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London Music Life 「パブからアビーロードへ:始まりはオープンマイクナイト」 Posted on 2023/12/23 鈴木 みか 会社員 ロンドン

ロンドンの新人ミュージシャンが立つ最初のステージとして、路上パフォーマンスを思い浮かべる人も多いだろう。バスキング(Busking)と呼ばれる路上パフォーマンスは、場所によってはオーディションに合格してライセンスを取る必要があり、実はハードルが高い面もある。それよりも、敷居が低く、誰でもチャレンジできるのが、オープンマイクだ。 



オープンマイクは、名前の通り、誰にでもオープンなパフォーマンスの場だ。主にはパブやバー、ライブハウスなどで開催されているが、どこにでもパブがあるロンドンのこと、街にひとつくらいはオープンマイクをやっているパブがある。


オープンマイクの仕組みはとてもシンプル。当日の集合時間に行き、リストに名前を書くだけ。持ち時間は1人約15分程度(事前登録が必要な場所もあり)。レベルは不問の事が多く、人前で演奏する経験を積み、パフォーマンスの質を上げていくには、ぴったりの場所だ。ジャンルの決まりはなく、弾き語り(オリジナルでもカバー曲でも良い)はもちろんのこと、詩の朗読やコメディ等様々だ。



オープンマイクは、基本的にはミュージシャンからも、お客さんからもお金を取らない。ミュージシャンは、集客を気にせずに、人前で演奏する場と観客のフィードバックが得られる。

お客さんは、飲みや食事のついでに生の音楽が聴け、お気に入りの音楽と偶然に出会えたりもする。
パブにとっては、生演奏で楽しくご機嫌になったお客さんに、ビールがさらに売れる。と、三方良しの仕組みなのだ。


London Music Life 「パブからアビーロードへ:始まりはオープンマイクナイト」



多くのオープンマイクでは、外部のオーガナイザーが、音響機材を持ち込み、司会進行もする。オーガナイザーによって、雰囲気も全く違い、アットホームなもの、段取りがきちんとしているもの、最後は出演者でジャムになだれ込むものなど、様々。また、オーガナイザー自身もミュージシャンであることが多く、ミュージシャン同士の交流や情報交換も、この場でたくさん行われている。
ミュージシャンにとっては、単なる腕試しの場というだけではなく、ネットワーキングの場でもあり、その後の縁やチャンスにもつながっているのだ。

演奏が盛り上がれば、知らない人がどんどん声をかけて感想を言ってくれるし、ソーシャルメディアでもすぐにシェアされる。
たまたま食事をしていた夫婦が「私たちのサロンで演奏してみないか」と声をかけたり、オーガナイザーが「君はバスキングでも観客を魅了できると思うから、僕の知り合いに連絡してあげるよ」と言ったり。いいと思った音楽に対して、気軽に声をかけ、サポーターが現れるのもロンドンらしい光景かもしれない。

London Music Life 「パブからアビーロードへ:始まりはオープンマイクナイト」



私も、自宅から近いパブのオープンマイクで、若くて個性的なインディーロックの演奏に魅了され、声をかけて、その後のライブも見に行ったのだが、数か月後には、彼女が次世代アーティスト発掘プロジェクトに抜擢され、アビーロードスタジオでレコーディングをしていることに驚かされた。



こんなふうに、新しい音楽と出会い、彼らのキャリアの超初期を間近で見られることには、宝探しのようなワクワクがある。また、誰もが気軽にアクセスできる地域密着のパブで、日常的に次世代パフォーマーを育てていることにも、人々の音楽やライブを大切にする思いが見えてくる。

ロンドンを訪れた際は、オープンマイクナイトをやっているパブを検索して訪れてみてはどうだろうか。そこは、演奏者と観客という隔たりもなく、日常生活に音楽があることの喜びを共に分かち合い、楽しめる空間だ。

自分流×帝京大学



Posted by 鈴木 みか

鈴木 みか

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会社員、元サウンドエンジニア。2017年よりロンドン在住。ライブ音楽が大好きで、インディペンデントミュージシャンやイベントのサポートもしている。