあるんです。可愛いって褒められるとそりゃあ天にも昇る気分です。
辻 でも、結構肉体労働なんでしょ?
文子 毎朝3時に起きて、ランジス(市場)まで買いつけに行ってますよ! ランジスで花の生産者さんたちと話すのがめちゃ楽しいんです。すっごく哲学的だし、愛が溢れているし、花を育てているからか純粋だし、優しいし。彼らの人生観をお花を習いに来た方々にも経験してもらいたいので、”ランジスツアー”を企画したりもしています。
辻 わ、ぼくも参加したい。で、今後の夢や目標は?
文子 いつか、自分たちの「花畑」を持ちたいと思っています。お花の生産者になりたい。そこまでいけば、本当のフローリストになれると思うので。あ、夫が呼んでいるから、ちょっと滑りに行きますね。辻さん、来月のライブにも行きます。出来れば、夫と!
辻 おっと~。
文子 それ、ダジャレですか???
ということで、我が家の玄関がキラキラ輝いている。星型の美しいリースであった。そして、夜になるとこれが点滅するのだ。今年も息子と二人きりだけど、なんかちょっと輝いている気がしてきた。さようなら厄年、そして、メリークリスマス!
岡本文子(おかもと あやこ)
パリジャンに大人気のコンセプトストアMerciのフローリストとして勤務していた時に出会ったナタリー譲と二人でアトリエカーミンを設立。アトリエカーミンはお花屋さんではなく、イベントやウエディングの装花やブーケ教室やワークショップを主な活動としている。二人のこだわりは、季節感を大切にすること。葉っぱや枝ものを積極的に使った「シャンペトルスタイル」、いわゆる田舎風のアレンジを得意とする。フランス人にも日本人にも人気のお店のない花屋さん、である。
アトリエ・カーミン :https://ateliercarminfleurs.com/
Posted by 辻 仁成
辻 仁成
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作家。パリ在住。1989年に「ピアニシモ」ですばる文学賞を受賞、1997年には「海峡の光」で芥川賞を受賞。1999年に「白仏」でフランスの代表的な文学賞「フェミナ賞・外国小説賞」を日本人として唯一受賞。ミュージシャン、映画監督、演出家など文学以外の分野にも幅広く活動。Design Stories主宰。