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「コロナ禍のドイツで子供たちに音楽を教えるわたしの仕事」 Posted on 2022/02/07 佐藤 希恵 ピアノ弾き、ピアノ講師 ドイツ・ランツベルク

 
私の勤める音楽教室で一番大切にしていることが音楽を楽しむこと。
音符を読むの苦手だけど即興でピアノを弾けたり、音を聞いて弾ける子はその才能を伸ばすし、音大に行きたい子には本気で厳しくやるし、とりあえず音楽に触れたいという子には緩く教えはじめる。
なので決まった教材を使うという決まりもなく、こちらからその都度生徒に合った曲だったり、初心者には音楽教室手作りのチャンスを与えている。
 

「コロナ禍のドイツで子供たちに音楽を教えるわたしの仕事」

「コロナ禍のドイツで子供たちに音楽を教えるわたしの仕事」



 
私が日本の音楽教室で働いている時、「これ練習してきてね」と言えば生徒は素直に「はい」と言った。
ドイツの音楽教室で働き始めてからは、そうはならないことが多い。
「この曲つまんない」なんて、はっきり言うし、口には出さないけど興味がない曲は全く練習してこない生徒もいる。
子供でもドイツ人は意見をはっきり言うので対等に喋らないといけない。
なので、ある程度弾けるようになった子には自分で課題曲を決めさせている。
 

「コロナ禍のドイツで子供たちに音楽を教えるわたしの仕事」

地球カレッジ



 
クラシックを弾く子は10%くらいで、だいたいがポップスか映画音楽を弾いている。
そこからクラシックに興味を持ってクラシックを弾く子も出てきた。
夏にやるコンサートも少し変わっていて、ソロで弾くのはもちろんだが、その他に興味のある生徒を集めてバンドを組ませたりしている。
歌、ピアノ、キーボード、ドラム、ギター、バス、年齢は関係なく組ませる。
なので大人の生徒が歌を担当し、けれどもドラムが小学生だったり、キーボードが高校生だったりする。
レベルは一応揃えるが、年齢は関係ない。
 

「コロナ禍のドイツで子供たちに音楽を教えるわたしの仕事」

 
発表会の半年以上前から毎週土曜日に練習をはじめる。
一人でそのパートは出来ても「合わせ」となると、そうはいかない。
どこで入るのか、どこを弾いているのかが、わからなくなる。
なのでかなりの練習量が必要だが、一つの音楽をみんなでつくる楽しさを感じることで出来るのだから、本番に向けてじわじわとモチベーションも上がっていく。
バンドの演奏会を経験した生徒は緊張しながらも練習の成果を出せた達成感で、大喜びだ。
大舞台で演奏出来たことが何より、楽しかったという。
 

「コロナ禍のドイツで子供たちに音楽を教えるわたしの仕事」

 
ある生徒は当時まだ小学1年生で初めてのコンサート。
本番の舞台は照明のせいで、鍵盤が違って見えたりもする。
緊張するから、小さい子の場合は始めだけ私も付いてあげて、椅子の高さを変えたり置く手の位置を教えてから、舞台袖にはけるようにしている。
ところが、その生徒はものすごい勝気で、本番「私も一緒に行くからね」って言ったら「ダメ、絶対一人で行く!」ときかないので、仕方なく、結局、一人で行かせることになった。
案の定、違う音から始めてしまい、明るいはずの曲が暗めになってしまった。
本人は気づいてなく、しかし、大満足で帰ってきた。
それでいいので、私は何も言わなかった。
ママは気づいていて「ずいぶんモダンな響きの音楽になりましたね。本人が楽しんで弾いていたので良かったです」と笑いながら、言った。
 

「コロナ禍のドイツで子供たちに音楽を教えるわたしの仕事」

「コロナ禍のドイツで子供たちに音楽を教えるわたしの仕事」



 
私も昔は、間違えずにうまく弾かせなきゃ、という責任のようなものが先に立ち、どうしても楽しむことが出来なかった。
この音楽教室を通して、そして自分流の生徒たちを通して音楽を楽しむということを教わって、早いもので、もう今年で7年になる。
これは音楽を仕事にしている私にとっては一生大事にしていきたいことだし、ずっと伝えていかなくてはならないとことだと思う。
 

自分流×帝京大学



Posted by 佐藤 希恵

佐藤 希恵

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Kie Sato
宮城県石巻市出身。ピアノ弾き、ピアノ講師。ドイツバイエルン州ランツベルク在住。2011年ドイツに渡る。フライブルク音楽大学卒業後、2014年よりランツベルクの音楽教室でピアノ講師として勤務。