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韓国アーティストライフの手引き Posted on 2018/01/15 松尾三保子 デザイン&コーディネーター 韓国・ソウル

韓国人の夫は音楽家である。
若き日には、俗に言う所属事務所とやらにも属し、ちょいとテレビにも出たり、公演や音盤収入もあったりした。
いかにも食えないミュージシャン的ライフスタイルだったが、それはあくまで若気の至り。娘を持つ父ともなるとそうはいかなくなり、時として暫し妥協も試みた。

しかし彼は根っこから真面目な音楽家である。苦悩を重ね、視野を変えた新たな挑戦が始まった。
とある芸術家派遣事業への参加がその発端だった。
韓国には政府や芸術家福祉財団における人材派遣事業から、地域団体による芸術文化教育事業などの芸術家参加事業が多く存在し、次々と新設されている。
企画書や報告書などの書類作成や対人関係などのしがらみを考慮すると、決して彼ら向きの業務内容ではないかも知れないが、割り切れば根本は芸術活動だ。
 

韓国アーティストライフの手引き

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参加するアーティストは殆どが期間ごとに毎年公募される。
アーティストの活動履歴や作品を見て審査を受けるのだが、この時点でかなりシュールな事務仕事をこなさなければならず、自由奔放にやってきたアーティストの中にはここで既に諦める者も少なくはない。
大概の事業が半年ほどの単位で契約される。年々競争率も高まる。事業の目標は主に「創作」または「表現」。手段はほぼアーティストに委ねられる。
選抜された芸術家は企業や団体のニーズに合わせて主催者より派遣される。
 

韓国アーティストライフの手引き

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一般企業の会社員はもちろん、公務員、研究員、小学生から大学生、社会的に困難な状況にいる人々、外国人など、様々な人々の前に立ち、アーティストして芸術コンテンツを企画する。
夫の場合、作詞作曲などを講義し、ともに創作し、共演し、その結果物をレコーディングし、音盤を製作してきた。時には他ジャンルのアーティストとコラボレーションしたりと、内容は様々だ。

一方、韓国首都のソウル市では街角ライブの出演者を募集し、オーディションに合格したミュージシャンには一公演当たり一定の出演料を払い、月に数回の公演出演を手配してくれるシステムもある。
各ミュージシャンには持ち運びできる名前入りの立て看板と、月に一回、その月のスケジュールが配布される。
看板を持参して決まった日時に決まった場所に行くと担当者が出席チェックとセッティングをし、40ー50分程度のライブを行う。
かくして毎年5月から10月まで、一般市民や観光客にしてみれば、思いもよらない街角ライブがソウル市内の至る所で見受けられるわけだ。
 

韓国アーティストライフの手引き

韓国アーティストライフの手引き

芸術家の派遣は、企業の組織文化の改善から商品開発、職員のストレス軽減に及ぼす影響まで大きく期待され、年を増すごとに参加企業が増している。人との交流が困難な家出少年さえ一時的ではあるかも知れないが、話してくれたし、笑ってくれた。

アーティストには契約期間中「仕事としての芸術活動」が保証され、結果次第ではその芸術性が認められ、需要が生じる。
このように体系的に発散された芸術家の活動は、アーティスト個別で活動する場合より遥かに社会に自然と溶け込んでいく。
 

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(ソウル中区保健所2017芸術人派遣事業映像)

 
決して依存してはいけない事業に一球闘魂した契約期間が終わると、日常に戻る。どうにか次の段階に這い上がるためにモチベーションを維持しながら自己鍛錬をし、創作する。時にはマイナス10度近くを記録するソウルの片隅で、今も自身の能力と才能を試し続けている夫の努力は続く。

(ヤンスリの小学生との共同制作)

 
 

Posted by 松尾三保子

松尾三保子

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佐賀県生まれ。2004年より韓国ソウルに在住。映画、出版、音楽、旅行業界など、多彩な分野でデザイナー&コーディネーターとして活躍中。夫は韓国人の音楽家。