PANORAMA STORIES
岡崎慎司「日本人ならできるはずだ。スペインから日本へのメッセージ」 Posted on 2020/04/03 岡崎 慎司 プロサッカー選手 スペイン・カルタヘナ
久しぶりにここで書かせてもらいます。
知らない人もいらっしゃると思うので僕の今の選手としての現状から話させて頂きます。
僕は今シーズンからスペイン2部リーグに所属するウエスカというチームでプレーしています。どうしてもスペインの1部でプレーしたい夢があり、2部リーグから昇格を目指すチームへの移籍を選びました。スペインに来てから今日まで、本当に言葉では言い表せないほどの様々な経験をしてきました。マラガというチームとの契約問題があり、移籍期間最終日でのギリギリの移籍となりました。そこから家探し、子供の学校、通勤する車の準備や、もちろん初めてのスペイン流サッカーとの合流となりました。何より、チームのスタイルにも馴染まないといけません。ところが、ようやく落ち着いた年末年始はビザの問題でチームに合流出来ず、しかし、そのおかげで年末年始を6年ぶりに日本で過ごすことが出来、不幸中の幸いとでもいうのか、それは自分にとって選手人生の中で、最高のリフレッシュタイムとなりました。
日本で、家族と過ごす正月はやっぱり格別でした。リーグ後半戦の最初の試合には間に合いませんでしたが、次第にリズム感も出てきて、個人的にも徐々にコンディションが上がっていくのを実感できるようになったのです。そして、忘れもしません、結果もついてきた3月の中旬、突然、試合や練習が中止されることになったのです。
簡単に自分の状況を話させてもらいましたが、基本的にはスペインという新たな挑戦の地で家族と一緒に苦労しながらも、個人的には頑張っていたし、その生活を楽しむこともできていたのです。ところが、皆さんも知っての通り、新型コロナウイルスが不意に現れ、この幸福だった世界を一変させます。僕の印象ですが、スペインは新型コロナが拡大をし始めた当初、あまり大きな対応をとっていませんでした。むしろ、年明けすぐの頃は日本の方がこの問題にシリアスだったと思います。中国から始まった感染症でしたから、当然かもしれませんが、日本の皆さんは、人との距離をあけ、マスクをして、感染の拡大に注意を払っていたように感じます。
一方、ここスペインでは、2月、3月あたりの試合でも、スタジアム会場はもちろんのこと、市内もどこもかしこも警戒心がなく、普段通りの感じでした。個人的には大丈夫なのかな?と心配になるくらいに…。それから間もなく、マドリードで、急激な感染拡大が始まったニュースが出ます。感染爆発というやつだと思います。すぐに緊急事態宣言が出され、スペイン全土で警戒態勢に入ることになりました。僕たち家族も、その日から、自宅待機が続いているのです。もうすぐ3週間が経ちます。オフ以外でこんなにも練習や試合がない日は初めてかもしれません。少なくとも、海外では初めての経験となりました。
試合や練習がない毎日…、いったい僕は何をモチベーションにして頑張ればいいのかわかりませんでした。普段の僕なら、きっと、週末の試合を意識し、ゴールを決めた自分を想像するイメージトレーニングをやっていたはず。自分が決めたゴールの映像を何度も観たり、練習での反省を繰り返し明日に繋げたり…。そういう日常が残酷にも何ものかによって取り上げられてしまったのです。そして、今、僕は、この毎日を生き抜く事以外にやるべきことがない事に気付かされたのです。
僕は普段から期待をしないタイプの人間でもありました。もちろん、一日も早く状況が良くなる事を望んでいるわけですが、誰かが何かをしてくれるのをただ家の中でじっと待っているのも自分らしくない。それよりも今は、というか今日、この瞬間何をやるべきか、何をモチベーションにして、生き抜くか、ぼくは考えるようになるのです。僕にとって今やれることは、一つは、家の中で、出来る範囲でトレーニングを継続する事でした。しかし、その先にあるのは試合や練習ではありません。この練習は試合のためのものじゃなく、サッカー選手としての自分自身を維持させるためにやる修行のようなもの。そして、その修行の後の、家族との食事や1、2杯のお酒が、今は何よりも大事なのだと気づくことになるのです。
