PANORAMA STORIES
マダム・アコのパリジェンヌ通信「フランス人はじゃんけんをしない」 Posted on 2023/05/13 Ako アーティスト/フリージャーナリスト パリ
5月になるとパリジェンヌたちの話題に夏のバカンスが加わります。なにしろ夏のバカンスがあるからこそ生きられるフランス人。
夏が大好き、青く透明な海で泳ぐのが大好きな私も、フランス人と同様。先週末にやっと夏のバカンスの飛行機やお家の予約をして、その日を指折り数え始めているところです。
夏のバカンスは7月から8月。ほぼこの2ヶ月間、様々なことがストップし、パリは眠りに入ったように静かになります。9月早々には新年度が始まりますが、仕事や勉強の勢いがついたところで「さて一休み」とばかりに10月に2週間の秋休み。ほどなく12月にクリスマス休暇があり、お正月があけて「一年の始まり!新しい気持ちで頑張るぞ」と思った矢先の2月にまた2週間ほど冬休み(12月のそれは冬休みではなくクリスマス休暇です!)。「休みばっかりで仕事が進まず困ったな」と思ったあたりで、まるで「そう言わずにもう一休みして頑張って」と言われるかのように、4月から2週間余の春休みになります。今はちょうど春休みが終わり、祭日だらけの5月に入ったところです。
アーティストでフリーの物書きなら、平日も休日関係ないのでは?と思われるかもしれませんが、休暇中は家族、街、仕事仲間やコラボレーター、 国、全てのリズムがすっかりのんびりゆったりに変わるので、私にも大いに影響。ま、私の場合“遊びも仕事のうち”と、フランスの休暇リズムに身を任せ抵抗などいたしませんが。
ともあれ休暇が多いのは笑顔も睡眠も増え生活に潤いを与えてナイスなこと。ですが、しばしば朝目が覚めて「ああ今日もまた休日だわ… !」と思います。そして「子供たちは、今日もまた学校がない…」。
小学校から大学まで、フランスの子供たちの登校ペースはこんな風に何十年変わらず、日本と比べたらかなり少ない。それでも「フランス」は「フランス」であり続け、飽きるほど休暇を楽しむ人生でありながら、日本と比べても、勉学、芸術、諸々が特に劣っているわけではないのは、凄いこと。
なぜでしょう??
人生の半分日本、半分フランスの私が、それに独断と偏見と単なる直感でお答えしましょう。
まず、フランスでは親が人前で子供を堂々と褒め讃えるのが日常であること。
子供は自分の得意なことや、自分でも気がつかなかった利点を、立派な大人たちの前で褒められると、喜び以上に、言い得ぬ自信がつきます。それは学校の成績表以上にインパクトがあって、僕すごいみたい!私、特別みたい!という、心にポンと植えられた小さなタネは、グーンと伸びゆく。自然に勉強欲が出きて、吸収力はマッハになります。従って登校日数が少なくてもなんのそのなのです。
小学生も高校生も、(実は大人のあなたも!)、どんな小さなことあれ堂々と人前で褒められる=認められると、時に人生を変えてしまうくらい生き生きした、美しいエネルギーが養われるものなのです。
もう一つは、ジャンケンをしないこと。
何かを決める時、平等であるために、フランスではジャンケンをしません。「紙鋏石」という同じものありますが滅多に使いません。
小さな頃から何かを決めるために、例えば学校ごっこの先生役をしたい人がたくさんで誰にするか、おもちゃを使う順番…、 日本の子供たちがジャンケンで決めるだろうありとあらゆる場面で、フランスの子供たちは話し合いをします。言葉ができるようになった時からです!言い合いになることがしばしばでも、自分の意見を他人に伝える、人の意見を聞いて他の子の視点を知る、納得させる、理解して譲る、理に適う敵わないという感覚、を、遊びながら日常で学ぶ子供たちの頭は、鍛えられます。すべての因果を運に任せたジャンケンは、喧嘩は減らせますが、思考力も同時に減らしています。
書を捨て町へ出よ、と寺山修司は言いましたが、確かに町で人と交わるとこのように学びがいっぱい。しかし書にも学びがあることを知っているフランス人は「では半々で」と「一年の半分はバカンスで半分くらいは学校へ」としているのかもしれません。
私の「遊びも仕事のうち」の仕事は実はそんな学びのこと。それは子供たちも大人にも当てはまりそうですよ。そんなわけで、みなさんの今年の夏休みが、いつも以上に長くなることを願っています!
Posted by Ako
Ako
▷記事一覧東京生まれ。1996年よりパリ在住。セツモードセミナー在学中にフリーライターとして活動を始める。パリ左岸に住みアートシーン、ライフスタイルなど、生のフランスを取材執筆。光のオブジェ作家、ダンスパフォーマーとしても日々活動。