PANORAMA STORIES
週末は家族みんなで目力アップ – アムステルダム国立美術館でスケッチを – Posted on 2016/12/28 まきの ななこ ライフスタイルキュレーター アムステルダム
インスタグラムにセルフィーなど、SNS無しの生活など考えられなくなった昨今。アートの世界でも撮影禁止の企画展は入場者数も伸び悩み、オークションではいわゆる“写真受け”する作品から売れて行くと言われる時代だ。
そんな中、アムステルダム国立美術館で始まった”スタート・ドローイング”という活動が秘かなブームを呼んでいる。
”You See More When You Draw”というスローガンのもと、毎週土曜日になるとエントランス横に英語とオランダ語のスケッチブックと鉛筆が山積みにされる。
このスケッチブック、ただのブランクシートと侮るなかれ。
館内の地図と共にスケッチに向いている作品がテクニックごとに紹介されている。
例えば、”表情”に注目するのであればアジア館の《仁王像》、”線”を描くのであればアントワープの聖ミカエル修道院にあったといわれる《イザベル・ド・ブルボンの墓の前で嘆く10人》など、初心者や観光客にも分かりやすいような配慮が随所に配されているのだ。
スケッチブックなど手にするのは高校の美術の授業以来かと思われる著者も、迷う事無く自分のペースでドローイングを開始することができた。
鼻の頭と作品がくっつきそうになるまで近寄ってもお咎め無し。
スケッチの目的はいかにうまく描けるかではなく、自分の描きたいものをどこまで良く見れるか。
これこそ本当の意味での”目力”(?)が試されるのだ。と同時に、私たちが普段の生活で見ていると思っているものがいかに実態を欠いた不完全なものであるか、気づかせてくれる。
実はアムステルダム国立美術館のドローイング・スクールの歴史は古く、1885年美術館創設当初まで遡る。
寒くなって来た週末の午後ということもあり、館内は自由気ままにスケッチを楽しむ家族やカップルで大盛況。
ちょっとお隣を覗き見して、進捗具合を確認し合うのも面白い。
将来のレンブラントやフェルメールがこの中から生まれるかも、、、と想像するだけでワクワクする。
そしてさらに上を目指す心意気がある人は、プロの専門家について指導してもらうことも可能だ。
(要予約・定員制・無料)
ヨーロッパでは大人の塗り絵が、アートセラピーの一環として根付くような人気ぶり。
様々な加工が施せる写真も楽しいが、最後に頼れるのは自分の”目”。
これからのアートは目、カメラ、インターネットなど様々なメディアをミックスして楽しむ時代。
人生のキュレーターはいつでも自分自身なのだ。
こう書いてくると、なんだかとてもお堅い印象の美術館に聞こえるかも知れないがご心配なく。
日本では、10年の改修工事の様子を扱ったドキュメンタリー映画『みんなのアムステルダム国立美術館へ』でご存知の方も多いようだが、オランダを代表する美術館でありながら庶民の憩いの場。
上記の活動とは対照的に最新のオンライン技術をいち早く取り入れることでも有名だ。
併設されたカフェのコーヒーは現地の人にもファンが多く、コーヒー目当てに美術館に来る人もいるくらい。
もちろん私もそのひとり。
そしてレストランにいたっては、シェフがミシュランを獲得するほどの力の入れ具合なのだ。
このスケッチブックはもちろん無料で持ち帰ることができるので、後日、平日の美術館でゆっくりと再度挑戦するも良し、美術館の目玉であるレンブラントの《夜警》の前に陣取って、自分なりの”光と影”をとことん追求することも可能。そして何より、自分の”目”というレンズを通して見た作品は、どんなガイドブックよりも臨場感あふれる解説を雄弁に物語ってくれる最高のスーベニアになるだろう。
まるでオランダ人を体現するかのごとく、すべてに全力投球なアムステルダム国立美術館。
ぜひ遊びに来てください。
Photographs: Courtesy of The Rijksmuseum (except the second photo by Nanako Makino)
(写真提供[2枚目を除く]:アムステルダム国立美術館)
〇アムステルダム国立美術館
https://www.rijksmuseum.nl/en/
Posted by まきの ななこ
まきの ななこ
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ライフスタイルキュレーター。シカゴ、東京、モスクワ、ロンドン、、、一期一会に生かされて。新しいホテルやブランドなどの立ち上げに携わりながら様々な都市を巡り、2014年よりアムステルダム在住。オランダ語見習い中。放浪癖あり。