PANORAMA STORIES
フランス・ペイザージュ 田舎だより1 Posted on 2023/02/20 水眞 洋子 ペイザジスト パリ
ボジョレーと日本人の相性
去年から、ボジョレー地方に移り住み始めました。
14年間暮らしたパリを離れ、ワイン造りを営むショパン(Chopin)家のおうちで一緒に生活させていただいています。
私が移り住んだのは、パリから450Km南下したところにある、「ランチニエ (Lantignié)」という村です。
ボジョレー地方全体で見ると、やや北側に位置します。
人口900人足らずの、とても小さなランチニエ村は、村民の10人に1人がワイナリーを営み、村の半分以上がワイン畑で覆われる、生粋の「ワイン村」です。
外国人率はとても低く、日本人は私しかいません。
パリ暮らしが長かっただけに、
「そんな田舎にいて、飽きない?」と、
「カルチャーショックになったりしないの?」と、
よくご心配いただくのですが、おかげさまで、今のところ元気に生きています。
それは、ショパン家のみなさんがとても良くして下さるのと、村から都市へのアクセスが比較的よく、出張と在宅で仕事がこなせる環境があるおかげです。
(パリへはT V G(高速電車)で2時間弱、リヨンへは電車で30分ほど)
それに加え、ランチニエ村には、心を元気にさせてくれるものがたくさんあることも、前向きに暮らせる要因だと思っています。
例えば、ペイザージュ(風景)。
ランチニエ村には、どことなく日本を彷彿させるペイザージュがいたるところにあります。
なだらかな丘陵があり表情豊かなところや、
小川がいたるところで流れ心地いい瀬音で満ちているところ、
また、豊かな森が広がり、秋は紅葉が綺麗なところなど、
日本を思わせる懐かしい風景をいろんなところで目にすることができます。
なにげない日常の風景が、なんとも心を和ませてくれます。
実はこの辺りのボジョレー地方は、その昔、火山地帯だったそうです。
50年ほど前までは鉱山業が盛んで、蛍石や、パライトなどの鉱物が大量に採掘されていたのだとか。
火山や丘陵の豊富さにも、日本との近さを感じます。
<採石場があった丘の一つとその周辺>
そして、もう一つ、私の心をウキウキさせてくれるものがあります。
それは、ワインです。
不思議なことに、ボジョレーワインは、日本人の味覚にとてもよく合います。
お酒を嗜むのが好きな私は、パリでフランス産ワインを飲むことは多々あったのですが、ボジョレーワインをいただく機会はあまりなく、ここに来て本場のボジョレーワインのおいしさに、正直驚きました。
特に和食と相性はとてもよく、いろんなスタイルの和食にもれなく合います。
お魚料理にもボジョレーの赤ワインはぴったりです。
「あなたのワインと和食って、本当によく合うね。最高のマリアージュだよ!」
そう興奮ぎみに私が絶賛すると、ショパン家の醸造家ラファエルさんが、少し照れながらこう教えてくれました。
「びっくりでしょ?これが《ガメイ》の魔法なんだ」
「ん?ガメイ?」
そう思ったのは、私だけかもしれません。
みなさまはすでにご存知かと思いますが、《ガメイ(Gamay)》とは、ブドウの品種のことです。
ボジョレーワインは、ほぼ総てガメイ品種によって醸造されています。
大ぶりの房をつけ、病気に強く、花のような華やかな香りと、果実の豊かな風味。
そして、爽やかで柔らかな口あたりが特徴だといわれています。
「実はね、ガメイは《化ける》ブドウなんだ。」
そうラファエルは続けます。
「ブルゴーニュのような華やかなワインにもなれれば、ボルドーのような重厚なワインになったりもする。寛大さ(générosité) と繊細さ(finesse) を兼ね備えたブドウ、それがガメイなんだ。だから和食に合うワインにだって、化けれるんだよ」
彼曰く、ガメイにうまく《化けて》もらうには、ブドウの力を最大限引き出す栽培と醸造が、とても大切だとか。
「手をかけ過ぎてもダメ。かけなさすぎてもダメ。絶妙に調和した状態に導いてあげることが、とても大切なんだ。小手先のごまかしは、全然効かないよ(笑)」
栽培は、化学農薬を使わないビオ(有機)栽培にこだわり、醸造は、酸化防止剤ゼロで自然酵母を使うナチュラルワインの原理を踏襲しています。
ガメイは酸性土壌を好むため、火山起源のボジョレー地方の大地がとても最適なのだそうです。
<昨年仕込んだワインを試飲するラファエル>
「僕が思うに、ボジョレーワインと和食の相性がいいのは、本質(ナチュール、Nature)がよく似ているからじゃないかなぁ。和食は素材のよさを活かしながら、《いい塩梅》を極める料理じゃない?どちらもごまかしが効かないというか、絶妙に調和したもの同士なんだよ。だからこそ、よく合うんじゃないかなぁ」
日本の風景を彷彿させるぺイザージュが広がり、和食に合うワインを育む村、ランチニエ。
小さく素朴だけど、日本人の心をホッとさせてくれるものが豊かにある愛らしい村です。
Posted by 水眞 洋子
水眞 洋子
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大阪府生まれ。琉球大学農学部卒業後、JICA青年海外協力隊の植林隊員及びNGO《緑のサヘル》の職員として約4年間アフリカのブルキナ・ファソで緑化活動に従事。2009年よりフランスの名門校・国立ヴェルサイユ高等ペイザージュ学校にて景観学・造園学を学ぶ。「日本の公園 におけるフランス造園学の影響 」をテーマに博士論文を執筆。現在は研究のかたわら、日仏間の造園交流事業や文化・芸術・技能交流事業、執筆・講演などの活動を幅広く展開中。
ヴェルサイユ国立高等ペイザージュ学校付属研究室(LAREP)、パリ・東アジア文明研究センター所属研究所(CRCAO)、ギュスターヴ・エッフェル大学に所属。シエル・ペイザージュ代表。博士(ペイザージュ・造園)。