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愛すべきフランス・デザイン「パリのヴィンテージにモダンを吹き込む、日本人アクセサリー作家」 Posted on 2024/06/14 ウエマツチヱ プロダクトデザイナー フランス・パリ

蚤の市でズラーッと並ぶビーズや、アクセサリーパーツを前に、胸躍る経験をしたことがある人は少なくないだろう。
いくつか買ってみたものの、結局、うまく使えずに裁縫箱の中で眠らせてしまう私だが、そういったものを組み合わせて、ひとつの作品に昇華させる日本人アクセサリー作家がいると聞き、話を伺いたいと思った。



愛すべきフランス・デザイン「パリのヴィンテージにモダンを吹き込む、日本人アクセサリー作家」

※ヴィンテージのカボションのヘアピンシリーズ

愛すべきフランス・デザイン「パリのヴィンテージにモダンを吹き込む、日本人アクセサリー作家」

※贈り物に選びやすイヤカフも人気

100年以上前のものをアンティーク、それより新しいものをヴィンテージと呼ぶ。
原口朝美さんは「Câline Paris(カリーヌ・パリ)」というブランド名で、オリジナルのヴィンテージアクセサリーを制作しているが、主に30-60年代製のカボションという半球状の石やパールを、当時の台座に組み合わせて作る。
そもそも、ヴィンテージと呼ばれるものをどのようにデザインするのか。
その秘密に迫るべく、来シーズン春夏コレクションの素材買付に同行させてもらった。

愛すべきフランス・デザイン「パリのヴィンテージにモダンを吹き込む、日本人アクセサリー作家」

※アクセサリー作家の原口朝美さん

愛すべきフランス・デザイン「パリのヴィンテージにモダンを吹き込む、日本人アクセサリー作家」

※蚤の市のビーズ屋さんでもインスピレーション

この日、原口さんは以前、購入済みだった台座を手に、それに合うものを探していた。
素敵だと思った台座を選び、そこに合うカボションを見つけてはめていく。
彼女が好んで使うものは、微妙な色合いや、ニュアンスがある60年代のもの。
今回みたものは30年代のものが多かったが、80年代になるとハッキリとした色合いになったり、年代によってカボションの表情は異なる。

愛すべきフランス・デザイン「パリのヴィンテージにモダンを吹き込む、日本人アクセサリー作家」

※パールのカボション

愛すべきフランス・デザイン「パリのヴィンテージにモダンを吹き込む、日本人アクセサリー作家」

※アイスキャンディのようで、春夏にピッタリ

また、同じシリーズに見えても、色によって微妙にサイズが違い、枠にはまらないことがある。
どんなにカボション自体が素敵でも、その場合は諦めるか、それに合う台座を探し直さなければならない。
この2つがピタッと出会ったときは「まるでシンデレラの靴のよう」と原口さん。
そもそも、これらの素材たちは、廃業した会社の在庫であったり、工場の売買の際に一括して売り出されるなど、新品のまま倉庫で眠っていたものだ。
それでも、生産時期や個体によってはクオリティの差があり、そこを見極めて選んでいくのが原口さんの腕の見せどころ。

愛すべきフランス・デザイン「パリのヴィンテージにモダンを吹き込む、日本人アクセサリー作家」

※同年代につくられたピンクと緑の色違いだが、緑は微妙に大きく使えない

「カボションを入れずに、台座だけで組み合わても素敵そう」と、その発想はとても柔軟だ。
以前のコレクションでは蚤の市で見つけたシャンデリアの部品を使ったりもした。
現在、地金は真鍮のものを選び、自身で溶接をした後、24金のプレーティング加工を専門業者に委託している。
ヴィンテージの形を生かしつつ、モダンさを足すのが彼女流。



愛すべきフランス・デザイン「パリのヴィンテージにモダンを吹き込む、日本人アクセサリー作家」

※2つの台座を裏返して組み合わせたら、イヤリングになりそうだという

愛すべきフランス・デザイン「パリのヴィンテージにモダンを吹き込む、日本人アクセサリー作家」

※シャンデリアのパーツも原口さんの手にかかるとアクセサリーに

愛すべきフランス・デザイン「パリのヴィンテージにモダンを吹き込む、日本人アクセサリー作家」

※専門店の倉庫の中から、素早く選んでいく

そもそもは、ヴィンテージの洋服好きから始まった。
ただ、洋服もアクセサリーも全身ヴィンテージのものにすると、タイムスリップしてきた人のようになってしまう。
そこで、アクセサリーには現代的な感覚を足し、ファッション全体のバランスを取るという。
もの選びの基準は3つ、「自分が好きなもの」、「今はまだなさそうなもの」そして「お客さんが好きそうなもの」。
最後のひとつからは、マーケティング感覚を大事にしていることがわかる。
作家としては珍しい視点のようにも感じたが、彼女の経歴を聞いて納得。

愛すべきフランス・デザイン「パリのヴィンテージにモダンを吹き込む、日本人アクセサリー作家」

※ヴィンテージの洋服が大好き



日本にいた頃は、ヘアセットサービス込みの、ヘアアクセサリー店に勤務していた。
そこでのお客さんとのやり取りの中で、何が求められているのか、販売する時にはどういったものが勧めやすいのか、ということを学んだという。
そのときの経験から、渡仏後、ヘアメイクアーティストになった。
ヘアアクセサリーの取り扱いがあるのも、そんな経歴の原口さんならではだ。

愛すべきフランス・デザイン「パリのヴィンテージにモダンを吹き込む、日本人アクセサリー作家」

※チェーンを固めたようなヘアピン



ひとつのコレクションに対し、考えるデザインは30-50案。
そのうちの10案程度が多くの人の元に届く商品になる。「Câline Paris」は日本のセレクトショップでも多く取り扱いがあるが、パリでは完全予約制のアトリエ兼ショウルームで購入可能だ。
初めてお邪魔したとき、ここまでパリらしいアパルトマンを見たことがない! というのが第一印象。
パリの流行最先端のマレ地区に位置する。
アパルトマンから味わい深い歴史を感じるのは、400年近く建つ建物が多い地域なだけある。
原口さんの手によって、眠りから覚めたアクセサリーのカケラたちが、ここで生まれ変わり、新しい世界へと旅立っていく。

愛すべきフランス・デザイン「パリのヴィンテージにモダンを吹き込む、日本人アクセサリー作家」

※「Câline Paris」のアトリエ兼ショウルーム



愛すべきフランス・デザイン「パリのヴィンテージにモダンを吹き込む、日本人アクセサリー作家」

※歴史的なアパルトマン

Posted by ウエマツチヱ

ウエマツチヱ

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tchie uematsu
フランスで企業デザイナーとして働きながら、パリ生まれだけど純日本人の娘を子育て中。 本当は日本にいるんじゃないかと疑われるぐらい、日本のワイドショーネタをつかむのが速い。