PANORAMA STORIES
おはようレベル3! Posted on 2020/04/30 Summer Shimizu 現代美術家、写真家 ニュージーランド・オークランド
わくわく。そわそわ。アオテアロア(マオリ語でニュージーランド)は、ちょっと落ち着きがなかった。4月28日、ロックダウンが少し緩和され、警告レベル4からレベル3に下げられた。レベル3第一日目の朝、今まで眺めていた景色がいつもより、パァーっと鮮やかに色づいているように見えた。太陽が燦々と、私たちを照らす。
目を疑うようなニュースが飛び込んできた。SNSトレンドワードがこの日、#Maccas。 日本語で、マックやマクドにあたる言葉だ。#ジェシンダ首相を差し置き、突然マクドナルドがトップに躍り出た。
「えっ? マクドナルド?」
思わず吹き出した。なんとこの国は、レベル3になったとたん、マクドナルドだった。車のエンジンをかけ、いざ、マクドナルドへ! チキンナゲットだ! (マクドナルドのチキンナゲット好きが意外と多い。)
夜が明ける前から、多くの車がドライブスルーに集合していた。一番乗りの人は、日付変更直後から待機。最前列確保できた嬉しさを、ハカ(マオリ文化の伝統舞踊ダンス)で表現した人もいた。朝の生放送のために、報道レポーターまでマクドナルドへ駆けつけた。しかもドライブスルーの大行列が、道路まで伸びて渋滞まで起こしていた。みんなのこのエネルギッシュなリバウンド感、すごい。
(ロックダウン中なので、写真は友達からシェアしていただいたものです。)
そういえば1週間前、マクドナルドの前でのカランガ(呼びかけ)が、ネットニュースで取り上げられていることを思い出した。とあるマオリ男性は、マクドナルドから道路を挟んで反対側に立ち、とあるマオリ女性は、マクドナルドのドアの前に立ち、美しくカランガを歌い共鳴していた。(マオリ人はアオテアロアの原住民)
男「あぁ、悲しい。悲しい。あなたに会えなくて毎日泣いている次第でございます。会いとうございます。私の親愛なるローナルド、友よ。あぁ、なんという苦痛だ。。。」
女「悲しまないでください。後1週間です。時が来たらまたお会いしましょう。親愛なるマクマリー様。あぁ、友よ。」
(呼び合いの名前は、お互いの名前とマクドナルドを一緒にひねったもの)
まるで織姫と彦星。道路はまさかの天の川?
本来カランガは、マオリ文化の神聖なる伝統儀式のため、冗談まじりのやり方には、少々掟破りの感覚がある。でも、世間はユーモア精神として受け止めた。今、こんな時だからこそ、ちょっとした笑いが心にすーっと沁みる。マオリ文化については、またの別の機会に触れたい。
でも「マクドナルド食べたい病」の気持ちはよくわかる。これはしょうがない。この5週間、500万人の国民全員が毎日3食の自炊をせっせとこなした。今まで台所に立たなかった、男性や子供がこぞって競い合い、SNSで自慢しあった。自然と料理の腕は上がり、家族との会話も生まれ、一緒に何かを成し遂げることで絆もさらに深まった。
でも、みんなは密かにあの気持ちを、ずっと押さえ込んでいた。食べたい。マクドナルドが食べたい! ブワーッ、と大放出。実はレベル4の最終夜、カウントダウンの花火まで打ち上げていたくらいなのだ。
記念すべき第一日目に、どうしても、マクドナルドを食したかったらしい。可愛いらしいと言うか、呆れると言うか、そんなこの国の反応は、私は嫌いじゃない。
レベル3の段階に入り、生活必需品以外の会社にも、クリック&コレクト方法での営業許可が出た。オンラインやアプリで決算を済ませた後、お店へ取りにいく時間を予約。お互い顔を合わせずに、距離間を保ったまま商品を受け取る方法だ。もともとカード社会のアオテアロアにとって、ネットでポチポチはチョチョイのチョイ。
そして、ファーストフード以外にも、みんなの心を踊らせたものは、コ・ー・ヒ・ー・!
