PANORAMA STORIES
ゴッホのひまわりは秋に咲く Posted on 2019/11/26 まきの ななこ ライフスタイルキュレーター アムステルダム
何故かこの時期になるとゴッホの「ひまわり」が見たくなります。ひまわりと言えば夏の代名詞のような花なのに、おかしいですよね。でもゴッホの描いた、あの黄色の絵の具が何層にも重なったデコラティブな頭を重たそうに傾げる様子からは、光り輝く太陽を仰ぎ見ている生命力みなぎるひまわりというよりも、美しい花を咲かせるためにそのエネルギーを使い果たし、来たる冬に向けて最後の力を振り絞って咲き誇っているような、少し切ない印象を受けるのです。それは朽ちて落ち葉になる前に、金色に輝く紅葉のようなイメージに近いかも知れません。
でも本当のところ、ゴッホがどんな気持ちで描いたのかなんて知る術もなし。勝手な思い込みでゴッホさんに失礼かしらなんて思っていた矢先、これらの「ひまわり」が描かれた背景が少しわかるような調査結果が、この夏アムステルダムのゴッホ美術館で発表されていました。
ゴッホが描いた「ひまわり」は全部で11点と言われ、そのうち7点はゴッホが晩年を過ごしたアルル時代に描かれました。今回はその中でも特に類似していると言われるロンドン・ナショナルギャラリー所蔵の作品とアムステルダム・ゴッホ美術館の作品を3年かけて保存技術の専門家が分析したというもの。ゴッホ自身はアムステルダムの作品をロンドンの「ひまわり」の”反復版”と呼んでいたようで、この調査ではこの2点が、逆にどのくらい違うのか?ということが明らかにされていました。
結果から先に言ってしまうと、使われていた色の範囲は同じでしたが、絵の具の質感やタッチは異なっており、正確な模写を意図したものではないとのこと。ふたつの作品共にもはや移動には耐えられなくなっており、今回の調査は一切作品には手を触れず、デジタルスキャナーによって絵の具の層や筆遣いを解析し、データを分析したとのことです。
難しいことは置いておいて、この調査結果は私に、ゴッホとゴーギャンの人間関係やゴッホがなぜ「ひまわり」を幾度も描いたのか。そんなことをより深く理解する手助けをしてくれました。
ゴーギャンはゴッホの「ひまわり」をいたく気に入り、ゴッホに欲しいと手紙で伝えるわけですが、ゴッホは決して手放そうとはしなっかった。そしてゴーギャンの所望があったからこそ、今アムステルダムにある”反復版”と言われる「ひまわり」が描かれたのかも知れないという説。
以上のような話を聞いて再度ゴッホの「ひまわり」を見ると、やっぱりこの絵は天真爛漫な花というよりも嫉妬と憧れと羨望とプライドと、、様々な感情が絡み合ったエネルギーがキャンバスに炸裂した花なんだと思わずにはいられなくなりました。
昨年オランダからアルルを訪れた際、私もその南仏の光の強さに目眩を覚えたのと同じように、日本に憧れ、アルルで芸術家の桃源郷をつくることを夢見たゴッホも、情熱が過ぎて少し熱射病のようになったのかも知れません。
日本では今年もゴッホ展が開催され、人気を博していると聞きます。生前に日本を訪れることは叶わなかったゴッホですが、彼の描いた絵が日本で大人気と聞いたらさぞかし喜ぶことでしょう。
11枚のゴッホの「ひまわり」が一堂に会することはもう不可能ですが、これからも様々な場所でたくさんの方にこの花が語りかける世界が、いつまでも平和でありますように。
Posted by まきの ななこ
まきの ななこ
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ライフスタイルキュレーター。シカゴ、東京、モスクワ、ロンドン、、、一期一会に生かされて。新しいホテルやブランドなどの立ち上げに携わりながら様々な都市を巡り、2014年よりアムステルダム在住。オランダ語見習い中。放浪癖あり。