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q.b.レシピのないレシピ帳~函館風がごめ昆布のスパゲッティ~ Posted on 2025/03/20 八重樫 圭輔 シェフ イタリア・イスキア

q.b.レシピのないレシピ帳~函館風がごめ昆布のスパゲッティ~

 
1月某日、数年ぶりに帰国した僕は実家へは直行せず、念願だったある街への再訪を果たすべく、羽田からの飛行機の中にいました。機体が着陸態勢に入り、いよいよ高度が下がってくると眼下に広がる懐かしい海岸線。車輪が滑走路に触れ、機内に軽い振動が伝わった瞬間、体中に興奮の電流が走る。
 

q.b.レシピのないレシピ帳~函館風がごめ昆布のスパゲッティ~

 
函館空港に降り立った時、僕はそんな感覚を初めて味わいました。函館に住んでいたのは生まれてから小学校入学直前までの、ほんの6年余り。けれども当時の記憶はとても鮮明に残っていて、逆に最近の出来事よりもリアルに思い出せる程です。きっと子供ながらの感性をフルに使って毎日精いっぱい生きていたのかと思うと、どんな幼子でも、どうせわからないだろうと適当にあしらってはいけない、という気持ちになります。
 



q.b.レシピのないレシピ帳~函館風がごめ昆布のスパゲッティ~

q.b.レシピのないレシピ帳~函館風がごめ昆布のスパゲッティ~

 
その後、父親の仕事の関係で北海道内の街を転々としましたが、函館が恋しい気持ちはずっとどこかにあって、小学校高学年くらいまでは天気予報は函館のものをチェックしていました。最後に訪れたのは28年前。大学生の時でしたが、1泊の駆け足旅行であまり観光はできませんでした。
 



q.b.レシピのないレシピ帳~函館風がごめ昆布のスパゲッティ~

q.b.レシピのないレシピ帳~函館風がごめ昆布のスパゲッティ~

 
イタリアに来てからは帰国する機会もめったになく、故郷再訪の思いは募るばかりでした。そして今回ようやく実現したわけですが、両親と兄も現地で合流し、数十年ぶりに家族で数々の思い出の地をゆっくりと巡ることができたのです。
パズルの答え合わせをするかのように、行く先々ですっとはまっていく記憶のピース。人は穏やかで街並みはノスタルジック、坂の上から見た空や海は真っ青で、レトロな喫茶店も市電の雰囲気も当時のまま。子供の頃の思い出が決して誇張されたものや、後の情報などで作り変えられたものではなかったことに感動を覚えました。函館は1月にしては珍しく雪が殆んど無く、のどかな風が吹いていました。
 



q.b.レシピのないレシピ帳~函館風がごめ昆布のスパゲッティ~

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少し気がかりなのは、他の多くの地方都市と同様に人口が減少の一途をたどっていること。僕が住んでいた頃が函館市の人口のピークで、34万人を超えていたようですが、最新の統計では23万人台となっており、過疎化が進んでいることがわかります。日本の魅力は地方都市にこそあると思っているので、何とか各自治体には頑張ってほしいと切に願います。
 

q.b.レシピのないレシピ帳~函館風がごめ昆布のスパゲッティ~

 
さて、今回の旅では幾度となく舌鼓を打ちましたが、なかでも初日に泊まった湯の川温泉でいただいたガゴメ昆布がとても印象に残っています。独特の粘りとさっぱりした味わいが魅力のガゴメ昆布は、主に函館近郊に生育している貴重な昆布で、栄養価も非常に高いとされています。酢の物、麺類のたれ、漬物、冷ややっこ、ごはんのお供など様々な料理に使えるそうで、僕もたくさん持って帰ってきました。今回はそのガゴメ昆布を、春らしい爽やかな風味のパスタにしてみました。ガゴメ昆布はネット通販でも買えるようなので北海道外にお住まいの方は検索してみてくださいね。もちろん現地でお求めいただけると、観光もできて尚更良いと思います。函館の回し者だと思われたなら、それも本望。頑張れ地方都市、がんばれ函館!ということでレシピです。
 



q.b.レシピのないレシピ帳~函館風がごめ昆布のスパゲッティ~

 
函館風 ガゴメ昆布のスパゲッティ


材料
〇細切りガゴメ昆布 1人当たり小さじ一杯程度 〇アスパラ q.b.(適量)
〇砂抜きしたあさり q.b. 〇スパゲッティ 1人当たり80~90ℊ 
〇ニンニク、唐辛子 q.b. 〇オリーブオイル q.b.
※ガゴメ昆布はコップ一杯ほどの水に15分ほどつけて戻しておきます。柔らかくなったら茶こしなどでこし、小皿に入れておきます。昆布を戻した水はそのまま「こんぶ水」として飲用できるそうです。
 

q.b.レシピのないレシピ帳~函館風がごめ昆布のスパゲッティ~

q.b.レシピのないレシピ帳~函館風がごめ昆布のスパゲッティ~

 
作り方
①アスパラは固い部分を切り取り、根元をピーラーでむき、2分ほど茹でてから食べやすい大きさに切ります。同じ鍋のお湯でスパゲッティを茹で始めます。
②フライパンにオリーブオイルを引き、にんにく(スライスでも刻んでも良い)と唐辛子を入れて熱します。ニンニクが色づいたらあさりを入れ、ゆで汁をお玉一杯ほど入れて蓋をし、強火で炒めます。あさりが開いてきたらアスパラも加え、さらにゆで汁を足して少し煮て火を止めます。あさりはソースの一部と共にお皿にあげておきます。
③アルデンテに茹でたスパゲッティをフライパンに入れ、ガゴメ昆布を何か所かに分けて入れます(粘りが強いので一か所に入れると全体に絡みにくいです)。ゆで汁を適量足しながらよく混ぜ、スパゲッティをお皿に盛ります。取り分けておいたあさりとソースををフライパンに戻し、余熱で温めたらパスタの上にかけて出来上がりです。
 

q.b.レシピのないレシピ帳~函館風がごめ昆布のスパゲッティ~



q.b.レシピのないレシピ帳~函館風がごめ昆布のスパゲッティ~

 
白ワインも使わず、香辛料も最小限なので、ナチュラルで素材の味を生かしたパスタです。函館名物の一つ、塩ラーメンのようにさっぱりとしたこの一品、機会があったらお試しくださいね。それではまた次回、普段着の食卓でお会いしましょう。
※タイトルのq.b.とは適量を意味するイタリア語quanto basta(クワント バスタ)の略です。細かいことは気にせず臨機応変に、あなたなりのレシピにして頂けたらという思いを込めて。
 

自分流×帝京大学



Posted by 八重樫 圭輔

八重樫 圭輔

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Keisuke Yaegashi
シェフ。函館市生まれ。大学在学中に料理人になることを決め、2000年に渡伊。現在は家族とともにイスキア島に在住。