これが、予想以上に反響していた。実はコーヒーの国としても名高く、焙煎技術やバリスタの腕はワールドクラス。特に首都ウェリントンはコーヒーの街としても有名で、私も8年間住んでいたが、まずいコーヒーを探し当てる方が難しかった。
コーヒー愛好家は、マクドナルドのドライブスルー大整列を横目に、カフェへ一目散。回転寿司のベルトコンベアに似たような仕組みで(もちろん手動)、オモチャ貨物列車の後ろにコーヒーを乗せ、外にいる客まで届ける。まるでレゴの大人版。他にもピザ窯に使う巨大しゃもじ、パーラーに似たもので、びよ〜んと2メーター伸ばし、コーヒーを差し出すカフェもあった。うんうん、遊び心は置き忘れてはいない。みんなレベル4を、この日のために準備期間として当てていたようだ。
レベル3第一日目の朝、コーヒーを買いに行った友達に聞いてみた。
私「ねぇねぇ、どうしてコーヒーにしたの?」
友「第一に、ローカルビジネスを支援したかったからよ。」
私「素敵!」
友「もちろん家でのコーヒーに飽きていたけど、今までいろんなお店が営業出来なかったでしょ? カフェが営業してくれることで、私たちも嬉しいからね。」
私「そっか。一方的な支援だと思っていたけど、私たちも満たされているね。」
友「コーヒーがなかったらなかったで、ない生活に慣れていったけど。笑」
私「わかるー! 案外なんでも代用できること、今回のことでみんな学んだよね。」
友「うんうん、そうよね。あとここのカフェ、生分解性があるカップを使っているのよ。普段だったら再生利用のマイカップ持参で行くんだけど、今は衛生面上NGだからさ。」
私「確かに。私たちもお店の人の命を守らなきゃね。」
経済凝固していたアオテアロア。プシューっと蒸気が漏れ出し、息を吹き返した。信号機が赤から青に変わった。それでも私たちの生活は、ほぼ以前と変わらない。みんな家にいて、実際のところはレベル3.9。ただ大きく違う点は、経済が少しずつ回り出す。
ジェシンダ政権は、Uber Eatsが加盟レストランから受け取る手数料を、売り上げの30~35%に値上げしたことから、ローカルビジネスを支援し、直接お店から注文する形を促進した。全然知らなかった。そんなにも、お店の売り上げが取られているんだ。今、私たちが使うお金が、自国に還元する重要さとその姿勢。私も共感できる。そうだ、ちょうどホームセンターでクリック&コレクト注文しようと思っていたウレタン、この国のお店から購入しよう。
マックチキンナゲットを手にして思わず叫び出す。大切な家族との時間。たったの一杯のコーヒーで得られる笑顔。当たり前に気づけた感謝の気持ち。他にもロックダウン生活のおかげで、金銭的利益では得られない何か、手では触ることができない価値観を得られたような気がする。周りの友達にも、物の見方や考え方に、何かしらの意識転換が現れている。ユーモア精神を持ち逆説的に図る方が、制限ある生活を楽しく乗り越えるコツなのかもしれない。少なくとも「当たり前」という認識はなくなりそうだ。
その一方、少々気に掛かることがある。レベル3になった途端、ソーシャルディスタンスが保たれていない。こらこらみんな! ベルトを緩めすぎっ。レベル4の時は、あんなにお行儀がよかったのにな。まだまだ火種が燻っているから、気を引き締めないと信号機が黄色に変わってしまう。でも・・・まぁ、いいか?(いや、ダメです)。 とりあえず「新しい日常生活」に一駅近づけた。人生のうちで朝寝坊できる日々も、今だけだと考えると、この時間を大切に使いたい。
ジェシンダ運転手が500万人の乗客を乗せ、「新しい日常生活」駅行きのレールを、ガタンガタン、シュッシュ、ガタンガタン、シュッポッポ。電車が動き出した。
おまけ↓
アスパラ姫たちが、自転車で大地を駆け巡っている写真が届いた。気持ちよさそう〜
Posted by Summer Shimizu
Summer Shimizu
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現代美術家、写真家。オーストラリアだと思い込んだ学校が合格後にニュージーランドだと判明。そのまま1997年ニュージーランド移住。英語試験IELTSに4回失敗。5回目で大学入学を掴み取る。2003年Massey大学情報サイエンス学部コンピューターサイエンス&情報システム学科をダブル専攻卒業。ITサポートとして大学やアパレル会社アイスブレーカー本社で世界支社を支える。退職し写真学校で写真基礎を学ぶ。国最高峰のアートスクールに2016年入学、オークランド大学芸術学士号卒業。2019年同大学院芸術修士号をFirst Classで卒業。広告写真撮影のアシスタント業をしながら現代美術家として個展やグループ展を開催。現代彫刻、異文化交流や社会性、帰属意識を概念とした作品が多い。