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London Book Life「疲れた心に詩のお薬を – ポエトリー・ファーマシー」 Posted on 2024/12/24 鈴木 みか 会社員 ロンドン

 
ロンドンの繁華街、オックスフォード・ストリートの喧騒を抜けた先に、最近お気に入りの場所がある。「Poetry Pharmacy」という名の、本屋兼カフェだ。名前の通り、詩や言葉をテーマにしているのだが、その仕立てが「薬局」風なのが何ともユニークで、足を踏み入れるとちょっとした驚きと遊び心を感じる。

この店舗は、詩の持つ癒しの力に注目して誕生した。ロンドン中心部の「Lush Studio Soho」(日本でもバスボムでおなじみのLush)が期間限定で実験的に始めたプロジェクトで、2023年末に正式な常設店としてオックスフォード・ストリートにオープンした。訪れる人々が自分の心の状態に合った詩を見つけられる空間として、多くのお客さんを集めている。
 

London Book Life「疲れた心に詩のお薬を – ポエトリー・ファーマシー」

 
店内でまず目を引くのは、心の症状別に並んでいる本のコーナーだ。「緊急患者用」のFirst Aid、「安らぎ」が必要なCalm、「愛」に満たされたい人のためのLove、前向きになりたいときのInspirationなど、その分類に導かれて本を手に取ってみるだけでも、いろいろなヒントがもらえそうだ。
 



London Book Life「疲れた心に詩のお薬を – ポエトリー・ファーマシー」

 
そして特にユニークなのは、「詩の薬瓶」だ。瓶には様々な処方ラベルが貼られ、中にはカプセル型のケース。その中に、短い詩や言葉が書かれた紙が丸められて入っている。私はInspirationの瓶を手に取りレジに向かうと、名前と好きな飲み物を聞かれ、店員さんが読み方の「処方箋」を書いてくれた。こんなフレンドリーで心温まるやり取りにも、ほっこりとした幸せな気持ちになる。
 

London Book Life「疲れた心に詩のお薬を – ポエトリー・ファーマシー」



London Book Life「疲れた心に詩のお薬を – ポエトリー・ファーマシー」

 
店内を見渡すと、薬瓶のかわいらしさに夢中になっている人々や、じっくりと本を選ぶ人々、色鮮やかに並べられた文房具やインスピレーションカードを手に取る人々の姿がある。そのカラフルな空間には、カラーセラピーのような癒しの効果も感じられる。ちなみに、ちょっとダークな気分を味わいたい人向けに、Poison(毒)のコーナーも用意されているという遊び心も。
 



London Book Life「疲れた心に詩のお薬を – ポエトリー・ファーマシー」

 
そして小さなカフェスペースでは、紅茶やコーヒーを注文すると詩が添えられる。フラスコに入った紅茶とともに窓の外を眺めれば、喧騒の中にいながらも穏やかなひとときを過ごせる。
 

London Book Life「疲れた心に詩のお薬を – ポエトリー・ファーマシー」



 
近年、イギリスでは詩集の売り上げが過去最高を記録していて、特に若者が詩に惹かれているという。学生たちは学校の授業でも詩に親しむ機会が多いと聞くが、詩の力強く簡潔なメッセージ性はSNSとも相性がよく、短い時間で情報を得ることが当たり前となった現代社会において再び受け入れられているのだろう。

「Poetry Pharmacy」に心惹かれるのは、そんな詩を身近でポップなものとして捉え直している点だ。「詩の専門書店」という堅苦しい印象は一切なく、詩を読むことへの気軽さや楽しさが感じられる。店内には、詩を通じて訪れる人々を元気づけたいという店員さんたちの愛情と遊び心があふれている。

心が疲れたとき、詩や言葉にふれることは、小さな癒しのきっかけになる。好きな詩集を手に取り、気分に合わせてページをめくる。あるいは、日々の出来事を短い言葉で書き留める。そんな小さなことが、意外な発見をもたらすこともある。薬瓶を手に入れなくても、このお店のコンセプトは、日常にも応用できる気がする。紙の本だからこそ伝わる温かさと、言葉の癒しの力。その魅力を日常で改めて感じてみてはどうだろうか。
 

London Book Life「疲れた心に詩のお薬を – ポエトリー・ファーマシー」

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Posted by 鈴木 みか

鈴木 みか

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会社員、元サウンドエンジニア。2017年よりロンドン在住。ライブ音楽が大好きで、インディペンデントミュージシャンやイベントのサポートもしている。