PANORAMA STORIES
「私たちは受け入れたい!」バルセロナの気持ち Posted on 2017/03/21 林 真弓 通訳・ガイド・イベントコーディネーター バルセロナ
2月18日バルセロナ市中心部のライエタナ通りで異例のデモ行進があった。オーガナイザー発表で30万人、警察発表で16万人の参加者が「難民を受け入れたい!」と訴えたのだ。
最初この報道を見たときは目を疑った。
世界各地での国民感情の傾向が「移民反対。難民受け入れ反対。」に向かっているように思えていたからだ。
それなのに、それとは逆に、バルセロナの市民はスペイン政府に対し、「何をぐずぐずしているんだ。もう言い訳はたくさんだ! 難民を受け入れよう。これ以上死人が出るのはまっぴらだ!」と声を上げ、大挙で行進した。
バルセロナ市の人口が約160万人であることを考えても、その規模の大きさがわかる。
このデモをオーガナイズしたのはCasa Nostra, Casa Vostra という団体。
カタルーニャ語で「私たちの家はあなたたちの家」という意味だ。
スペイン人が他人を自宅に招待するときによく使うフレーズ、’Mi casa, tu casa’ (私の家はあなたの家。自宅にいるように気兼ねなくゆっくりしてください。)というフレーズをもじっている。
発起人はRuben Wagensbergと Lara Costafredaという2人の若者。
1年前にギリシャの難民キャンプにボランティアとして行ったのが始まりだった。
2人がまず始めたのはビデオ「Vides Aturades(遮断された生活)」の制作。難民キャンプでの生活の様子を映したドキュメンタリーだ。
「難民」とひとくくりにするのではなく、一人ひとりの顔と名前を紹介して、彼らの思いと生活の様子を映し出した。(このドキュメンタリーはカタルーニャ州のテレビ局、TV3でも2月1日より10回に渡って放送された。)
SNSも駆使し、ビデオの拡散もあいまって、自然にボランティアや支持者のネットワークが広がっていった。
2人で始めた運動がいつの間にか1000人になっていた。
そしてそのコアになっているメッセージ「Volem Acollir(私たちは受け入れたい)」が市民の中で急速に成長していく。
デモンストレーションの当日。
先頭を歩いていたRubenやLaraは後ろを振り向いて驚く。自分たちの想像を遥かに超えた人の波がそこにあった。
市中心部のウルキナオナ広場と地中海を繋ぐライエタナ通り、1kmちょっとの道を人々がぎっしり埋めつくし溢れている。彼らが目指す、「政治的にではなく人間的な立場でこの問題をとらえたい。」としたムーブメントだからこそ、これほどたくさんの人が集まったのかもしれない。
「困っている人には手を差し伸べたい。死の危険にさらされている人たちを助けたい。」という、人として当たり前の感情に火をつけたのだ。
課題はもちろんある。
受け入れ後のサポート。言語、文化の問題。ただでさえ依然失業率が高く、不況に苦しみ、社会保障は削減傾向にあるスペインで本当に何万人もの難民を受け入れて住民は不満を募らせないだろうか。
2004年マドリッドでの電車爆破事件以来、スペインでは大きなテロが起こっていないが、もしこの平和なバルセロナで今テロが起こり、無実の人の命が失われたら、そのあともバルセロナ市民は難民受け入れを訴え続けるだろうか。
私はそういうことも乗り越えて難民受け入れを主張し続ける屈強さがバルセロナ市民にはあるような気がする。
先の欧州難民会議でスペイン政府の態度を批判した、バルセロナ市長アダ・コラウ氏もこの日のデモ行進に参加し、こう語った。
「ゼノフォビア(排外思想)が台頭してきているヨーロッパの中で、バルセロナは希望の都でありたい。」
オーガナイザー、Rubenのフェイスブックページには、ギリシャの難民キャンプでデモのニュースを見た人たちのコメントが載せられている。感動した人々の笑顔の写真と一緒に。
バルセロナの人々の思いは、彼らにとって具体的な希望にはならないかもしれない。
でも大きな励ましとしてその心に響いたことは間違いないだろう。
そして世界中の人々に、何か忘れていたものを思い出させてくれたかもしれない。
Posted by 林 真弓
林 真弓
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通訳は主に英日だが、使用可能言語は、日、英、伊、西、仏。
オーストラリア、キャンベラ大学で応用言語学の修士号を取得したのち、地元岡山の大学にて英語非常勤講師。英語以外の言語を学びたくなり、32歳でフランス、トゥールーズに語学留学。その後イタリア、ベネチアで約9年の滞在を経て、現在バルセロナ在住。イタリアで知り合ったイギリス人の夫とスペインに住む、という??な、でもある意味非常に欧州的な状況を楽しむ毎日である。デザインストーリーズ、バルセロナ特派員。