PANORAMA STORIES
リサイクル旅日記「旅してみたい。要塞都市、サン・マロ」 Posted on 2022/09/05 辻 仁成 作家 パリ
大人気、ブルターニュ地方の要塞都市、サン・マロをご紹介したい。
サン・マロ湾上に浮かぶモン・サン・ミッシェルは有名だが、そこから車で小一時間のところに聳える城壁で囲まれたサン・マロの旧市街も負けず劣らず世界中の観光客に大人気なのである。
長崎の軍艦島みたいな外観だけど、周辺合わせて約5万人が暮らしている。
12世紀頃に、岩礁に都市ができ始め、フランス有数の港街として発展していくが、その戦略的な帰属をめぐって争いが続いた。
16世紀末にはここに一時期、サン・マロ共和国が誕生した。
18世紀には「コルセール」と呼ばれる、国が認める海賊のような艦隊が存在し、イギリス海峡を航行するイギリス船から航行料をとることを許されていた、というのだから面白い。
そして、ここから勇敢な男たちが世界各地へと出かけていったのだ。
カナダを発見した16世紀の探検家、ジャック・カルティエもサン・マロの出身である。
なんとも勇ましい土地である。
だからかサンマロの人たちはフランス人とはまたちょっと違うし、イギリス人っぽい雰囲気もあり、独特の気質を持つ。
サン・マロを世界的に有名にしたのはもちろん城壁都市のその風貌もあるけれど、イギリス海峡から打ち付ける高潮の迫力もある。
春先や秋の終わりにこの城壁を乗り越えるようなもの凄い高潮がサン・マロに襲来する。
ぼくはいまだこの要塞を飲み込むほどの高潮を間近に見たことはないけれど、一度、打ち寄せた波が城壁の中を水浸しにして、逃げまわった経験がある。
いったい、このような波打ち際に誰がこのような都市を建てようと思い立ったのか?
それが12世紀に始まったというのだから、驚きである。
※ サン・マロの高潮はこんな感じなのである。ものすごく迫力のあるこの映像、一見の価値あり。
宿に戻る岐路にあった魚屋でぼくは獲れたての殻付きホタテを見つけた。
パリのアジア食材店で買った日本が誇る「中華三昧・塩ラーメン」にこれらをバター醤油焼きしてぶっこんだら、そりゃあ美味いだろうな、と思ったら、よだれがあふれ出た。
人間、食欲が出たら、もう大丈夫。
「ホタテください。殻はとってください」
「どのくらい?」
「え? えっと、6~7個くらいかな?」
「じゃあ、一キロだね。キロ8ユーロ(千円弱)だけど」
「OK。うまそう」
「日本人?」
「ウイーーーーーーーー」
「ああ、遠路はるばる、よく来れたね」
「パリジャンだから」
「あはは、なるほど…。日本の観光客の人に早く戻ってきてほしいな。魚の食べ方知ってるから」
「ありがとう。ぼくは今夜、刺身とソテーにするよ」
「いいね。日本人は卵(黄色い部分)も捨てずに食べてくれるから好きだ」
「あと、日本人はヒモも好き。黒いところ以外は全部食うよ」
「セブレ?(マジか?)」
「これ、今日獲れたのなら、このヒモも生で食べられるよ。ポン酢(ジャパニーズ・ビネグレットかけたら、こりこり、最高なんだよ」
「マジか、今日ってか、さっき獲れたて。しかし、俺たち、さすがにヒモは食べないなぁ」
ぼくらは笑いあった。
「海賊の子孫に褒められて嬉しい。あと、オレンジ色の卵はバター醤油で炒めると美味いよ」
ぼくの助言に感動してくれた魚屋のお兄さん、おまけにイジニー産の小さなバターをプレゼントしてくれた。
やった!
ということでぼくは、ふらりと訪れたブルターニュのサン・マロにて、日本を代表するインスタントラーメン、中華三昧塩にホタテの塩バター焼きを載せて、サン・マロ風塩ラーメンを作って食べることになったのだ。
これが、たまらん!
白ワイン舐めながら、麺をすすって、オーマイガッ!
いやぁ~、最高であった。
フランスの田舎は、長閑で美しい。
フランス各地の田舎をこれからもご紹介していきたい。お楽しみに!!!
さてと、パリに戻るとするか…
つづく。
※ちなみに、二つほど、刺身にもした。山椒、オリーブオイル、醤油、ワサビで…。笑。
Posted by 辻 仁成
辻 仁成
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作家。パリ在住。1989年に「ピアニシモ」ですばる文学賞を受賞、1997年には「海峡の光」で芥川賞を受賞。1999年に「白仏」でフランスの代表的な文学賞「フェミナ賞・外国小説賞」を日本人として唯一受賞。ミュージシャン、映画監督、演出家など文学以外の分野にも幅広く活動。Design Stories主宰。