PANORAMA STORIES

「フィーカ」、心にゆとりを忘れないヒント。 Posted on 2022/03/02 木枝 萌 学生 スウェーデン・ダーラナ地方

「いくよ!ほら急いで!」私は、友人にそう言われて、慌ててジャケットを羽織り、氷の上で滑らないように、靴にスパイクを付けて氷点下10度の外へ出た。
空には、綺麗に光るお月様。
その周りには満点の星空が広がっている。ツンとした空気が、眠っていた私の体を起こす。

「向こう!湖の向こう側、教会の上の方!」私は、友人が指す方を見て、お目当てのあれを一生懸命探した。

「出てきたよ。緑色にゆらゆらと泳いでいるのが見えるでしょう?」
その時、私は人生で始めて、オーロラを見ていた。
夜空に踊るようにして光っているオーロラ。
それは、数分現れた後に、静かに去っていった。

「フィーカ」、心にゆとりを忘れないヒント。

地球カレッジ

肌が凍りそうな寒さの中、私と友人はその美しく、優しい光を放っているオーロラを恍惚として見届けていた。
忘れられない時間だった。

私の住むダーラナ地方は、スウェーデンの心の故郷と呼ばれている。
その地方に多く残る古い建物や美しい自然は、彼らの郷愁を掻き立てるそうだ。
夏には、スウェーデンで一番大きな夏至祭が開かれ街は大いに賑わう。
冬は一面の雪景色が広がり夏の雰囲気とは一変、全てが静まり返る。

「フィーカ」、心にゆとりを忘れないヒント。

※湖が完全に凍ると、こうしてソリを使いながら登校する学生もいる。



「フィーカ」、心にゆとりを忘れないヒント。

そんな穏やかでゆったりとした時が流れている地方で、私は陶芸を学んでいる。
彫金、製本、陶芸などの工芸コースがあり、18歳から60歳までの約100人近くの学生が在学しているユニークな学校だ。

この学校では特別大切にされている時間がある。
それは「FIKA(フィーカ)」だ。
フィーカとは、甘いものと一緒にコーヒーを飲みながら休憩するという、スウェーデンの習慣である。
毎日、午前10時頃から、授業の合間に40分程の休憩時間をとる。
どんなに忙しくても、クラスメイトは必ずと言っていいほど、この時間を忘れない。

「フィーカ!フィーカタイム!フィーカー!」
準備を担当する人が、工房で皆に声かけをする。
ぞろぞろと休憩室に集まり、心地の良いソファーに皆で肩を寄せ合う。
コーヒーや、紅茶、果物や、乾燥パンにチーズをのせて食べながら、休憩をとる。
帽子やセーターの編み物をする人もいれば、カードゲームやパズルをしている人もいる。
休憩の取り方にも、個性があって、おもしろい。



フィーカの時間を過ごすとき、先生も生徒も、年齢が大きく違っても、心をオープンに話す。
人生の話、将来の夢の話、最近起こった出来事から過去の話まで。
話すことは尽きない。
何気ない会話が、深い話に発展し、思わぬ気づきを得られることもある。
温かい部屋とその空間に流れる穏やかな時間。
人と人の心が会話を通して繋がった時、幸せな気持ちに満たされる。
苦しい時も、楽しい時も、みんなが毎日40分こうして集まり、日々の忙しさを忘れ、時間と空間を共有し合う。

そこには、人々が心にゆとりを忘れないヒントが隠されている。

「フィーカ」、心にゆとりを忘れないヒント。

自分流×帝京大学



Posted by 木枝 萌

木枝 萌

▷記事一覧

神奈川県出身。2020年よりスウェーデンに移住。ダーラナ地方にある工芸学校で陶芸を学ぶ。