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「母ちゃんはつらいよ」ロックダウン生活を覗く Posted on 2020/04/11 Design Stories  

家という場所が学校になり、会社となったロックダウン生活。家の大小もあれば、2人家族、4人家族、6人家族の家だってあります。外にも出られず、家族全員が24時間みっちり向き合う生活を強いられることになれば、正直なところ、ずっと仲良しというわけにもいかなくなってくるでしょう。ここフランスでも、あちらこちらで大なり小なりの家庭問題が勃発し始めてきているようです。悲しいことに家庭内暴力も急増し、フランスでは4月1日から外出制限中の家庭内暴力通報専用番号「114」が設定され、SMSでSOSが送信できるようになりました。(SMSの送信元を警察が割り出し家宅捜査が可能になる)できるだけ多くの方に、この番号が必要ないことを願うばかりです・・・。

日本でも始まった外出自粛、外出制限生活。すでに煮詰まりそうな方々も多いと思いますが(フランスの心理学者によると、3週目以降が精神的にきつくなってくるらしい)、3週間先をいくフランス、しかも完全封鎖状態となっている国で、みんな一体どんな生活をしているのか、ちょっと覗かせてもらいましょう。

パリでフローリストをしている岡本文子さんは現在、パリ近郊にある自宅で、フランス人の旦那さんと息子さん2人(9歳と5歳)の家族4人で外出制限生活を送っています。

「母ちゃんはつらいよ」ロックダウン生活を覗く




体育会系ワーキングママの文子さん。フローリストの仕事はというと、結婚式やイベントはすべて禁止、ランジス(市場)自体も閉鎖なので、予定されていた仕事は見事に全部キャンセルになってしまったそうです。だけど、文子さんは、「私だけでなくみんなが同じ苦しい状況だし、今後のことはまた今後考える! 人生は勉強の繰り返し」と、この外出制限中は仕事のことは一旦考えず、家族との生活を充実させることに専念することにした、とのことでした。

そんな前向きな文子さんにロックダウン中の現状を聞いてみると、フローリストという職業柄「体力には自信がある」とした上で、「毎日疲れ果てている。1日があっという間に過ぎていく・・・」と、少々ノックダウン気味。
「この生活になって一番大変なのは子供の勉強を見ること。私は鬼軍曹となって、体育まで教えている」と話す文子さんですが、1日の流れを聞いてみると、学校から出される子供たちの自宅学習課題の監督、食事の準備、子供の庭遊び(縄跳びなどの特訓)、日本語教育、お菓子作りなどのアクティビティ、片付け・・・と、休む間も無い様子。旦那さまはテレワークでお忙しいようで、唯一、自分の時間といえば、朝、子供たちが起きる前のひと時と、夜寝る前の時間のみ。そんな母の苦労をよそに、体力のあり余る子供たちは朝晩必ず「今日は何食べるの?」「明日は何するの?」と質問を繰り返すので、追い詰められた気持ちになることもしばしば、だとか__。

「母ちゃんはつらいよ」ロックダウン生活を覗く

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そんな文子さん一家には、突然の外出制限令で、もう一つ大変なことがありました。
それは、「引越し」です。準備に時間を費やしてきたのに、新居の鍵をもらう3日前に外出制限令が発令、鍵はもらえなくなり、引越し業者にも断られ、引越しはあっけなく延期に。さらには、引越し前に荷物を減らそうと必死になっている文子さんに対し、スポーツ大好きの旦那さんが室内バイクトレーニング機を購入してしまったり、文子さんが断捨離したものを旦那さんが拾い、元の場所に戻す、断捨離、元に戻す、という無限のループにハマってしまっているそう。先を見て段取りをする日本人と、今現在の快適を優先するフランス人の性(さが)が文子さんを悩ませているようです。

「母ちゃんはつらいよ」ロックダウン生活を覗く

急に仕事ができなくなり、引越しはキャンセル、慣れない外出制限生活にストレスは溜まる一方・・・。ロックダウンになったばかりの頃は、「終わりの見えないこの生活とどう向き合えば良いのか」と途方に暮れ、家庭内ストライキをしてふて寝をした日もあったそうです。だけど少し時間が経った今、「仕事のことを考えると胃がキリキリ痛いけれど、それを考えなければ、元気な息子たちと今こんなに濃密な時間を過ごせるなんて最高なことだと思う。息子たちもすごく嬉しそうで楽しそう」と、一旦立ち止まらせられたからこそ見えたモノがあったと言います。

食事や仕事、子供の勉強、遊び、全て「家」でこなさなければならなくなった外出制限。特に、小さい子供がいる家庭の外出制限は決して簡単なものではありません。爆発寸前のお母さんもたくさんいることでしょう。しかしながら、今、世界が突然ストップしてしまったことで、たくさんの人々が ”一番大切なこと” に気づき始めているのも事実。こんなことが起こり得るとは想像もしていませんでしたが、起こらなければ人々は振り返ることもなく、ただ忙しく日々をこなすだけだったかも知れません。

まだまだ油断の許さない状況。おそらく、フランスの外出制限生活はまだまだ続きます。このちょっと窮屈な生活の中で、家族一人ひとりの妥協や協力は、外出制限期間が家族の絆を深める時間になる「鍵」となるでしょう。

#stayhome



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デザインストーリーズ編集部(Paris/Tokyo)。
パリ編集部からパリの情報を時々配信。