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自分の子以外にも「マイエンジェル」? フランス人の、愛情あふれる子供の呼び方とは Posted on 2024/03/18 尾崎 景都 日本語教師 パリ

 
日本で子供の愛称と言えば、名前の一部に「ちゃん」や「くん」を付けるのが一般的だ。
私も幼い頃、家族や友人から「けっちゃん」と呼ばれていた。
今でも姉妹や一部の旧友からはそう呼ばれていて、結構気に入っている。
フランスにも愛称はある。
名前の最初を取ってそれを繰り返すものが多く、ジュリアンやジュールはジュジュ、ルイやルカはルル、モハメドはモモ、などなど。
それとは別で、フランスではよく大事な人を「誰もが誰にでも使える愛称」で呼ぶ。
「ダーリン」や「ハニー」のようなもので、一番広く使われているのは「マシェリ(ma chérie)」だろう(ma chérieは女性に対して使う場合で、男性に対して使う場合はモンシェリmon chériになる)。
カップル間で呼び合う時にもよく使う愛称だ。他の呼び方も少し紹介してみよう。

【発音が可愛いので使う】
Ma puce               マピュス      (ノミ)  
Mon chouchou            モンシュシュ    (キャベツ)
【綺麗なもの、可愛いものに例える】
Ma princesse             マプランセス    (お姫様)
Mon ange               モンノンジュ   (天使)
Mon bébé               モンベベ     (赤ちゃん)
Ma belle                マベル      (美しい)
Ma bichette              マビシェット   (子鹿)
Mon chaton              モンシャトン    (子猫)
【大切なものを表す単語で表現】
Mon cœur               モンキュール    (ハート)
Mon amour              モンナムール    (愛)
※語頭に常に付いている「mon、ma」は「私の」という意味で、「マイ」ハニー、「マイ」ダーリンと同じ。

上に挙げたものはごく一部で、他にも小鳥ちゃんだのウサギちゃんだの、そのバリエーションたるや呼びかける人の数だけありそうだ。
 

自分の子以外にも「マイエンジェル」? フランス人の、愛情あふれる子供の呼び方とは



 
驚くのは、この愛称が病院や学校でも耳に入ってくるということ。
私が6歳と3歳の娘を小児科へ連れて行った時も、医師や看護師が「ほらここに座ってマシェリ、まずは服を脱ぎましょうかマベル、学校は楽しいかなマプランセス?」と、本当にこんな調子で娘に話しかけている。
学校でも、子供たちが「さよーならー」と言う度に職員が「さようならマピュス、また明日ねモンシュシュ」と、数多の「愛称引き出し」から出てくる出てくる。
私はそれを聞いて「へー、そういう言い方もあるんだ」と新しい発見をしている。
 

自分の子以外にも「マイエンジェル」? フランス人の、愛情あふれる子供の呼び方とは



 
日本ではどうだろう、と考えてみる。
自分の子に「可愛いね」「大好きだよ」と話しかけるのは珍しくないと思うけれど、名前の代わりに「マイエンジェル」「私の子猫ちゃん」と呼ぶかと言われると……家庭によっては「可愛い○○ちゃん」「大好きな○○くん」と言うくらいだろうか。
それも自分の子以外に言うことは滅多にないだろう。
更にそう呼ぶのは家庭内だけであって、スーパーやバスの中など公共の場では自分の子に対してですら控える親も多いのでは。
私はこの奥ゆかしさも好きだ。
 

自分の子以外にも「マイエンジェル」? フランス人の、愛情あふれる子供の呼び方とは



 
この習慣には日本とフランスの文化の違いが如実に出ている。
私もフランスに暮らす二児の母。
とは言え、やはり根っこは揺るぎなく日本人。
どんなに可愛くても人の子に「私のお姫様」と言うことには抵抗がある。
ただ、他の人から我が子に言ってもらう分にはかなり好意的に受け止めている。
言葉の裏を読み取ったり心中を察したりする能力がまだ備わっていない子供には、文字通り愛に溢れた愛称で呼ぶというのはとても分かりやすい愛情表現だからだ。
時々、私が「ありがとう、マベル」と言った時の娘のくすぐったそうな笑顔がそれを物語っていて、微笑ましいのだ。
 

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Posted by 尾崎 景都

尾崎 景都

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Keito Ozaki
パリ第7大学 言語音声学科 修士課程修了後、日本語教師として活動中。夫は料理人。