PANORAMA STORIES

大統領に箸を持たせた女 Posted on 2017/02/21 船橋 知世 ガイド・コーディネーター パリ

仲の良い友達4人で旅に出ることになり、イタリア、シチリア島のパレルモに行ってきた。
パレルモは古くから様々な文化を融合してきた都市だが、そう言われると確かに、街の造りといい、料理といい、異文化が刺激し合う異質な街だった。

しかし、もっと異質なのは、私の友達ちんちゃんだった______。
 

大統領に箸を持たせた女

ちんちゃんは中国人のアラサー女友達。
パリで有名なビジネススクールを首席で卒業、語学堪能、一級の話術も兼ね備えている。けれど、今までの職歴には全く一貫性がない。なぜかと問うと「だって私ってなんでもできちゃうんだもん。」と答える。横柄な女なのだ。
1年前、彼氏に振られて以来 ひと月に1キロずつ太り続けているらしいが、それも特に気にしていないらしい。

彼女の将来設計は、「有名になってからビジネスを始め、金を稼ぐ」。そのためにワンマンショー・コメディーをヒットさせ、注目を浴びるのがファーストステップなのだとか。手始めに作ったという10分のショートコントは最高に面白かった。
 

大統領に箸を持たせた女

そんな ちんちゃんが、パレルモに着いた途端「コメディーをヒットさせるためにはネット上で有名になる必要がある」と言い出した。ちんちゃんはホテルに到着するなりインスタグラムを開設。「アジアっぽい雰囲気を出しつつ、インパクトある写真を撮るには ”箸” が必要だ」と続けた。

私たちはちんちゃんに言われるがまま、パレルモに到着早々 箸を探す羽目になる・・・。
 

大統領に箸を持たせた女

大統領に箸を持たせた女

箸を手に入れたちんちゃんは、周りの白い目も憚らず、スパゲッティーやピザを箸で食べ、道にいた馬を箸で挟み、教会では箸と一緒に記念撮影をした。私たちをこき使い、わが道を進む。

本来なら怒りたくなるのだろうが、その行動があまりにも突拍子なく、イライラする隙さえ与えない。
「またやられた・・・」と、いつも後になって気づくのだ。
 

大統領に箸を持たせた女

大統領に箸を持たせた女

ちんちゃんの気随気儘な振る舞いは箸だけに収まらなかった。

市内の有名パティスリーではケーキを10個以上爆買いし、中古のブランド品が並ぶ古着屋では「こんなバッグがなぜ200ユーロもする!」と店員に喧嘩をふっかける始末。考古学美術館では古代ギリシャの男性裸体像を目の前に、大興奮で即興コメディーを始めてしまった。さすがに、知らない人のふりをしたくなる。

でも、やはりちんちゃんを憎めない。ちんちゃんが一緒で便利なことだってあるのだ。
車の運転が荒く横断歩道を渡るのも一筋縄では行かないパレルモの街。だけど、ちんちゃんは突進してくる車を体当たりで止めてくれる。周りから浴びせられる罵声など気にしない。おかげで私たちの移動は超スムーズだった。

他人を巻き込み、有無を言わせぬちんちゃんの術。
気がつけば、3泊4日のパレルモ旅行は終わっていた(笑)。
 

大統領に箸を持たせた女

大統領に箸を持たせた女

パリに戻ったちんちゃんはというと、その勢いはとどまることを知らない。

ラデュレのマカロンを箸で食べ、ルイ・ヴィトンの店舗ではバッグを箸でつまむ・・・。
コメディー制作にいたっては「一般人の反応を見たい」と、フランス人が集まるパーティーをジャック。
ワンマンショーを披露してみたところ、50人を超えるパリピを大爆笑させ、すっかり人気者になってしまった。

そして、なんと、どんなコネを使ったのかは知らないが、ちんちゃんがエリゼ宮で行われた旧正月イベントに招待されたという。
・・・さすがのちんちゃんもエリゼジャックまではできなかったようだが、オランド大統領に”箸”を持たせ、ツーショット写真を撮って帰って来た!

パレルモでたまたま思いついた奇想天外なアイデアが、この短期間に一国の大統領まで巻き込むことになるとは。
あっぱれ、ちんちゃん!
 

大統領に箸を持たせた女

ちんちゃんのインスタグラムフォロワーはというと、開設1週間で1000人を軽く超え、今もなお増え続けている。旅行ガイドの私が地道に一生懸命パリの写真をアップし続けても1000人のフォロワーには到底届かないというのに・・・。

ちんちゃんはどこまでいくのだろう?

近い将来、ちんちゃんの隣で箸を持って笑うトランプ大統領の写真が出回るかもしれない。
アメリカと中国の ”箸”渡し役に、ぜひ、ちんちゃんを推薦したい。
 

大統領に箸を持たせた女

 
 

Posted by 船橋 知世

船橋 知世

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Tomoyo Funabashi
ガイド・コーディネーター。群馬県出身。フランス在住13年。もともとフランスの地方に住んでいて、最初からパリに興味があったわけではないのですが、舞台美術と衣装デザインの仕事の関係で2011年よりパリに住むことになりました。アート、グルメ、ファッションなどあふれるパリの素晴らしさに触れ、ヨーロッパ史等を勉強していくうちに「ガイドの仕事が向いている」ということに気がつき心機一転。みなさんにパリを楽しんでいただけるよう、がんばります。