PANORAMA STORIES
街から離れ、村生活が始まる。 Posted on 2021/05/26 木枝 萌 学生 スウェーデン・ダーラナ地方
長い冬が過ぎスウェーデンにもようやく春がきて、桜や色とりどりの花が咲き誇っている。お日様が眩しいくらいに照っていて、生きるエネルギーを与えてくれる。目に見えるもの、耳から聞こえるもの、そよ風、全てから生命力を感じる。
何か月間もお家でオンライン授業を受けていたので、刺激のない毎日にウンザリしていた私は、新しいことを始めたいという気持ちが大きくなり、「ずっとこの状況が続くのならば、自分から何とかしてこの小さな学生部屋から抜け出すしかない」、とホストファミリーと暮らすというアイデアを思いつく。
上手くいくときは、不思議と上手くいくようで、とんとん拍子に事が進んでいった。
学生寮がある町から北に向かって数時間電車に揺られ、スウェーデン人の若いご夫婦と三人の小さな子どもたちが暮らしている小さな村にやってきた。この村は、平日はバスが一日に三本、週末は運休という田舎にある。
このご家族が二か月間ホストファミリーとなり私を受け入れてくれることになった。幼い頃から憧れていた自然に囲まれた田舎暮らしが、ついに現実となり私は本当に嬉しくてたまらなかった。
突然私が村に暮らし始めても、WIFIとパソコンがあれば問題なく授業を受けられるのは、オンライン授業の良いところかもしれない。どんな状況に置かれていても、工夫と考え方次第で良い方向に進むこともあるようだ。
ホストファミリーとの村暮らしは、人生で初めて経験することで満ち溢れている。
小鳥たちの大合唱で目覚めた後、朝一番の私の仕事は、お腹を空かせた鶏たちに餌を与え、産まれたての温かい卵を収穫することから始まる。鶏のお世話をするのは、人生で初めて。愛くるしい姿にうっとりしながら、「おはよう!」と声をかけてしまう。それから、種を植えたばかりの野菜たちにたっぷりの水を与え、日々成長を見届けている。
休みの時間は、夏に収穫予定の野菜のために畑を耕したり、鶏たちのために新しい小屋を建てたりする。良い環境で育った土はとても健康的で、掘り返すとたくさんのミミズやヒキガエルがでてくる。彼らにとって、ここは居心地が良いのだろう。美味しい空気と、お水と、太陽の光、それさえあればもう十二分。人間の私も同じで、大自然に囲まれた環境に身を置いていると、自ずと元気が湧いてきて、清々しい心地がする。最初はコロナ禍で怠けていた体にはかなり大変な作業だったけれど、しばらくすると段々と体が強くなってきて、今では重い丸太も持ち上げられるようになった。
毎週木曜日は、湖の畔にある小さなサウナ小屋に、村人たちがやってきて日々の疲れを癒す。フィンランドでサウナはとても有名だが、もちろんスウェーデンでも大人気。サウナの醍醐味は、体を温めた後に冷たい湖で水泳ができることで、真冬でも、土砂降りの雨でも、関係ないそうだ。初めて挑戦してみたら、驚くほど気持ちよかった。
ニュースやSNSなどの情報過多になっていた以前の生活から一変、その分の時間を自然と触れ合うことに使うようになり、さらに充実した日々を送れているとつくづく実感している。街に出ることももうないので、人との接触もかなり軽減された。心と体を解放してくれる、ほっとできるような田舎暮らしはやはり性に合っているのかもしれない。
ここにやって来て1か月が経ち、自然の生き物たちと共生することで、食物の尊さや、太陽と雨の恵みの有難さをより一層身近に感じられるようになった。ご家族から「暮らしの知恵」や「ストレスフリーに生きるヒント+子育て」を学びながら、自然豊かなスウェーデンの村暮らしをするという今回の貴重な経験。今までとは違う生き方をじっくり考える良い機会になっている。
Posted by 木枝 萌
木枝 萌
▷記事一覧神奈川県出身。2020年よりスウェーデンに移住。ダーラナ地方にある工芸学校で陶芸を学ぶ。