PANORAMA STORIES
野良猫のいないパリ、窓辺に映る猫たちとの日常 Posted on 2024/11/18 ルイヤール 聖子 ライター パリ
渡仏して何年経っても、美しいと感じるパリの街並み。しかし、ふとした瞬間に気づいたのです。田舎では当たり前に目にする「あるもの」が、この街にはほとんど存在しないこと。それは、野良猫たちの姿です。
※パリ中心部では猫ちゃんを見かけることはありません
地方や田舎では、野良猫もその街の「一員」のように感じます。たとえば、道端で日向ぼっこをしている猫ちゃんや、家の塀の上からこちらを眺めている猫ちゃん。そんな猫たちと顔を合わせる日常が、心のどこかで当たり前になっていたわたしにとって、パリの静けさは少し意外でした。
パリでは、「猫は室内で安全に飼う」という考え方が日本の大都市と同じように広く浸透しています。保護施設から猫を迎える際も、室内飼いが絶対条件。野良猫を増やさないための避妊や去勢手術も徹底していますので、街で見かけることがほとんどないのです。
※室内で暮らすパリの看板猫ちゃん
一方でアパルトマンの窓辺には、人間と暮らす猫たちの姿があります。これがとても可愛くて、わたしはそのたびに心のなかで挨拶をしてしまいます。友人の家で元気に走り回る猫ちゃんを見ても、「この子は安全に暮らしているんだな」と、まるで親戚の子どもを見守るような気持ちになったり。彼らの穏やかな暮らしぶりは、野良猫たちが直面する厳しい現実とは違い、確かに幸せそうに見えます。
ということでパリでは、猫との偶然の出会いがほとんどありません。飼い主同士のつながりも、ワンちゃんに比べれば少ないです。街で猫と触れあいたいと思ったら、友人の家を訪ねるか、数少ない猫カフェを探すくらいしかないでしょう。
そうした「さっぱりとした距離感」も、どこかパリらしいと感じます。自由を愛し、猫への深い愛情を抱きながらも、無理に干渉しない。距離感やプライバシーを大切にするのが、この街の猫好きさんたちの特徴なのかもしれません。
わたしたちの家にも、黒猫のウンベルトがいます。彼は完全な室内飼いで、お気に入りのカゴに身をおさめながら、広い窓から外の景色を眺めるのが大好きな猫です。窓辺にいないときに鳥の姿を見かけたら、「庭に鳥さんが来たよ!」と、わたしがウンベルトを呼びに行くほどです。
ただ最初の頃は「ウンベルトも外の空気を吸いたいのでは?」と思い、庭に出してみたことがありました(2メートルの柵に囲まれているので安全です)。しかし臆病な彼は外の音が怖いらしく、一目散に部屋のなかへ駆け戻ってしまいました。それ以来、彼にとっての「安心」が室内にあることを再認識しています。
飼い主にとってはどんな形であれ猫が愛おしくてたまりません。どんなに臆病でも、どんなに猫らしくなくても、見るたびに「かわいい!」とつぶやいてしまいます。
※パリを離れると一転、外飼いの猫ちゃんに出会うことも
ウンベルトと暮らしはじめてからというもの、スマートフォンの写真アルバムは彼の写真で埋め尽くされ、SNSのアイコンも、冷蔵庫に貼る写真も、すっかり猫一色になってしまいました。今ではやはり、すべての猫ちゃんを親戚の子どものように感じています。
それが家猫でも野良猫であっても、猫たちそれぞれが幸せでありますようにと願わずにはいられません。
Posted by ルイヤール 聖子
ルイヤール 聖子
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猫と香りとアルザスの白ワインが好き。