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流れ星への願いが必ず叶うわけ Posted on 2020/02/27 清水 玲奈 ジャーナリスト・翻訳家 ロンドン

2019年の月面着陸50周年を記念して、イギリスでは宇宙に関する本が多数出版された。児童書でベストセラーになっているのが、大人気の絵本作家コンビ、ジュリア・ドナルドソン(お話)とアクセル・シェフラー(絵)の最新作『The Smeds and The Smoos』だ。
 

流れ星への願いが必ず叶うわけ

同じ星に暮らす、青と赤の宇宙人の部族に生まれた少年と少女が主人公。ロミオとジュリエットさながらにおきてを破って恋に落ちた二人は、ロケットに乗って逃走する。部族たちは二人を探す宇宙旅行に一緒に出発し、さまざまな星のへんてこりんな宇宙人たちに出会い、助け合って旅するうちに、互いへの共感を深めていく。捜索をあきらめて祖国の星に帰り着くと、若き二人はとっくに帰っていて、紫色のベイビーが生まれていた。そしてみんなが仲良く暮らす、というハッピーエンドだ。最後に「全てのヨーロッパの子どもたちに捧ぐ」との献辞がある。書店でのサイン会で、献辞が印象的だったとアクセルさんに言ったところ、「今の時流に一言いいたいと思ってそう書いたが、真意は全ての世界の子どもたちに捧ぐということだ」と説明していた。
 



流れ星への願いが必ず叶うわけ

娘が通う小学校の最初の学年「レセプション」でも、今期の学習のテーマは「宇宙」だ。学校の授業で読む本は、ナショナル・ジオグラフィック協会の科学絵本『子どものための大きな宇宙の本(Little Kids First Big Book of Space)』から、パンツを盗みに地球にやってくる宇宙人を描くナンセンス絵本『うちゅうじんは パンツが だいすき』までと幅広い。こぐまが月でピクニックをするお話『Whatever Next!』(ジル・マーフィー作)を読んで、子どもたちが自分のテディベアを学校に持っていき、月旅行の気分でおやつを食べるという授業もあった。
娘が一番気に入ったS F絵本『Man on the Moon』(サイモン・バートラム作)では、近未来の主人公ボブが毎日ロケットに乗って月に出勤し、地球からの観光客のためにガイドを務め、「宇宙人はいない」と説明する。その反面、月面のクレーターの中から、ロンドンを走る二階建てバスの座席、そしてボブが自宅で入るお風呂の中まで、どのページにも宇宙人が描かれていて、娘は見つけるたびに大喜び。そして、「宇宙人の絵を描いて、特徴を説明しましょう」という宿題が出されて以来、オリジナルの宇宙人の絵を描くのに夢中だ。
 

流れ星への願いが必ず叶うわけ

流れ星への願いが必ず叶うわけ

親には、イギリスの作曲家ホルストの組曲「惑星」が聴けるYouTubeのリンクが送られてきた。組曲の中で一番有名な「木星、快楽をもたらす者」のメロディーは、イギリスの愛国歌にも採用されている。リンクでは、7つの惑星をタイトルにした曲のさまざまなオーケストラによる演奏が、惑星の画像を見ながら聴ける。「親子で聴いて、どんな気持ちになるか話し合いましょう。どの部分が一番好きですか。その理由を説明しましょう」という宿題が出された。惑星をめぐるイメージが広がる壮大な組曲の中から、娘は最後の「海王星、神秘主義者」をお気に入りに選んだ。
というわけで、「宇宙」というテーマは、理科の範疇にはとどまらない。副題には「この世界の外には何があるか」とあり、子どもたちの視野と想像力を広げることがねらいだ。ある年のケンブリッジ大学医学部の入試面接では「火星人に人間をどのように説明しますか」という問題が出されたという。宇宙と宇宙人は、小学校から大学まで、分野を超えて学問の基本となる重要テーマなのだ。
 

流れ星への願いが必ず叶うわけ

娘が生まれる前、カナリア諸島の天文台で系外惑星の研究を続けるイタリア人宇宙学者を取材したことがある。地球に似て生命体を持つ系外惑星も、いつか見つかるかもしれない。彼はそんな思いを持ちつつ、孤島の山の頂上で夜な夜な観測を続けている。
海に沈む太陽の上辺が水平線に触れ、完全に海に沈むとき、まれな現象で緑色の閃光が一瞬見えた。それを合図に、彼は力を込めて日本語の詩を暗唱しはじめた。
「また見つかった
 何が、永遠が、
 海と溶け合う太陽が。」
フランスの詩人、ランボーの「地獄の季節」の一節、小林秀雄訳だ。
その宇宙学者は、「日本に行ったことも行くつもりもないが、日本語を勉強し続けている」と語り、「いつか宇宙人と会ったときのために、異文化を理解する力を鍛えなくてはならないから」と、神妙に説明した。私はその晩、満天の星空の下、流れ星に願いごとをした。宇宙のかなたを思いながら。
 

流れ星への願いが必ず叶うわけ

地球で一番有名な宇宙人は、サン=テグジュペリの『星の王子さま』で、小惑星B612からやってきた王子さまかもしれない。彼が残した秘密の言葉は、「本当に大切なものは、目には見えない」だった。果てしない夜空を見上げれば、些末な日常は遠のき、物事の本質に近づくことができる。澄んだ夜空を流れる星に願ったことは、だから叶うのだ。私の願いも、もちろん叶った。
 

流れ星への願いが必ず叶うわけ

(参考文献:John Farndon著『Do You Think You’re Clever?』)
 



Posted by 清水 玲奈

清水 玲奈

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Reina Shimizu
ジャーナリスト・翻訳家。東京大学大学院総合文化研究科修了(表象文化論)。著書に『世界の美しい本屋さん』など。ウェブサイトDOTPLACEで「英国書店探訪」を連載中。ブログ「清水玲奈の英語絵本深読み術」。