PANORAMA STORIES
「ついにオペラ座最長ストへ。パリスト最新情報、1月4日版」 Posted on 2020/01/04 Design Stories
パリのストはちょっと緩和されつつある。メトロは今、朝夕動いていて、ちょっとましになっている。みんなメトロが無くてもやっていく方法を自分たちなりに考えみつけたみたいで、行きつけのカフェのクリストフ(日本贔屓)は遂に自転車を買った。昨日は小雨降る中、交差点で、「おお、辻さーん! 自転車買いましたぁ」と日本語で声をかけられてしまった。夜会があっても、みんな上は着飾っているのに、足元はスニーカーだ。権利を守るために一致団結して戦うパリの人たち、めっちゃ人間らしい。「年金問題」、黙っていても上がらない、とクリストフが笑っていたっけ。しかし、個人的には早くストが終わってほしいと思う。すくなくとも子供たちの学校がもうすぐ始まるので…。
ところが、思わぬ場所のストが観光客に打撃を与えている。オペラ座だ。オペラ座のバレエダンサーたちがストライキをやった2007年時のオペラ座ストの3倍以上、すでに14億円もの損失額を出している。友だちがオペラ座でオペラを観るのを楽しみにパリまでやって来たが、観劇できず、しかもストで、かなり可哀想だった。でも、なんでオペラ座のダンサーまでもがストライキなのか、と日本の皆さんは思うだろう…。意外な権利の主張と彼らの特別な存在感がそこにはかくされていた。
バレエダンサーの特別年金制度は1698年、ルイ15世の時代から続いている。パリオペラのダンサーは153人くらいしかいなくて、そのうち、エトワルと呼ばれるダンサーは17人だけ。世界中で一握りの人しかオペラダンサーに上り詰めることができない、この特別な人たち(才能に加え厳しい訓練をやって上り詰めてきた人たち)が同時にパリのオペラの歴史を守ってきた。ちなみに、オペラダンサーは8歳で家を出て、未来のダンサーを目指すのだそうで、19歳くらいにコンクールがあり、その中から通るのはせいぜい6人から8人程度。入ってからも軍隊並みの規律ある訓練の日々が続く。エトワルダンサーになるまでのステップは大昔の修験僧よりも厳格かもしれない。
オペラダンサーの年金制度廃止について、2022年1月以降に入った人からこの制度を廃止する、と政府の見解に対しダンサーは、我々は350年以上続く歴史の継承者の一人であって、未来のダンサー達を蔑ろにはできない、と反発してる。(この年金制度はコメディフランセーズのパリオペラバレエダンサーに対してのものなので、それ以外のダンサーには準じない)
この一握りの人たちにのみ適用されていたのがフランス最古の特別年金制度である。42歳で引退、その後年金がもらえるという特別な制度だったが、それが今回の改正で廃止されようとしているのだ。たしかに彼女ら彼らにしてみれば黙ってはいられないだろう。フランスのバレー界はこの年金制度のおかげで、頑張って来れたようなところもあるのだから…。15公演以上がキャンセルで損失はすでに14億円。オペラ座のバレエのチケットを取るのは結構難しく、フランス人のオペラファンのみならず世界中の観光客が何ヶ月も前から楽しみにしてきた。しかし、公演がストで不意にキャンセルされたのだから、残念を通り越している。はるばる日本からやって来た友だちが使った旅費を考えてもらいたい。
しかし、自分たちの権利を守るのは自分たちにしかできない。オペラ座のダンサーたちのあの優雅な舞いを支えるつま先が軽くなる日はいつだろう。今回のパリの交通ストも史上最長となったが、どこでどう折り合うかが難しいところである。問題は年金制度からはじまり多岐にわたっているのだから…。オペラ座の公演がいつスタートできるか、見守っていたい。
Posted by Design Stories
Design Stories
▷記事一覧デザインストーリーズ編集部(Paris/Tokyo)。
パリ編集部からパリの情報を時々配信。