それは僕の問題だけじゃなく、子供達にとっても同じでした。学校に行けなくなった彼らは家の中でモチベーションを探さないとなりません。僕が僕自身を探したように、子供たちも家の中で自分たちの理由を探したのです。子供たちは学校でもiPadを使って学習しているから、自宅学習になっても課題は毎日学校にいるかのように送られてきます。オンライン学習というやつです。週に何回かはテレビ電話でクラスの子や先生と顔を合わせて学習しています。子供も僕も自宅でやる事をやり、空いた時間にゲームをしたり、庭でサッカーをしたり、とにかく、有り余った時間を有効に使うために、3人で好きな事をやるようにしています。今後は、いつまでこのロックダウンが続くかわからないので、この長い時間をどう過ごすかが課題になるのでしょう。
そして、僕ら家族の中で、1番大変なのが、妻です。毎日毎日、僕と子供達が一日で一番楽しみにしている食事の担だからです。朝、昼、晩と三食をずっと考えています。スーパーも外出制限のせいで、大人2人では行ってはいけないため、妻が一人で出掛けているのです。
日本のスーパーならまだしも、ここはスペインなので、とくに和食用の食材は多くありません。限られた材料、限られた調味料を駆使して、妻はぼくら男三人のために、みんなでワイワイ作って食べれるような楽しいメニューを考案してくれているのです。ピザや餃子を、生地から作って食べたのは、サッカーバカの僕にとって生まれて初めての経験でした。それは僕の人生にとってかけがえのない最高の時間でもありました。
僕と妻と子供達がそれぞれの役割を頑張る、すべき事をまずする、そしてこの有り余った時間をどうやって有意義に過ごすかを一緒に考える。これが岡崎家にとって今一番の自宅待機のテーマでもあるわけです。
日本の現状とスペインの状況はちょっと違うので参考になるか分かりませんが、聞いてもらいたいことがあります。イタリアやスペインは、新型コロナがじわじわと感染拡大をしはじめた時、先手先手で対応をしていなかったように思います。初期の時に動いていれば、ここまで酷い状況にならなかったのじゃないか…。日本が近い将来今のヨーロッパみたいになる事は容易に想像が出来ます。だからこそ国が一言、「自宅待機」を命じてくれるなら、と思ったりするのです。現に、ここスペインでも自宅待機要請が出てからというもの、妻曰く、みんなの中に一体感のようなものが生まれたと言います。夜8時には必ず、医療関係者や、スーパー、警察の方への感謝を表す拍手が毎晩欠かさず行われていたり。みんなが外出制限を守り、自宅待機を続けてる事からこそ、一体感が生まれているのでしょう。
僕はサッカー選手であり、経済や政治のことは疎いですが、日本人はもともと真面目ですから、強制しなくても1人1人がお互いの事を考えることが出来るし、まとまれるはずだ、と思います。コロナとの戦いに1番強いのは日本人だと思っています。命さえ助かれば、経済はまた助け合いでなんとかなると思うのは軽薄な考えでしょうか?
今全世界を恐怖のどん底に叩き落している新型コロナのニュースを見ながら、僕自身が体験してきた、日本人として戦ってきたメンタリティーのことを思い出すのです。
日本人なら出来るはず、だと。
手遅れかもしれない、と言われてる厳しい状況ですが、いいや、遅いことはない。まず、1人1人が、家にいて家族と過ごしたり、まず出来ることからやりましょう。
こんなことを僕自身、自問自答しながら、僕は毎日、トレーニング動画をアップし続けていきたいと思います。みんな、乗り越えましょう。
Posted by 岡崎 慎司
岡崎 慎司
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プロサッカー選手。1986年4月16日、兵庫県宝塚市生まれ。滝川第二高校を経て2005年、Jリーグ清水エスパルスに入団。チームの中心選手として活躍する。2011年ドイツ・ブンデスリーガのVfBシュツットガルトへ移籍。2013年マインツでプレー後、2015年イングランド・プレミアリーグのレスター・シティに移籍。レスターがプレミアリーグ初優勝。現在はFC CARTAGENA、カルタヘナ活躍中。ポジションはFW。