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サグラダ・ファミリアに加わる、日本人彫刻家の繊細な仕事と最新技術 Posted on 2022/04/02 ウエマツチヱ プロダクトデザイナー フランス・パリ

サグラダ・ファミリアに加わる、日本人彫刻家の繊細な仕事と最新技術

1882年3月19日に着工してから、今でも建設が続くサグラダ・ファミリア。いつまでも建設中というイメージがあるが、ガウディ没後100周年に合わせた、2026年に完成予定だった。新型コロナの影響で一般公開の中止、観光客の激減により収入源を失い、建設が10か月ほどストップ。今はいつ完成するか、わからなくなってしまった。だが、少し前から工事は再開、建設途中ならではのサグラダ・ファミリアの今をお伝えしたい。

そもそも、ガウディの設計は、最終的な完成物に対してたったの15%にあたるそうだが、後世の人達が建設を続けるためのヒントになる模型や、試作品をたくさん残していった。ガウディが設計していなかった部分は、毎回デザインコンペで採用が決まるそうだ。そこで選ばれるものは古い様式にとらわれない、その時代のスタイルだ。様々な時代の人が参加することで、各時代の持ち味を活かしたものがサグラダ・ファミリアに取り込まれていく。

サグラダ・ファミリアに加わる、日本人彫刻家の繊細な仕事と最新技術

※2021年12月に完成した聖母マリアの塔



ガイドツアーに参加したところ、まず初めに紹介されたものは、教会入口の門。なんと日本人の彫刻家が手掛けたものだという。「ダバダ〜」という曲が印象的なコーヒーのCMは、ある年代以上の人であれば記憶に残っているだろう。このCM出演をきっかけに一躍有名になった外尾悦郎氏は、サグラダ・ファミリアで主任彫刻家を任されている。ガイドによると、これらの門は「最近」設置されたという。なんというタイミングに立ち会えた! と喜びつつ、取り付けられた日を調べると2015年。140年もの建設期間においての数年前は「最近」なのだろう。

サグラダ・ファミリアに加わる、日本人彫刻家の繊細な仕事と最新技術

※「愛徳の門」

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※「愛徳の門」の全体

外尾氏が手掛けた門は3つ、それぞれ2枚の門扉がついて、「望徳の門」、「愛徳の門」、「信仰の門」といい、ガウディが愛した自然のモチーフがふんだんに使われている。蔦が壁にはうような有機的な曲線で、内と外の境界を曖昧にする。重厚な扉だが、よくみると所々の葉の隙間に小窓がついていて、内側から見ると木漏れ日のような光が差しこむ。ブロンズを素材にしたとは思えないほど、柔らかな質感だ。鮮やかだが自然な色使いは、ガウディが望んだものであったという。所々に昆虫や小さな動物たちが隠れていて、子どもはお気に入りの虫探しに夢中になる。日本の土間や、縁側に通じる、外と中をはっきり分けないという日本的な空間の捉え方だと感じた。

サグラダ・ファミリアに加わる、日本人彫刻家の繊細な仕事と最新技術

※小窓の内側からみると、トカゲと目が合うという工夫

地球カレッジ

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※「愛徳の門」のてんとう虫

サグラダ・ファミリアに加わる、日本人彫刻家の繊細な仕事と最新技術

※菖蒲のモチーフが日本的な「望徳の門」

また、外尾氏はこの門が設置されている「生誕のファサード」の彫刻群の修復も行った。かつてのスペイン内戦で破壊されてしまった後、図面もない状態だったそう。サグラダ・ファミリアは建設と修復が同時に進行しているのだ。「外尾氏は日本人の写真を見ながら修復したんだよ。生誕のファサードの天使たちのモデルは日本人だ」とガイドは説明する。確かに、いわれてみると日本人っぽくみえる。どこの国の人も受け入れることを信条にしているサグラダ・ファミリアなので、天使が日本人の顔をしていても多様性という意味で良いのだろう。

サグラダ・ファミリアに加わる、日本人彫刻家の繊細な仕事と最新技術

※楽器を奏でる天使たち



また、聖堂上部の尖塔にあしらわれた果物も外尾氏の作品だ。「フルーツバスケット」と呼ばれ、東側には春の果物、西側には秋の果物が並ぶ。遠くからは細かな仕上げまでは見えないが、グッズに仕立て上げられたものをみると、鮮やかなモザイクで出来ていることがわかる。

サグラダ・ファミリアに加わる、日本人彫刻家の繊細な仕事と最新技術

※「フルーツバスケット」がのる聖堂上部の尖塔



サグラダ・ファミリアに加わる、日本人彫刻家の繊細な仕事と最新技術

※グッズになった外尾氏の作品



さて、教会の中に入るとステンドグラスの溢れる虹色の光が迎えてくれた。東からの朝日は涼しく、西に落ちる夕日は暖かく、というガウディの指示通り、ステンドグラスは室内の両端で、寒色系と暖色系に分けられている。実際に設計したのはコンペに勝ち抜いたジョアン・ビラ・イ・グラウ氏だ。水彩画の筆跡を、忠実にステンドグラスに落とし込んだ。幾何学のモザイク状だが、水彩の揺らぐ色の移り変わりが表現されている。

サグラダ・ファミリアに加わる、日本人彫刻家の繊細な仕事と最新技術

※虹色の光あふれる教会内部

サグラダ・ファミリアに加わる、日本人彫刻家の繊細な仕事と最新技術

※西側の暖かなステンドグラス

サグラダ・ファミリアに加わる、日本人彫刻家の繊細な仕事と最新技術

※東側の涼しげなステンドグラス

サグラダ・ファミリアに加わる、日本人彫刻家の繊細な仕事と最新技術

※ジョアン・ビラ・イ・グラウ氏のスタディは水彩画



見学ゾーンの途中で工房を覗き見ることができるが、ここには3Dプリンターが置かれていた。サグラダ・ファミリアは既に世界文化遺産に登録されているが、遺産としての古さとは裏腹に、最先端の技術が用いられていた。かつては300年かかると言われた建設期間が短縮されたのも、技術進歩のお陰だという。訪れる者としては、このまま完成せずに、常に最新を更新し続けて欲しい気持ちもある。

サグラダ・ファミリアに加わる、日本人彫刻家の繊細な仕事と最新技術

※3Dプリンターの前に置かれている果物は外尾氏の作品

サグラダ・ファミリアの出口には、建設に携わる23名の彫刻家の名が記されていて、その中にはもちろん外尾氏の名前も。完成後、はるかな歳月にわたって存在し続けるであろうサグラダ・ファミリア。彼の名前もサグラダ・ファミリアと共に残り続けると思うと、同じ日本人として誇らしい。

サグラダ・ファミリアに加わる、日本人彫刻家の繊細な仕事と最新技術

※建設に携わる彫刻家23名

自分流×帝京大学



Posted by ウエマツチヱ

ウエマツチヱ

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tchie uematsu
フランスで企業デザイナーとして働きながら、パリ生まれだけど純日本人の娘を子育て中。 本当は日本にいるんじゃないかと疑われるぐらい、日本のワイドショーネタをつかむのが速い。