PANORAMA STORIES
q.b.レシピのないレシピ帳~カネストレッリ~ Posted on 2025/04/21 八重樫 圭輔 シェフ イタリア・イスキア
イタリアの北西部、南フランスのコート・ダジュールから続く海岸線沿いにリグーリアという州があります。州都はジェノバで、香り高いバジルのソース、ペースト・アッラ・ジェノベーゼ発祥の街と聞けばピンとくる方も多いのではないでしょうか。
ジェノバは古くから貿易などで大変栄えた港湾都市で、あのコロンブスの出身地でもあります。また、「母を訪ねて三千里」の主人公マルコがアルゼンチン行きの船に乗り込んだのもジェノバの港でした。
僕も去年、本場のペーストを味わうべく、そして末っ子の夢であったイタリア最大の水族館を見るために訪れました。旧市街には栄華を極めた頃に建てられた豪奢なお屋敷が立ち並び、港周辺も近代的に整備されています。しかし、一たび小路に入ると薄暗くて少し猥雑とした雰囲気のところもあり、そのギャップや怖さが逆に旅情を掻き立てるのでした。
丸一日を使って見学した水族館も、三日間歩き回った旧市街も、高台から見た景色も、借りたアパートもどれも最高でしたし、本場のペーストはやはり美味しかったです。
トロフィエという細くてねじれたショートパスタと絡めることが多いペーストですが、レストランのメニューを覗くと、そこにさやいんげんとポテトを合わせたものが多く見受けられました。僕もさやいんげんとポテト入りのを注文しましたが、とろりとしていて、とてもやさしい味でした。
それにしてもイタリアという国はどこに行ってもまずはずれがないし、食べ物が美味しいとつくづく再確認した旅でもありました。リグーリア州には他にも世界遺産となっているチンクエテッレをはじめ、観光地が沢山あるのでいつかまた行ってみたいと思います。
さて、今回ご紹介するレシピは、ここまでの流れからしてペースト・アッラ・ジェノベーゼと思われるかもしれませんですが、そうではありません。「いや、違うんかい!」という声が聞こえてきそうですが、違うんです。ジェノバにはペースト以外にもたくさんの美味しい食べ物があって、今回ご紹介するカネストレッリもそのうちの一つです。
旅の中で僕の心を掴んだものの中に、ジェノバの可愛らしいお菓子屋さんやバール(喫茶店)がありました。そしてそのショーケースに並ぶお菓子には、リグーリア州名物のビスコッティ(クッキー)であるカネストレッリは欠かせません。カネストレッリはイタリア全土で有名で、スーパーのお菓子売り場でも買うことができますが、やはり本場の手作りのものは違いました。カネストレッリの特徴はそのサクサク、ホロホロとした食感にありますが、それは少し多めのバターや片栗粉(入れない人もいます)、そして何とゆで卵の卵黄を使うことで生まれるのです。何とかあの食感を再現しようと試作をし、納得のいくものができたので是非皆さんも挑戦してみて下さい。しかも簡単です!それではレシピをどうぞ。
カネストレッリ
材料(直径6cmの型で約20個分)
○薄力粉 100g ○片栗粉 60g ○無塩バター 100g
○粉糖 50g ○茹で卵の卵黄 2個分 ○レモンの皮のすりおろし 1個分
○バニラパウダー又はバニラビーンズ q.b.(適量)○塩 一つまみ
作り方
①ボールに薄力粉と角切りにしたバター(冷蔵庫から出した冷たいままのもの)を入れ、製菓用カードでバターをさらに細かくしながら薄力粉と切り混ぜていきます。
②そぼろ状になったら他の全ての材料を加えます。ゆで卵の卵黄は茶こしや小さめのザルなどで裏ごしして加えます。カードで全体を混ぜ合わせたら、作業台に生地を移し、手で素早くこね合わせて一つにまとめます。バターが溶けないように短時間ですませることが大事です。出来あがったらラップで包んで冷蔵庫で30分~1時間寝かします。
③30分経ったら生地を8mm~1cmの厚さに伸ばします。オーブンは170度に予熱しておきます。伸ばした生地を花形の型でくり抜いていきます。カネストレッリの大きさは大小ありますが、今回は直径6cmの型を使っています。真ん中の部分は直径1~2cmの丸型の口金を使ってくり抜きます。余った生地は素早くまた伸ばし、最後まで使いきります。オーブンシートを敷いた天板に並べ、170℃で16分ほど焼きます(お使いのオーブンによって微妙な差があります)。
焼き色が付きすぎないように注意しましょう。うっすらと焼き色が付きますが白っぽい感じが理想です。焼き上がりに触るとほろっと崩れやすいので注意しましょう。冷めたらきちんと固まります。
④冷めたら粉糖(分量外)をたっぷりまぶして出来上がりです!
カネストレッリとは“小さなかご”という意味で、一説によれば焼きあがった生地をかごに入れて冷まし、それを来客にふるまっていたからだと言います。いずれにせよこのマーガレット型の愛らしいクッキーは朝食にも紅茶やコーヒーのお供にも、ピクニックのおやつとしてもピッタリなので、皆さんもぜひ作ってみて下さいね。そういえば、余った茹で卵の卵白は今回はサラダに入れて食べましたが、皆さんはどう使いますか?
それではまた、普段着の食卓でお会いしましょう。
Posted by 八重樫 圭輔
八重樫 圭輔
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シェフ。函館市生まれ。大学在学中に料理人になることを決め、2000年に渡伊。現在は家族とともにイスキア島に在住。