PANORAMA STORIES
三四郎日記「吾輩は犬である。猫は苦手だが、もっと苦手なことがある」 Posted on 2023/04/07 三四郎 天使 パリ
某月某日、吾輩は犬である。
苦手なのは猫だが、嫌いなものは「お留守番」なのだ。
今日もムッシュはぼくを連れて、遠方の大型スーパーなるところへと向かった。
そこがどういうところか、ぼくにはわからない。
なぜかというと、犬はスーパーの中に入ることができないのである。
フランスという国は、犬に寛大なところで、カフェにも、ビストロにも、だいたいのホテルにも入れるのだが、唯一絶対に入れないのが、スーパーなる場所であった。
ここは、食べるものを売っているんだよ、とムッシュが教えてくれたのだけど、中に入ることが出来ないぼくにはさっぱり、どういう場所なのかわからないのである。
で、ムッシュはいつも駐車場に車をとめるなり、笑顔でぼくを振り返ると、
「サンシー、いい子だね。車の中でお留守番していなさいね。すぐに戻って来るからね。すぐにだよ」
と言うのだった。
すぐではない。いつも結構長い時間、スーパーにいるじゃないか!!!
ということで、ぼくは「お留守番」が大嫌いなのだ。
家でのお留守番の時にも、ぼくは玄関のマットの上で、ムッシュが帰って来るのをじっと待つ。
何時間も戻ってこないことがあるけれど、忠犬は、じっと待つのが仕事なのである。
車の中で待つ時もぼくは後ろの席で待っている。
ところがムッシュは、買い物が長い。異常に長いのである。
一度、スーパーに入るとなかなか出てこないのだ。
うんざりしている頃に、たくさんの食料品を抱えて帰って来る。
どうやら、今日も長そうである。
ぼくは立ち上がり、窓から、遠ざかるムッシュの後ろ姿を見つめるのだった。
こりゃあ、ウキウキしているから、長いに決まっている・・・。
と、その時、ぼくは隣の車の後部座席の窓からこちらを覗く、仲間を発見した。
おお、君もか!!!
すると、相手も、ぼくを見つけて、おお、お前もか、と言った。
犬は、車の中で待たされるのが宿命なのであった。
周囲を見回すと、どの車にも犬たちが残されていた。
いったい、スーパーというところはどういう場所なのであろう。
荷物をたくさん抱えて帰って来たムッシュは、嬉しそうだ。
「サンシー、ラッキーだったよ。めっちゃいいワインが安かったんだ!」
ムッシュが運転席に座るなり、言った。
「お前にワインの話をしてもしょうがないけど、パリだったら30ユーロはする上物が、ここでは半額なんだ。田舎のスーパーは、でかいだろ!大量に仕入れるから、安く売ることできるのさ。ぼくはそういうものを見つける天才なんだ」
ムッシュは幸せそうだった。
「しかしね、今、ぼくは世の中的には禁酒中ということになっている。禁酒というのは、ワインを飲めない、ということ。あはは」
ぼくはムッシュが何を言っているのかよくわからない。
この人はいつもぼくにくだらない人間界のことを語りかけてくる。
けっこう、孤独な人なのであった。
「もちろん、禁酒するよ。誓ってもいい。ぼくは飲まないよ。オランピア劇場のライブが成功したら、そのお祝いでこれを開けるんだ。どうだ、素晴らしいだろ。その日が待ち遠しいなぁ」
ムッシュはハンドルを回しながら、言った。
「あ、三四郎、カフェでも行くか? ぼくはコーヒーが飲みたい。君も美味しいノルマンディ・ウオーターを飲めばいい」
ということで、ムッシュは最寄りの街で車を止め、ぼくを連れ出した。
ふ、やっと自由の身だ。
広場に面したカフェのテラス席であった。
「ビール日和だけど、我慢をして、コーラにするかな。禁酒中だからね。あはは」
やっぱり、この人は孤独な人だと思う。
大丈夫、ムッシュ、ぼくが話を聞いてあげるよ。
ぼくの使命は、この人の傍に寄り添い、この人の寂しさを紛らわすことなんだ。
愛すべきムッシュに、かんぱい。
つづきます!
ムッシュにかわって、お知らせです。
ムッシュが主催する「カフェ飯教室」というのがあるようです。詳しくはここをクリックしてみてね。クリックって、なんだろね!?
※ 次回のムッシュのライブです。
Posted by 三四郎
三四郎
▷記事一覧2021年9月24日生まれ。ミニチュアダックスフント♂。ど田舎からパリの辻家にやってきた。趣味はボール遊び。車に乗るのがちょっと苦手。