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レンブラントが描いた夫婦愛の行方 Posted on 2018/04/24 まきの ななこ ライフスタイルキュレーター アムステルダム

湖面に浮かぶ月のごとく、漆黒の背景に浮かびあがる男女の像。これはオランダを代表する画家レンブラントがまだ若かりし28歳の時分に、アムステルダムの豪商の息子、マールテンとオープイェン(Marten & Oopijen)が1634年に結婚した際に手がけたという2点の肖像画です。多くの肖像画を残したレンブラントですが、全身を描いたものはこの2点のみだそう。
 

レンブラントが描いた夫婦愛の行方

結婚式に際しての肖像画らしく、夫婦仲睦まじく向かい合うように展示されている姿は微笑ましい限りですが、一般公開への道のりは、それほど簡単なものではありませんでした。

1877年にフランスのギュスターヴ・ロスチャイルド男爵が購入して以来、2枚の絵画は長らくフランスで保管されていましたが、その間に一般公開されたのは1956年、アムステルダムのオランダ国立美術館とロッテルダムのボイマンス・ヴァン・ベーニンゲン美術館館が共同開催した展覧会、一度きり。

そんな門外不出だった2枚の絵を、2015年にロスチャイルド家が手放すことが発表されると、自国の巨匠作品を取り戻したいオランダと大切な文化遺産を手放したくないフランスとの間で争奪戦が勃発。価格は1枚8,000万ユーロ(約105億円!)までつり上り、もはや一国をあげても2枚の絵を同時に所有することは難しい事態に発展してしまいました。

2枚の絵画は夫婦離れ離れの運命を辿るのか……、一時はそんな懸念が囁かれもしましたが、数ヶ月に及ぶ話し合いの結果、結局事態は”フランスとオランダの共同購入”という形で決着をみることになったのです。
 

レンブラントが描いた夫婦愛の行方

レンブラントが描いた夫婦愛の行方

その結果、2枚の絵画は仲良く揃ってパリのルーヴル美術館とアムステルダムのオランダ国立美術館の間を行ったり来たりすることに。なんとも微笑ましい、レンブラント外交に発展です。

それから3年の時を経て、これまた仲良く仏・蘭共同で修復作業に入っていた夫婦の肖像画が、見違えるほど美しく生まれ変わったその姿をこの度披露しました。

素人の目にも歴然とわかるように、修復を終えた二人の姿はレンブラントの美意識、筆使い、大胆な構図と色彩のコントラスト、そして本物以上に見えるディティールの繊細さ……、全ての面において輝きを増していました。

深く吸い込まれるような濃紺とも漆黒とも表現できないような背景に浮かびあがる二人の青白く透き通るような肌、その肌をより一層美しく引き立てる首回りの繊細なレース、オープイェンの柔らかそうな手を飾る宝石たち、そして背景と一体化しつつも風にそよぐような軽やかさを感じるドレス。

どこからどこまでレンブラントの魂、息遣いを感じるような作品は時の流れを感じさせず、まるでついこの前描かれたような錯覚に陥ります。
 

レンブラントが描いた夫婦愛の行方

レンブラントが描いた夫婦愛の行方

しかしそれは今回、1年半という歳月をかけて仏・蘭の合同チームが精魂尽くして修復をした賜物。古くなった樹脂は少なくともその6層が除去され、調査の結果、細かいところに至るまで、そのすべてがレンブラントの手によって描かれていることが明らかになりました。

もちろんレンブラントという巨匠あっての作品ですが、こうやって見事に修復された絵を目の前にすると、修復する方々もまた素晴らしいアーティストであり職人さんだなと思わずにはいられません。

今後この2点の肖像画はパリのルーヴル美術館とアムステルダムの国立美術館の間を行ったり来たりしながら、引き続き両国の交流に貢献をしてくれるそうです。同じ絵画がフランスではどのように展示されるのかも気になるところ。ぜひそちらも鑑賞しに行こうと思います。何よりも夫婦が離れ離れになることが回避されて、本当に良かったです。末長くお幸せに!
 

レンブラントが描いた夫婦愛の行方

レンブラントが描いた夫婦愛の行方

 
 

Posted by まきの ななこ

まきの ななこ

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Nanako Makino
ライフスタイルキュレーター。シカゴ、東京、モスクワ、ロンドン、、、一期一会に生かされて。新しいホテルやブランドなどの立ち上げに携わりながら様々な都市を巡り、2014年よりアムステルダム在住。オランダ語見習い中。放浪癖あり。