PANORAMA STORIES
パリ最古のパッサージュで見つけたノスタルジー Posted on 2022/02/26 ルイヤール 聖子 ライター パリ
パリには素敵な小道があります。
パッサージュ、と呼ばれる古いアーケード街です。
1776年に生まれた典型的なパリの娯楽施設で、主に19世紀前半に発展しました。
当時は大変な人気だったそうですが、デパートの台頭などで次第に数は減り、現存しているのはおよそ20か所程度、とのことです。
しかし一歩足を踏み入れると、心を鷲掴みにされるようなノスタルジックな世界が広がっています。
程よくエレガントで、程よく寂びれ、程よく賑わい、程よく購買意欲が刺激される。
パリの良いところ、と言われればキリがないのですが、1つ挙げるとしたら私はパッサージュのような「新旧一体型」の世界観だと思います。
そんなパッサージュの中でも、パリ最古のものとして残されているのが「パッサージュ・デ・パノラマ」です。
19世紀のパリに誘ってくれる素敵な小道について、この場をお借りしてご紹介したいと思います。
パッサージュ・デ・パノラマは、亡命貴族のモンモランシー=リュクサンブール侯爵の邸宅を買い取った、アメリカ人実業家によって作られました。
1799年に建設が始まり、1800年に完成しています。
今年で222歳です。
フランス革命が終わった頃でしたので、パリの人々はパッサージュという娯楽施設に飛びついたそうです。
劇場やレストラン、何でも屋(今でいうセレクトショップ)が集まり、その人気は第一次世界大戦前まで続きました。
しかし世の中の常として、人気のあるものには終わりがあります。
大戦が始まると、周辺のレストランは次々と閉店し、代わりに銀行が立ち並ぶようになりました。
パッサージュ・デ・パノラマは閉鎖こそ免れましたが、時代の流れで人気が急落したといいます。
パッサージュにこの上ないノスタルジーを感じるのは、そういった栄枯盛衰の雰囲気が残っているからと言えるでしょう。
今あるブティックもかなり独特です。
いくつもの古切手屋が存在し、アジア風のアクセサリー店や人形店、風変わりな現代アートを売る店もあります。
ギンガムチェックのテーブルクロスをトレードマークとした「古き良き」ビストロもあれば、トレンドの餃子店もあります。
いつも歴史とモダニティがミックスしているのがパリですが、パッサージュ・デ・パノラマはそれ以上にカオスです。
ただ、そのカオス感がなぜかとっても心地が良いのです。
19世紀の風景の中を、自転車を引いて歩くパリジャン。
流行りのスニーカーを身にまとい、老舗レストラン前で順番を待つパリジェンヌ。
ここではそういった、新旧の融合を色濃く感じることができるのです。
パリの人はその辺がお上手だと思うのですが、おそらく意識している訳ではないと思います。
そんなナチュラルさも相まって、一層心地よく感じさせてくれるのでしょう。
パリの人たちにとってパッサージュ・デ・パノラマは、エッフェル塔のように「頻繁にはいかないけれど、無くなったら悲しい場所」として映っているようです。
最近では研究目的で訪れる学生なども多く、パサージュが人々に再注目されているのだとか。
テクノロジーを追いかけて、本当に必要なものから遠ざかってしまいがちな世の中で、こうした古い建物の存在は気持ちを静めてくれますね。
私は初めてパリを訪れた頃からパッサージュ・デ・パノラマに通っているのですが、ここで必ず買うのが、1900年初頭の古ハガキです。
昔のフランスの人々は、写真のように美しい筆記体を書いたそうです。
ワラ半紙のような紙質と埃の香りが、誰かの思い出と混ざって、とてつもないノスタルジーを運んできてくれます。
私はこの古ハガキを見ながら、アップデートのし過ぎで疲れてしまった脳をリフレッシュさせているのです。
聞けば、この古ハガキは寄付であったり、お店側が買取を行って集めたものを販売しているとのこと。
1枚1€から売られているので、次回パリ旅の思い出として購入するのも良いかもしれません。
「ベル エポック」のエスプリが残るパッサージュ・デ・パノラマは、昔ながらのパリを堪能できる素敵な場所です。
19世紀という時代をそのままラッピングしたようなこの場所で、パリの今昔を感じてみてくださいね。
Posted by ルイヤール 聖子
ルイヤール 聖子
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猫と香りとアルザスの白ワインが好き。