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London Music Life「ロンドンのライブハウスから南仏へ:音楽が繋ぐ夏と友情」 Posted on 2024/08/27 鈴木 みか 会社員 ロンドン
2年半ほど前、友人のライブを観るために、カムデンタウンのライブハウス「フィドラーズエルボー」のオムニバスライブに足を運んだ。パンクロックの聖地で新たな才能を発掘し続けるオーガナイザーが主催するそのイベントでは、まだメジャーになっていないミュージシャンたちが熱い演奏をしていた。
その日は、各ミュージシャンの友人が数人ずつ来ているだけで、出演者と観客の人数がほぼ同じくらいだった。ロンドンのライブハウスではよく見られる光景だ。
フランス出身の女性ミュージシャン、Moonya(ムーニャ)がステージに立った。周囲はロック色の強い雰囲気だったが、彼女はルーパーを使い、一人でギター、ドラム、キーボードの音を重ねていく。アンビエントとポップが融合した独特のサウンドと力強いパフォーマンスに、私はすっかり心を奪われた。
Moonyaの友人たちもまた、独特の雰囲気を持っていた。他のバンドが演奏している時でも、ステージの前に出てきて、ノリノリで踊り始めるのだ。「自由でいいな」と後ろから見ていたが、その中のひとり、マリー(仮名)さんが私の友人の演奏を気に入り、ライブ後に話しかけてきた。そして、「夏にフランスの自宅でパーティーをするから、ぜひ演奏しに来てほしい」と誘ってくれた。
Moonyaのライブを見るためにわざわざフランスからやってきたという彼女。最初は酔った勢いでの社交辞令だろう、と半ば聞き流していたが、なんとその後、友人が本当に彼女のパーティーで演奏することになった。これは面白そうだと、私も観に行くことにした。
マリーさんは、実はスコットランドの貴族の末裔で、南仏の田舎にあるワイナリーを含む広大な土地を切り盛りしている。彼女のパーティーは、ホームパーティーのイメージとは違い、村祭り並みの規模で、中世のホースショーやファイアージャグリングがライブ演奏とともに繰り広げられる、想像を超えたイベントだった。
馬小屋を改築したシアターではMoonyaをはじめ、フランスのミュージシャンが次々と演奏をしていた。音楽好きで、ロンドンで舞台パフォーマンスも学んだこともあるマリーさんは、自身でもパフォーマンスをする。
この古いお屋敷で毎年開催される夏のパーティーは、幼馴染や長年の友人たちが集まって作るアットホームなイベントだ。みんなで同じ釜の飯を食べ、役割分担をしながら、まるで夏の合宿のような雰囲気が漂っている。
マリーさんがすべてを仕切っているため、パーティー前日から当日はバタバタになる。エンターテイメントが盛りだくさんで、予定も刻々と変わり、とにかくカオスなのだ。あまりに心配になり、気づけば音響を手伝うことに。そうしているうちに、いつの間にか裏方チームの一員になってしまった。重要なのは、冷静さとトラブルに動じないメンタルだ。世代も近いマリーさんとは、自然と友情が芽生えていった。
そして、フランス人は夜中まで踊り明かすのが恒例。DJ機材もないので、スマホをスピーカーにつないで、ノリのいい曲を流し続けるのも私の役割に加わった。
こうして毎年恒例の行事となり、気がつけば今年もまた南仏で、ホコリまみれの機材やケーブルを掃除しながら、コンサートの音響サポートに追われていた。バカンスとは程遠いが、日常の仕事から離れて、わいわいと過ごす時間が良い気分転換になる。毎年参加するメンバーにはイギリス人も多く、ロンドンに戻ってからもソーシャルメディアでお互いの様子をアップデートし合っている。南仏の慣れない土地で聞くブリティッシュジョークは、皮肉が効いていてほっとするし、結束を強めてくれる気がする(笑)。
ロンドンのライブハウスでの偶然の出会いが、音楽を通じて南仏の山奥へと私を導き、多くの友人を与えてくれた。お互いをよく知らないままでも、「悪い人ではなさそうだから、乗ってみるか」という直感に従ってみた。リスクを恐れずに一歩踏み出すことで想像もしなかった世界につながることもあるから、人生って本当に面白いと思う。
Posted by 鈴木 みか
鈴木 みか
▷記事一覧会社員、元サウンドエンジニア。2017年よりロンドン在住。ライブ音楽が大好きで、インディペンデントミュージシャンやイベントのサポートもしている。