PANORAMA STORIES
謎めいたパリの地下世界。下水道博物館編 Posted on 2022/11/30 ルイヤール 聖子 ライター パリ
パリの地上は、何世紀にも渡ってさまざまな歴史を刻んできました。
それと同じように、パリの地下にも非常に長い歴史が詰まっています。
有名なところではカタコンブの地下墓地、採石場跡地などがありますが、これはまだほんの序の口。
先の世界大戦ではレジスタンスの隠れ家であったり、修道院の秘密の抜け穴があったりと、私たちが歩く道の下には、謎めいた地下空間がクモの巣のように張り巡らされているとのことです。
ということでパリの地下はよく、穴のあいたチーズに例えられます。
浅いところから順に辿っていくと、地上〜地下10mくらいまでは下水道や地下室、地下駐車場などに使われています。
そして地下10m〜15mの辺りはメトロに、地下15m〜20mの辺りは高速鉄道(RER)に。
さらに深い地下20m〜25mの地点には、19世紀まで存在した建築用の採石場がありました(主に左岸からパリ南部にかけて)。
ちなみにその採石場は、1955年には一部を除き法律で立ち入りが禁じられています。
しかしながらかつてのパリジャンは、19世紀末から立ち入り禁止となるまで、採石場の広大な坑道に秘密のギャラリーやワインセラーを築き残していったそうです。
今では一般の人が訪れることはほとんどありませんが、パリ左岸に謎の地下空間が広がっているのはこのためなのでした。
※巨大な地下世界に繋がっているとは思えない、こじんまりとした入口
一方、一般の人が気軽に入れるパリの地下が存在します。
その名も「Musée des Égouts(下水道博物館)」。とてもマニアックな博物館で、「大人の社会科見学」ができるとパリでも噂になっている場所です。
こちらは2021年にリニューアルオープンしたばかり。
下水道施設を見学できる国はいくつもありますが、稼働中の地下下水道を博物館としているのは世界でもパリだけなのだそうです。
だいたい5mくらいでしょうか、階段を下りきった場所で目にしたのは、意外にも綺麗な地下空間でした。
しかしながらここは見学用に整備された入り口付近、やはりまだ序の口です。
ガイドさんや他の方々と一緒に進んでいくと、匂いは一層きつくなり、隠しダンジョンのような迷宮世界が広がっていました。
博物館では、作業員がパイプの整備に実際に携わっている姿や、水量調整のための水門装置などを見学することができます。
現在、下水施設で働く人は約270人いるそうですが、危険度の高い仕事のため定年は52歳とフランスでも非常に早く設定されているとのことです。
パイプの全長はなんと2670km。
網目のようにパリの地下に張り巡らされていて、やはり地上と同じく、オスマン県知事によるパリ大改造計画の一環だったといいます。(博物館自体はほんの500メートルの距離です)
※関係者以外立ち入り禁止、の表示の向こうにさらに続く地下世界
いま、家庭排水に関するネットワークは十分に整備されていますが、一番怖いのはセーヌ川の氾濫なのだとか。
そのため大洪水が起きて下水道の容量がオーバーとなった際は、この博物館は水量調整タンクとして機能する運命にあるそうです。
※地下空間にも地上と同じ標識が
頭上に滴り落ちる雨水に、暗く湿った足元。
パリの地下の奇々怪々さは、地上から近い下水道博物館にもすでに現れています。
パリほど地下と密接な関係をもつ都市は他にないかもしれません。
しかも、この街の下には驚くべき世界がまだまだ広がっています。
そんなパリの地下空間を、折を見てまたご紹介できたらと思います。
Posted by ルイヤール 聖子
ルイヤール 聖子
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猫と香りとアルザスの白ワインが好き。